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思索とアートとヘアカット
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緒方文武さん(統合失調症)

  加来病院第一病棟診察室

加来典誉 あの、先代の院長がやめたので、わたしが緒方さんの担当になりました。よろしくお願いします。加来典誉です。
緒方文武 早く退院したい。
加来典誉 何年くらいですか?入院して。
緒方文武 だいたい二年くらい。
加来典誉 何が問題なんですかね、大地さん。
大地真央 やっぱり妄想がある。
加来典誉 どういう妄想があるんですか?
緒方文武 妄想じゃない。ほんと。
加来典誉 うん、例えば、どういうことか。大地さんから見て、妄想というのはどういうことか。
大地真央 オメガ教の教祖になっている。
加来典誉 宗教団体の教祖になっている。うーん、最初からですか?入院した当初から。
大地真央 だと思います。
加来典誉 緒方さんが思い始めたのは、入院する直前からですか?
緒方文武 そうです。
加来典誉 うーん、そうだね。
緒方文武 退院したい。
加来典誉 あのね、たしかに信者さんがやってきてね。百人、千人やってきてね、退院させてくださいって言えばね、これは妄想じゃないと思うけど、誰も来れないなら、緒方さん一人だけの世界の話でね。例えば、ぼくだったら何かな。あの、毎晩、毎晩、ぼくの大好きな女の人と一緒になれるって、空想の中だけでね、本当はいないんだけどね、空想の女の人と一緒に寝たりとかね、普通、誰にもしゃべらないじゃない。
緒方文武 しゃべらない。
加来典誉 それをしゃべった時点で、「この人、おかしい」っていうことになるわけ。
緒方文武 なんで。
加来典誉 いやいや、理解できないから。他の人が理解できないことを言われても困るわけ。例えば、数学の問題は難しいでしょ。ものすごく難しい数学の問題ってあるじゃない。それを説明すると、他の人は、普通の人は困るよね。
緒方文武 困る。
加来典誉 困る。
緒方文武 迷惑。
加来典誉 でも、わかる人に聞けばわかるからね。数学が得意な人に聞けばわかるからね。ということは、これは別にいいということ。誰が聞いてもわからないということだから困るわけ。ということなの。ぼくはね、いわゆる、一人だけ世界の思い、妄想って言ってしまっているけどね、それは本人にとっては本当の話であって、他の人にとっては嘘でも、本人にとっては本当だから、それを否定するのはいいこととは思わない。否定するのは良くないと思っている。ただね、その妄想、っていったら変だけど、一人だけの思いにお付き合いすると、これは治療上、後ろ向きになってしまうから。そうじゃなくてね、妄想というふうにまず言わせてもらうけど、妄想の奥にある何か思いがあるはず。例えば、緒方さんって、恋愛したことある?ある。早稲田に行ったの?就職は?してない。そしたら、偉くなりたいんじゃないかな?
緒方文武 どういうことですか?
加来典誉 例えば、会社の社長さんとか。それこそ、宗教法人の教祖さんでもいいよ。つまりその、人に命令する立場になってみたいんじゃない?
緒方文武 そうじゃない。
加来典誉 オメガ教を広めたいの?
緒方文武 そうじゃない。
加来典誉 何が人生の目的なのかな、緒方さん。
緒方文武 わからない。
加来典誉 たぶんね、偉くなりたいんじゃないかな。あのね、統合失調症っていう病名がついているのよ。それはね、幻聴、幻覚、妄想、だったり、激しい興奮状態だったら、統合失調症なのね。このうち、心の悩みが発展して統合失調症になった場合は、色、カネ、名誉っていう原因を持ってます。色っていうのは異性に関すること、女とか男とか、カネっていうのはお金のこと、名誉っていうのは、誇り。お金とか名誉に興味があるんじゃない?
緒方文武 あると思う。
加来典誉 そこだと思う。そこが原因で病気になっちゃったんだと思う。そこを解決すればね、オメガ教の教祖でなくても、この社会で幸せに暮らしていけるんじゃないかな。
緒方文武 なるほど。
加来典誉 今、院内でオメガ教どうこうって言ってる場合には・・・。笑ってるんですか?大地さん。ははは。わたし、新任だからですね。それ以外は問題ない?
大地真央 問題ないです。
加来典誉 そしたら、そこをクリアするのは、おそらく、あの、色、カネ、名誉のなかの、お金と名誉の部分を解決すればね、自然とオメガ教うんぬんっていうのは言わなくていいようになるんじゃなかな。自信がないもんだからね、自分にね。わたしだって、九州大学卒業っていう肩書きがついているからいいけどね、どこの大学も行ってなくて、医者を志しています、っていったら、自信がないよね。
緒方文武 そうですね。
加来典誉 緒方さんも、早稲田大学の政経ですか?
緒方文武 政経です。
加来典誉 政経っていう立派な肩書きを持ってるわけだから、それは自信につながるけど、何もないとね、なかなか自信につながらないからね。まぁ、なんとなそういうふうにやっていきませんか。
緒方文武 うん。
加来典誉 でね、ひとつお願いがあるんです。オメガ教の教祖っていうのはわかりましたけどね。それを言わないようにしましょう。
緒方文武 なんで?
加来典誉 あのね、妄想っていうのは持ってていいんです。
緒方文武 そうですか。
加来典誉 例えば、自分は神様であるとか。持ってていいけど、黙っとくこと。これはルールなんです。生きていけないから、世の中で。世の中っていうのは、理解不能なことが起こっては困るんです。理解可能なことしか起こっちゃいけない。やっぱり困るからね。普通の人が。「わたしは神様である、あなた、言うことを聞きなさい」って言われたら、困るね。「わたしはオメガ教の教祖である、あなた、信者になりなさい」っていったら、困るでしょ。黙っとかないといけない。本当にね、宗教法人として、登録・・・、したんだと思いますけどね。まだ、信者さん見たことないし、みんな。ちゃんと、幸福の科学みたいに宗教法人として、あ、行った、修行したそこで、宗教法人として活動しているならいいけど、目に見えない宗教法人では、なかなか・・・。ブログがある?でも、信者さんが活動している様子が見えてこないんだな。たぶん、それだから、みなさん、言っているんじゃないかな、どうもおかしいって、緒方さんが。
緒方文武 そうですね。
加来典誉 例えば、本当に宗教法人として活動しているならばね、これは本当だと、みんな思うけど、これがわからないのであればなかなか。ただ、今ね、その、心のバランスというのがある。糧にしているものがある。人間には。例えば、昔の人だったら、天皇陛下を糧にしていた。天皇陛下を大事にしないといけない。天皇陛下があってこそ、自分がある。天皇陛下は人間ですって言われたら、がっかりする。天皇陛下はたいしたことないです、て言われたら、大変がっかりしてしまう。それまで信じていたものが全部ガラガラになって崩れてしまう。だから、今、緒方さんがね、オメガ教うんぬんっていうのを捨てなさいっていうのは、それは困るわけよ。それはわかるよ。大事な心の中の支えになっているのね。それをこう取ってしまう。例えば、支えの棒ってあるよね、建物を建てるときに支えている棒があるよね、仮だけど、仮に支えている棒があったりする。木でお家を建てるときに、棒で支えたりすることがあるよね、たぶん。その棒がおそらくその宗教法人のオメガ教なんだと思う。心の支えになっている、それを急に取るとね、緒方さんの心はバラバラになってしまうから、取らないほうがいいと思う。あったほうがいいからね。二年間もその支えの棒を持っているわけだからね。これは面白い見方だって言われるかもしれないけど、ぼくはこうういう考え方は持っていたほうがいいと思う。いずれ、要らなくなって、建物としてきちんとね・・・、拍手ですか?ハハハ。大地さんですか。そうですか。そう、建物としてきちんとして立てるころになったら、棒は抜かしても大丈夫なわけなのね。そうだと思う。今は持ってていいから。みんな看護師さんも優しいんじゃないの?オメガ教って言っても、みんな文句言わないでしょ?
緒方文武 言わない。
加来典誉 お医者さんが言うんだ、じゃあ。ぼくのお父さんが。ダメって、ちょっと古いからね。
緒方文武 バカ院長。
加来典誉 わはははは。バカ院長って、患者さんからよく言われるっていってた。ぼくは違うの?よかったな。患者さんに迎合してるかな。ははは。そういうふうにやっていかない?オメガ教は言わんという約束にしてて。ぼくの時だけ言っていいから。
緒方文武 ほんと?
加来典誉 看護師さんに言わんこと。それを守ってくれるなら退院できるから。ねぇ、大地さん。
大地真央 はい、退院できます。
緒方文武 ははは。
加来典誉 先生の時だけ、言って。退院できるから。入院期間は二年だっけ、二ヶ月言わないで。三ヶ月くらいで退院できる。
緒方文武 わかりました。
加来典誉 言わないで。退院してから考えよう。建物を作るということを考える。支えの棒は今、オメガ教だから。建物をしっかり建てないといけない。人生という建物をね。そっちは退院してから考えよう。
緒方文武 どうするの?
加来典誉 何か、事業してみたら?ご親戚に会社経営してるからいらっしゃるんじゃない?
緒方文武 わからない。
加来典誉 探してみたら?修行してみたら、そこで。どうしたらいいんですかって。修行、終わったって?いやや、そんなことないよ。宗教と実業は違うから。ぼくもまだ、修行中だし。必要ないことないと思うよ。お金くださいって言って、もらえるかな、銀行から。
緒方文武 もらえない。
加来典誉 やっぱり、ある程度、実績持ってたら、この人、大丈夫だって、お金出してくれるけど、実績がないのに、お金を出してくれる人、いないからね。
緒方文武 わかりました。

  加来病院外来診察室  三ヵ月後(退院後)

加来典誉 よかったですね、お母さん。
緒方文武の母 言わなくなりました。驚いています。
加来典誉 ぼくにだけ、言うことにしているんですよ。それがルールだから。退院したいから。緒方文武さんは、頭がいいからね。早稲田の政経に行かれてるし。頭もいいから、わかってるんですよ。わかってるから、ちゃんと言わなくなったんです。なんで教えてくれなかったかって?前のお医者さんが?わざと教えないようにしているんじゃないかな、理由をね。わざと症状をごまかす人がいるから。つまり、妄想という症状をごまかす人がいると思うわけ。自然になくなるのがいいと思っているわけ。だから、言わないお医者さんがいるわけ。ぼくはそうは思わなかった。緒方さんの場合は、脳疾患なのかな、心の悩みなのかな。どっちかな。お薬を飲みたい?
緒方文武 飲みたくない。
加来典誉 じゃあ、心の悩みだ。なにかどこかで失敗したかな?失敗した。就職?
緒方文武 就職。
加来典誉 そこだね。そこがたぶん契機になってできてる。心の支えが欲しくて、オメガ教を作ったんだ。
緒方文武の母 そのとおりです。
加来典誉 なにかね、お母さん、つらい時って、宗教って、支えになるじゃないですか。支えの棒が必要だっていって、緒方さん、宗教に入るんじゃなくて、自分で作っちゃったんですね。
一同 ははは。
加来典誉 いずれ、オメガ教に頼らずにでも、自分で独力でやっていけるようになったらいいなと話していたんです。オメガ教もいいけどね。就職で失敗したんだったら、文武さんは、普通のサラリーマンより、経営者になりたがるタイプなんじゃないかなとおもったんです。教祖になってみたい、オメガ教のね、ということはね、どちらかというと、サラリーマン家業じゃなくて、社長さんをやってみたいと思っているんだと思います。
緒方文武の母 そうです。
加来典誉 ご親戚にですね、事業家の方はいらっしゃいませんか?
緒方文武の母 います。
加来典誉 修行されてみたらどうかと思って。
緒方文武の母 ああ、はい。
加来典誉 下で働かせてもらって。最初はね、睡眠時間も長いし、普通の人の出勤時間よりは短いけどね、そのぶん、給料を少し安くしてもらってね。それは仕方ないよ、最初だから。最初の三ヶ月は休んでいいけど。三ヶ月過ぎぐらいから働いてみたらどうですか?半年みてもいいけど、三ヶ月でいいんじゃないかな、と思いますけどね。あまり変わらないですよ。
緒方文武の母 そうですか。
加来典誉 修行してみて。その代わり、甘めにしてもらって、「ちょっと途中できついから帰る」というのを許してもらう。その代わり給料を少し安くしているからいいでしょと、他の従業員さんに、「だって、少し給料安いし、親戚だらいいじゃないか」ということで。甘く見てもらったらいいんじゃないでしょうか。勤務時間に関して。仕事の内容に関しては、厳しくしてもらっていいかもしれないと思います。修行にならないからですね。勤務時間に関しては、「帰る」でも大丈夫にしてもらわないといけないと思います。朝も少し遅く出たり、朝も眠くなりますからね。たぶん眠くなるんだと思います。だいたい普通の人の一・二倍くらい寝てしまうようです。普通の人が十時間寝るところを、十二時間。八時間寝るところを、十時間、十一時間寝たり。ちょっとそれでやってみたどうでしょうか。来週、また聞いてみましょう。事業家の方のお話を聞かれてから。
緒方文武の母 はい、わかりました。

  加来病院外来診察室  一週間後

加来典誉 どうでした?
緒方文武 会ってみたら、面白そうでした。
加来典誉 今、少し休んでいてください。あと三ヶ月。体の調整で、トレーニング。好きなことをやって、いろいろ。本読んだり、テレビ見たり 、新聞読んだりとかして、トレーニングして、規則正しい生活をして。実家暮らしですね?
緒方文武 実家です。
加来典誉 三ヵ月後始めてください。
緒方文武 わかりました。

  加来病院外来診察室  三ヵ月後

加来典誉 仕事が始まったけれど、どうですか?
緒方文武 面白い。
加来典誉 よかったですね。
緒方文武 ちょっと眠くなる。
加来典誉 眠くなりますよね。わかる、それは薬の副作用だからしょうがないからね。薬を無くしたいけれどね、今まで、いっぱい飲んできたから、なかなか急に無くすわけにもいかなくてね。無くす療法もあるんじゃないかと考えているんだけれど、なかなかお医者さん同士で、それはないよってみんな言っているんですよ。お薬を無くす療法はないって言っているんですよ。あるんじゃないかなってぼくは思っているんだけれどね。ちょっと今後の医療の進歩に期待をしていてください。面白いでしょ、仕事。
緒方文武 面白い。
加来典誉 いろいろ勉強していたらいい。何年かかるんですか?独立するまで。
緒方文武 五年。
加来典誉 それじゃ、頑張ってみて。

  加来病院外来診察室  五年後

加来典誉 会社つくるの?
緒方文武 会社つくる。
加来典誉 よかったね。同じような会社?
緒方文武 全然、ちがう会社。
加来典誉 よかったね。本当に会社がつくれるんだね。よかったね。
緒方文武の母 本当によかったです。自信がついたみたいです。
加来典誉 自信がつきましたね。早稲田の政経を出て会社の経営しているって言ったら、誰もおかしいと思いませんね。
緒方文武の母 ははは、おかしくないですね。
加来典誉 当然ですね。
緒方文武の母 当然です。
加来典誉 早稲田の政経を出て、病気になって、病気が治ってから、会社経営って、全然、おかしくないです。本当によかった。昔が大変だったってですか?病院時代ですよね。わけわからずに病院に入れられているからですね。「なんで俺は入られているんだ」と思って入っているからね。そこがつらかったんじゃないでしょうかかね。文武さんにとっては。理由がわかっていればね、例えば、ガンになって、胃ガンになって入っているってわかっていればね、「俺も入っておかないといかんな」と思うけど、「俺は何も悪くないぞ」と思って入っていたら、腹が立ちますけどね。まぁ、支えにするものが、女性で、実際に彼女を作って女性に支えてもらうのであれば、特に問題がないけれど、いわゆる一般的には認められないような考えに支えてもらっていると、それは妄想と言われますからね。わたしもね、だいたい調子が悪くなると、女の人に頼るんです。一回すごいのがあってね。アイドルの女の子に頼ったことがあるんです。アイドルの女の子から好かれていると思ったことがあるんです。それは本当なんです。
緒方文武の母 そうですか。
加来典誉 わたしも妄想と言われました。入院もしました。贈り物をずっと送ってですね、彼女をモノにしたんです。事務所の意向で反対されてダメになったんでしょう。たぶん。プログラマーの時です。一種の妄想って言われるでしょ?だから妄想の人の気持ちはよくわかりますよ。その人にとっては真実ですからね。周りに人にとっては嘘でも。それに支えてもらっているわけです。急にそれを取るとですね、おおげさにいうと、人間がバラバラになってしまうんです。支えの棒が必要だってぼくは前に言ったんですよ、建物の。
緒方文武の母 聞きました。
加来典誉 家が完成すれば、支えの棒は要りませんからね。今はそういう状態ですから。オメガ教とか言わなくていいでしょ?
緒方文武 言わなくていいです。
加来典誉 必要ないですね。これでいいんじゃないでしょうか。お薬も極限まで減らしました。今後の医療に期待してください、お薬を全部無くすのは。


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