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思索とアートとヘアカット
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第四章 ホビットの村

トリスタンとロイスとルキアとナディの一行は、ホビットの国へと向かったのだが、ここでホビットについて、記しておきたい。

ホビットは、ドワーフと同じくらいの背丈をしている。人間というと、十歳の子供くらいの背丈である。ドワーフが、ずんぐりした筋肉質なのに比べて、ホビットは、ひょろっとした体型である。たまに、ぽっちゃりしたホビットもいる。足には毛が生えており、靴を履く必要がない。動きが敏捷(びんしょう)で、物影に隠れるのが得意である。ホビットは、多くても五百人くらいの集団でしか暮らさない。村もしくは庄(しょう)である。中心となる町はない。街道の密集地店が、域内に五ヶ所あり、定期的に市(マーケット)が開かれる。近くで市が立った時は、ホビットは、不要品や余った農作物や売りたいものを持って市に赴く。市には、近隣のホビットたちが集まってくる。市は、七日日間開催される。ホビットは平和と農業を愛している温和な種族である。「戦争」というものを知らない。人間が戦争をする話を聞くと、決まって不思議そうな話をする。ホビットは喧嘩をすることがある。しかし、個人的な争いは、あっても、集団に分かれて争うことはない。ホビットは土の中に横穴を掘って暮らしている。家具は、木製の温かみのある物を好む。すべてが一目盛(スケール)、人間より小さい。ホビットの恋愛は、人間とさして変わりがない。時に、恋敵(こいがたき)となって争うこともある。ホビットの髪は、茶色か金色である。ホビットの魅力的な女性は、乳房が大きいとされる。ピンク色の頬(ほほ)が健康的で良いとされる。寿命は最長で二百年で、人間より長い。ドラゴリス教徒のホビットはいない。民間信仰として、ホビティアと呼ばれるものがある。アニミズム的宗教であるホビティアでは、竈(かまど)の神や、厠(かわや)の神、倉の神、井戸の神などの場所に関する神を始めとして、剣(つるぎ)の神、槍の神、弓の神、金槌(かなづち)の神、包丁の神、小刀(ナイフ)の神などの道具に関する神、出産の神や、料理の神、農業の神、釣りの神などの行為の神、春の神、夏の神、秋の神、冬の神などの季節の神といった具合に多種多様、森羅万象、全てに神を見る。ホビティアには、呪術師であるホルムスと呼ばれるホビットの職業以外、聖職者や宗教家はいない。ホルムスは、女性であり、人間のストリガに似て、薬草に詳しく、産婆をやり、呪術や占いをする。十年ほど前から、ゴルムント教が、ホビットの地域(くに)で、布教をしている。ゴルムント教の布教は、ゆっくりと、ホビットの信者を集めている。

トリスタンの一行は、ドンバ王国の首都イスファを出ると、駅馬車にに乗った。駅馬車を乗り換えること四回、五日で、ホビットの地域に到達した。ホビットの地域には、通行証は必要ない。関所もない。一番近いホビットの村は、セラニア庄であった。一行は、少々疲れており、ちゃんとした宿屋に泊まろうと思っていた。駅馬車の昇降場(しょうこうば)から、歩いて五時間、ようやくセラニア庄に到着した。一行の疲労は頂点に達していた。転がり込むようにして、《バインズ荘》という宿屋に入って、すぐに、眠りについた。翌朝、目が覚めると、宿屋のおかみさんが、心配そうに、牛乳(ミルク)を持って、やってきた。三人と一匹は、感謝して牛乳を飲み干した。

「しかし、疲れたねぇ」とロイス。苦笑(にがわら)いをするトリスタンとルキア。ナディは、元気よく吠えた。朝食が出た。卵を溶(と)いて炒(いた)めたもの、くん製肉の切れ端、キャベツを茹(ゆ)でたもの、砂糖ミルクが出た。ルキア、何か話てくれよ、というのがロイスとトリスタンの考えであった。ルキアは、弓をもっとうまくなりたいと言った。刀(ブレード)が、一番したかったけれど、両親が反対してできなかった、という。魔法は、と聞くと、白魔術の回復魔法はコスパ、呪いを解くゲラス、単純消毒のポントができる。黒魔術は、相手の動きを鈍くするラーホイ、相手に弱い呪いをかけるグラヨン、相手の眠気を誘うホンラができるという。それだけできれば十分だ、とロイスが言った。あなたは?とルキアが聞くと、白魔術しかできないとロイスが答えた。てっきり黒魔術師と思った、とルキアは疑い深い目でロイスを見た。トリスタンは、槍と剣の使い手だが、山賊には、一度しか、遭(あ)わなかった、と言った。ルキアは、槍を教えて欲しいと、トリスタンに言った。いいよ、とトリスタンが応えた。一行は、この宿屋で、三日ほど休むことにした。バインズ荘のおかみさんと、手伝いの二人以外のホビットは、トリスタンたちに、よそよそしかった。ホビットは人間に対して警戒心が強い。ホビットは、人間よりも野生動物と親しくする。不思議と、野生動物は、ホビットを襲わない、ホビットは、手づかみで、川魚を漁(と)ることができるほどであるが、武術は特にしない。ロイスは、あえて、ホビットの友達をつくりたいと言った。ちょっとした自慢になるからだ。ロイスは宿屋で出会ったホビットに話しかけた。ホビットは打ち解けなかったが、トリスタンに興味を示した。トリスタンは以前から犬のナディと仲良くしていた、ホビットたちはウサギを連れて来た。トリスタンはウサギに興味を示し、仲良くなった。
「やっぱり、君はちがうね」ホビットの一人が言った。「君は、動物と話ができる。動物の気持ちがわかるね」
「あなたの名前は?」
「トリクだよ。僕らの長(おさ)に、君を会わせたい。君はホビティアを使う資格がある。つまり、ホビットと友達になれる」
「トリスタンさん、やったじゃないですか。ホビットと友達になると、ホビティアを使えるんですね」
トリクは、トリスタンだけを連れていくと言い張った。ロイスは、ぜひ自分たちも連れて行ってくれと言った。トリスタンは、ロイスと、ルキアと、ナディが旅の仲間であることを説明した。トリスタンが、ホビットの長(おさ)はどこに居(い)るのか尋ねると、サナウス庄だと言う。サナウス庄と言えば、ゴルムント僧官のバラリアが語っていたボンペイ寺院というゴルムント教寺院があるホビットの村出会った。ロイスは、ちょうど良かったと言った。ホビットの長の名は何かと聞くと、トリクは、ケイレン・バキンズだと言った。サナウス庄までは、駅馬車で三日であった。サナウス庄に着いた。
「トリスタンともうされるか。ホビティアを使うことの出来る人間の若者が出てくると、風に聞いていました」ケイレンは言った。
「風に?」
「ホビティアは、風で未来を知ることができるのです」
「ここの風景は、誘導書(ガイウス)が見せる風景と似ています」とルキアが言った。
「ボンペイ寺院と言うのがあるんでしょう?」
「ある。最近、出来たのだよ。ゴルムント教の寺だ。そこの娘さんは、オークと何か関係があるんじゃないかね?」
「ゴルムント僧官の導きで、ここに来ましたルキアと申します」ルキアは頭を下げた。
「誘導書(ガイウス)は何を意味していたのだろう?」
「われわれは、オルロンの槍を求めて旅をしています。途中出会ったオークのゴルムント僧官から、わたしの主人であるトリスタンの持っているウリドラ聖書が誘導書(ガイウス)であると告げられ、導かれてここまで来ました。ここにはゴルムント教のボンペイ寺院もありますし旅の指針を求めています。何かお言葉をいただければ幸いなのですが」ロイスが言った。
「ホビティアを使うことのできる人間が稀有(けう)であることは確かだとして、何らかの役割でここに来ていることになる。私の知己(ちき)にホビティアの呪術師ホルムスがいるから、まず会ってくれ。今から呼ぶから」ケイレンは下働きのホビットに使いを頼んだ。二時間ほどして、使いは、一人のホルムスを連れて来た。
「ホルムスをやっているグノロです。よろしく」
「ホビティアを教えてくれるんですか?」
「ホビティアには三つの基礎があります。神々の名前と、儀式と、瞑想です。この基礎を知れば、後は応用で対応できます」
「習得には時間がかかりますか?」
「それはあなた次第です」
ホビティアの修行は二週間続いた。風の気持ちを知るという課題が最も難しかった。トリスタンは、風によって未来を知った。黒輪の誉れに接触するには、ドワーフに、《怒号の石》を見つけてもらわないといけないという。トリスタンは、ケイレンにドワーフについて聞くと、ボンペイ寺院に出入りしているドワーフがいるから会ってみるといいと告げられた。トリスタンたち一行は、ボンペイ寺院に行った。寺に出入りしているドワーフの名前は、ゴマイトであった。ゴマイトは、そんな石は知らないと言った。自分たちで、ドワーフの所に行って探すといいと言った。丁度、ドワーフのところへ行く予定のホビットがいたので、一緒に行くことになった。ホビットは三人いた。ドラクメ金貨を五十枚くれれば、馬車を専有できるということだ。トリスタンは、気前よく払った。馬車は幌馬車(ほろばしゃ)だった。ルキアは、ホビティアを習得したトリスタンを少し尊敬すると言った。心なしか、その時、顔を少し赤らめたようだった。
「あなたたちは夫婦じゃないの?」ホビットの女が尋ねた。
「ルキアと僕は旅の仲間だよ」
「わたしは、今度、結婚するの。結婚の準備と、主人になるこの人、トンスの仕事の関係で、ドワーフの所に行くんですよ」
「あなたの名前は?」
「わたしの名前はロマヌよ」
「ドワーフの所まで何日かかるかな?」
「一週間はかかるだろうね」トンスが言った。
「行くのは大変?」
「馬車で行くから、大丈夫だよ。山に向かうからね」
トリスタンたちは、その翌日、ドワーフの元へと出発した。


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