春になると取り出す魔法の小箱。
中身は電気バリカンとハサミとクシと刈布。
新中学生のヘアカットのためだけ用意された大事な道具。
だって、バッサリだもん。
さてさて、ご来店ですよ。
にこにこ顔のお母さん。
「この子を丸刈りにしてください」
待ってました。
「中学生になるんですか」
「そうです」
「おめでとうございます」
うきうきしながら電気バリカンの準備。
男の子の様子をそーっとうかがう。
そわそわしている男の子。
さあ、座ってください、わたしの可愛い天然パーマくん。
わたしが電気バリカンを手に持つと、いつものように始まりました、にらめっこ。
バリカンのスイッチが入りました。
男の子の顔が、一瞬、ひきつる。
ぐっとおさえて、バリカンがおでこから入っていく。
ウィ~ン、ジリジリ、ジジジジジィ・・・。
天然パーマがどんどん刈布、床に落ちていく。
ドサドサドサ・・・。
鏡越しに、天然パーマくん、わたしをにらみつけています。
ふふふ・・・。
わたしの春の断髪専用電気バリカンは、容赦なく天然パーマを次々に刈り取っていく・・・。
ほうら、まるぼうず!
あとは仕上げねぇ。
バリカンのスイッチをいったん切ります。
男の子は放心状態。
手で、頭の上の毛を、パパッと払ってやります。
再びバリカンのスイッチが入ります。
ウィ~ン、ジジジ、ジリジリジリ・・・。
わたしの握るバリカンは、男の子の頭を行ったり来たり。
男の子はなんとも情けない顔で、下を向く。
ふふふ・・・。
さっきの生意気はどこいったの?
こうなるのはわかってました。
さぁ、終わったよ。
さっきの天然パーマは、今では、青々したマルコメ坊主。
くっ、くっ、くっ、笑える・・・。
両手で細かい毛をシャカシャカ払う。
その時見た、男の子のぶすっとした顔。
ワハハ・・・、思わず、わたしは声を出して大笑い。
そしたら、男の子、ますます怒ると思いきや、照れてニッコリ。
わたしは嬉しくなって、男の子の坊主頭を、ペシッとたたいて言いました。
「マルコメ小僧、一丁あがり!」
お母さんも大爆笑。
男の子はますます照れて赤くなる。
マイスイートマルボウズ!
さてさて次のお客さん。
またお母さんと一緒ですよ。
「この子、中学生になるんです。カットお願いします」
「どうされますか?」
「校則でロングヘアーはダメなんです。短くカットしてあげてください」
待ってました。
わたしはいそいそと春の断髪専用オカッパハサミを取り出す。
お母さんに、「オカッパがいいですか、ショートカットがいいですか?」と聞く。
「そうですねぇ、お任せします」
「わかりました。では、ショートカットにしましょう」
女の子はわたしをジロリとにらみつける。
ふふふ・・・。
わたしはニッコリしてほほえみ返す。
さあさあ、座ってください。
刈布から、どっさりと引っ張り出される女の子のロングヘアー。
ほのかなシャンプーの香り。
クシでしっかりととかします。
その後、春の断髪専用オカッパハサミの登場です。
シャキーン。
ハサミを開いて、クシを片手に構えるわたし。
女の子の顔が恐怖でひきつる。
ふふふ・・・。
また始まりました、鏡から目をはなすいつもの仕草。
シャキシャキ、パサ、パサ。ジョキジョキ、バサ、バサ・・・。
長かったロングヘアーは、一気にオカッパに。
オカッパさんは口をぽかんと開けてまぬけ顔。
前髪だってピシッとオンザマユ。
わたしのロングヘアーをうらめしそうに見つめるオカッパさんのいたいほどのまなざし。
ふふふ・・・。
さっきの生意気はどこいったの?
その後、こちらも春の断髪専用ショートカットハサミに持ち替えて・・・。
耳の周りをカットします。
サクサクッ、チョキチョキチョキッ・・・。
きれいなお耳が両方とも出ました。
やっぱり、ショートカットは、耳は出す!
後ろの髪を仕上げします。
すこ~し、刈り上げようか・・・。
シャキシャキッ、シャキシャキシャキッ・・・。
チクチク、ゾリゾリ・・・。
電気バリカンも使いたいけど、それは我慢・・・。
でも、ちっちゃいのだったらいいわよね・・・。
ふふふ・・・。
お店の棚をゴソゴソ。
ありました、ちっちゃいバリカン。
スキカルみたいだけど、スキカルじゃない。
立派な業務用バリカンです。
バリカン片手に、スイッチオン!
女の子の顔がさっとひきつる。
だ~いじょうぶ、だ~じょうぶ・・・。
ウィ~ン、ジョリジョリジョリ、ジジジ・・・。
はい、終わったよ。
あ~ら、こんなに短くなっちゃって・・・。
思ってたより、短くなっちゃったわね。
少し青くなってチクチク、ゾリゾリ・・・。
か~わいい~!
さてさて、剃刀の準備です。
うなじともみあげをゾリゾリゾリ。
ピシッとそろってラインくっきり。
さぁ、終わりましたよ~。
刈布をサッと取ると、そこには、ショートカット美人がいました。
短くなった毛では、もうシャンプーの香りはしませんね・・・。
くっ、くっ、くっ、笑える・・・。
「1,500円です」
お金を払うお母さん。
わたしのロングヘアーがうらやましいのかなと思い、ショートカット美人の顔を見ると・・・、パーッと明るいニコニコ顔。
わたしは思わず嬉しくなって、ショートカット美人のトップの短い髪をつまみあげる。
「カット前はわたしのこと、ムカついてた?」
「おばさんのロングヘアーがくやしかったです」
「今はどう?」
「今もくやしいけど・・・」
「こどもは短い髪のほうが清潔感があっていいのよ」
「そうですか・・・」
「サッパリしちゃって、かわいいじゃない!」
ショートカット美人は思わず照れ笑い。
わたしは思わず、ブローした女の子の短い髪をくしゃくしゃにしてしまった。
ショートカット美人はますますニッコリ。
ワハハ・・・。
わたしは大満足で大笑い。
お母さんも大笑い。
女の子も大笑い。
三人で大笑い。
これがあるから春はいい。
