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思索とアートとヘアカット
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川口尋子さん(統合失調症)

  加来病院二病等棟診察室

加来典誉 はじめまして。先代の院長に代わって、わたしが主治医になりました、精神科医の加来典誉です。川口さんですね。川口尋子さん。どうぞ、よろしくお願いします。何歳ですか?
川口尋子 十九歳です。
加来典誉 はい。まだ一ヶ月経ってないですね。最初、保護室に入ってたんですね。そうですね、どういう理由で入ったのかな。あの、心の悩みがありましたか?
川口尋子 ありました。
加来典誉 それが原因ですね。寝てましたか?
川口尋子 寝てなかったです。
加来典誉 食べてましたか?
川口尋子 食べてなかったです。
加来典誉 それが原因で入ったんですね。寝てない食べてないで、人間の精神はおかしくなります。治さないと出れません。入院の目標はですね、心の悩みを治すってのもありますけれど、まず、寝ること、食べることを、きちっとやるということを目標にしています。それができたら退院です。それから、社会に出て、おかしな人と見られないようにするということ。例えば、大声を上げて通りを歩いてみたり、服を脱いでみたり。そういうことをするのであれば退院させることはできません。あとは、川口さんにピッタリのお薬を見つけてから退院してほしいというのがあります。カルテを見ると、まだちょっと興奮しているような状態が見られるようですね。まぁ、ちょっとどうしても退院と急がれているようですから、今日聞きますけれどね。川口さんは心の悩みって、恋愛ですか?
川口尋子 恋愛じゃないです。
加来典誉 嘘じゃないかな。
川口尋子 はは、なんでわかるんですか。
加来典誉 なんとなく焦っているっていうので、恋愛だと思って。好きな人がいるんですか?
川口尋子 好きな人がいます。
加来典誉 どういう人ですか?どういうい人って聞いたらいけないですかね。
川口尋子 聞いてもいいです。
加来典誉 どこの男の人ですか?
川口尋子 学校の。
加来典誉 大学?
川口尋子 専門学校です。
加来典誉 一緒になりたい。一緒になれなかったんですね。その人がいいのか、絶対にその人じゃないといけないのか、その人みたいな人でもいいのか、それはどっちですか。
川口尋子 その人みたいな人でもいい。
加来典誉 そしたら、その人じゃなくても出会いはありますよ。その人がね、川口さんみたいな女性が好みかどうかわからないわけです。男性というのは好みがありますからね。例えば、背が高い人が好きな人、わたしはどちらかというと背が高い女の人が好きです。背が小さい人が好きな人もいます。胸が大きな人が好きな人がいるだろうし、髪の毛がストレートで多い人がいいという人もいるし、そんなのは気にしない、胸が大きければいいという人もいます。好みがあるからね。川口さんみたいな容姿が好みの、今、川口さんが好きなタイプの男性が現れれば、うまくいくわけです。だから、無理やり今、好きな人と一緒になろうとしても無理な話。探さないといけない。いっぱい人と接してね。どうやって接するかでしょ。出会い系のバーっていうのがあるんですよ。わたし何度も何度も患者さんに言っているんですけれどね。大名あたりにあるらしいんですよ。女の人がね、川口さんみたいな人がカウンターに座るんですよ。あら、二十歳以上が飲酒可能かな。二十歳になってからね。オレンジジュースならいいのかな。入ったらダメなのかな。まぁ、二十歳になってからです。で、座ってて、「ちょっといいですか」って男の人がやって来るわけです。あんまり好みじゃなっかったら、「ごめんなさい、わたし、ちょっと合わない感じ」というと、どっかに行ってくれるから。ずっと試している間に、うまく行くということです。まだ、私服を見たことがないから、部屋着しか見たことがないから、どれだけ川口さんがお洒落する人がわからないから。お洒落にはなっとかないといけない。髪の毛もきちんとして。似合う髪型と洋服にして、そういう所に行って、うまく彼氏が作れるといいですね。とりあえずその人じゃないといけないというのは・・・、その人は一緒になってどれくらいですか?
川口尋子 一年です。
加来典誉 うまくいかなかった?
川口尋子 うまくいかなかったです。
加来典誉 あんまり、好みじゃないんじゃないかな、川口さんのこと。悪いけどね。男は違うけどね。女の人のことを男が好きになって、一回、ダメって言われて、あきらめるようでは、それはいけない。
川口尋子 そうですか?
加来典誉 やっぱり食らいついていく男の人が好かれます。ストーカーはしてはいけないですけどね。食らいついていく男の人を女の人は好きになります。ここまでわたしのことを愛してくれているということで、嬉しくなって一緒になるとか。男の場合は、好みというのがあるので、無理ですね。そういうふううになっているです。身体が。脳がね。だから、例のその人みたいな人で、川口さんみたいな人が好みだという人を見つけれるのが目標です。そんなに急がなくていいですよ。もうちょっと待ってください。少し、精神が落ち着いて、食事をちゃんとして、夜、ちゃんと寝て、ゆっくりしているということがわかって、退院だから、長くて三ヶ月と思ってください。後、もう一ヶ月以内にはもう出られるんじゃないかな。できそうじゃないかなと思ったら、外泊させますから。させますって言ってごめんなさいね。外泊して、外で泊まっていいですから。自分の家で。アパートですか?
川口尋子 アパートです。
加来典誉 実家があるでしょ?福岡市内に。
川口尋子 あります。
加来典誉 じゃあ、そっちの実家に泊まってください。そっちのほうが楽じゃないかな。退院してしばらくは、もちろんアパートもあるだろうけど、実家に暮らしたらどうですか?で、少し経ってから、部屋の掃除をして、アパートに移ったらいいんじゃないかな。そのほうがいいと思います。ちょっと、それで様子を見ましょう。いいですか?
川口尋子 いいです。

  加来病院二病等棟診察室  一週間後

加来典誉 だいぶ落ち着いたみたいですね。よし、外出してみましょうか?
川口尋子 いいんですか?
加来典誉 外出、二回ぐらいしてみましょう。一週間に一回。土曜日にね。土曜日はダメだね。金曜日かな。何曜日がいいかな、師長さん?
長谷川町子 金曜日です。
加来典誉 金曜日。お父さんかお母さんにお願いして、外出させてもらってください。許可出しておきますから。午前十時から午後四時まで。一回、二回。あと、二回外泊して、退院でいいと思います。もし、外出や外泊で失敗したら、退院が伸びます。失敗というのは、興奮状態になるということ。特殊な興奮状態になると、これはいかんぞということになります。興奮というのは、大声を上げたり、人にいろいろ話しかけたり、むやみに気になるとか言ったりとかが、興奮状態。
川口尋子 わかりました。

  川口尋子、二回外出して、二回外泊して退院。

   加来病院外来診察室

加来典誉 もうちょっとお洒落にならないといけないかな。
川口尋子 そうですか。
加来典誉 雑誌で研究してみると面白いですよ。なかなか美人の友達は、友達になってくれないと思う。美人の女の子は、高嶺の花だよね。
川口尋子 そうですね。
加来典誉 無理だもんね。あの人たちから勉強するのが一番早いんだけれどね。だから、ネットカフェに行って、雑誌をいっぱい見るんですよ。で、どれが自分に合うだろうって、いろいろ考えならら見て、これがかわいいって見つけて、それを参考にして、お店に行って買ってみるといい。女の人の洋服屋さんのほうがずっと多いから、適切な値段でね、そこまでたくさん払わなくても、うまく組み合わせれば、お洒落ができるから。ぜひそういうふうにしてみてください。そして、それから美容室に行ってくください。学校に行ってますか?
川口尋子 行ってます。
加来典誉 ちょっとそれでやってみてください。

   加来病院外来診察室 一週間後

加来典誉 だいぶ綺麗になりましたね。美容室も行った。いいんじゃないですか。だんだん成長している感じで。ネットカフェで研究した。楽しいでしょ。お母さんが真面目なんでしょ?
川口尋子 真面目です。
加来典誉 だから、わからないんじゃないかな。お母さん、お見合いかな?
川口尋子 お見合いです。
加来典誉 じゃあ、わからない。この病気になる人はね、親がお見合いで、つまり、恋愛が原因で、この病気になる人はね、だいたい親がお見合いで結婚している人が多いんじゃないかととぼくは思う。予想だけどね。わからないんだよね、親が、どうやって恋愛したらいいか。だから、自分で切り開いていかないとね、尋子さん。なんとか自分で見つけていかないと。わたしもそうだった。わたしも親がお見合いでわけがわからなかったら。自力でなんとかしないと。苦労は多いけどね。まぁ、大丈夫だから。どのみち、綺麗になって、出会い系のバーは二十歳になったらいけるから、それまで自分を磨く作業をしてね。あと、ホストクラブに、お金をためて、バイトして行ったらいいですよ。ホストクラブでいろいろお話を聞いて、どういうふうに男の人とお話したらいいのか、教えてもらえるから。それはダメだよ尋子ちゃん、とか言われるから。行ってみたらいいですよ。ホストクラブはいいんじゃないかな。お酒を飲まなければ。未成年者っていうことになるのかな。聞いてみてください。最初は、お父さんと一緒でもいいよ。中洲がちょっと怖いなら。
川口尋子 わかりました。

   加来病院外来診察室 一週間後

加来典誉 行ってみたの?お父さんと一緒に行ったの?
川口尋子 大丈夫だった。面白かった。
加来典誉 だいぶ参考になったんじゃない?どういうふうに考えるか、男の人が。好みがあるとか。
川口尋子 言われた、言われた。
加来典誉 好みがあるからね、男の人はね。どうしても、その壁は越えられないから。あのね、えー、こんな人がいいの、っていう人が好きな人もいる。童顔で目が離れていて、鼻が低いような人。そう言う人いるの。知ってるから。わたしの先輩だから。病気になる前の。プログラマーで働いていた時に病気になって、やっぱり医者になった方がいいんじゃないか、とお父さんに言われて、医者になったんだけど。おれは一応、九大だけどね。そこそこ頭が良かったんだろうね。おれはなんとかなった。そんなかんじ。好きな人?いるよ。うまくいってない。本田茜さんていう人。スポーツクラブのインストラクター。なかなかうまくいかなくてね。ぼくはあきらめないどこうと思っている。ぼくはね、その人みたいな人がいいんじゃなくて、その人が好きだから。無理だからね、他の人は。結婚してしまって、どうしようもなくなってしまったら、そしたら、どうしようもない。そうでない限り、ずっとあきらめないで挑戦し続けようと思っている。尋子さんも、そのうちモテるから、大丈夫。

   加来病院外来診察室 一年後

加来典誉 出会い系のバーで彼氏ができたんですね。これでいいでしょ。
川口尋子 いいです。
加来典誉 では、二週間に一回だったけど、一ヶ月に一回でいいです。それを三ヶ月、四ヶ月、五ヶ月、様子見て、良かったら、来なくていいです。気が向いた時だけでいいです。お薬も・・・、あ、お薬出しているんだ。無理なんだ。今、面白いようにしているんだよ。ルーランとか統合失調症の薬は無くなったでしょ。
川口尋子 無くなった。
加来典誉 感情調整薬だけにしているんだよね。いわゆる躁鬱病の薬。無くせる可能性があるんだよ。将来、薬をなくせるといいね。来なくていいにしたいんだよ。面倒くさいもんね。薬の飲むの。忘れるもんね。ちょっと今、研究していますから、よろしくお願いします。


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