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思索とアートとヘアカット
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山田陽子さん(恋愛相談)

  加来病院外来診察室

加来典誉 はい、こんにちは。よろしくお願いします。精神科医の加来典誉です。お名前は?山田陽子さん。ご年齢は?二十三歳。どうなさいました?精神科は初めての受診ですか?初めて。心療内科?まぁ、一緒ですよ。精神科と書くと、気違い病院みたいな感じがするでしょ。それを外聞きが悪いので、心療内科って書いているだけです。同じです。重篤なものになると、それこそ気違いレベルになりますけれど。激しいのになりますと、ギャーギャー叫び回ったりとか。軽いのになると、ちょっと落ち込んだりとか、眠れないとか。どういう感じですか。
山田陽子 元気が出ないんです。
加来典誉 何か大事なものを無くしちゃったんですか。
山田陽子 そうじゃないです。
加来典誉 ふられた?
山田陽子 違います。
加来典誉 何かきっかけになる事件がありましたか。
山田陽子 ないです。
加来典誉 あらー、これはちょっとおかしいな。突然?
山田陽子 突然。
加来典誉 お薬は欲しいですか、元気になる。
山田陽子 欲しくないです。
加来典誉 これは何か隠しているでしょ。
山田陽子 なんですか。
加来典誉 精神病にはですね、心の悩みを原因とする、心因性のものと、「因」っていうのは原因の因、「心」っていうのは心、心因性のものとですね、脳疾患って、脳の病気の場合、脳の異常の場合、と二種類あるんですよ。だいたい、心因性、心の悩みの場合は、お薬は飲みたがりません。脳疾患の場合は、いてもたってもいられなくて、背に腹は変えられずで、とにかく絶対、飲みたい、飲んでも治したい、とにかく今苦しいという人が多いです。お話によれば、心の悩みはないということだったので、脳疾患かなと思ったけれど、お薬、飲みたいですかと聞くと、飲みたくないと言っているので、これはやっぱり心因性の可能性が高いと、何か隠していると思いました。
山田陽子 なるほど、ほんとです、隠しています。
加来典誉 あの、一応ですね、カルテに書いて欲しくないということであれば、カルテに書かないようにします。わたしと、わたしの妻になるだろう人しか言いません。結婚前は言いません。まだ、好きな人の段階ですけれど。そうですね、男性的な感じの人です。綺麗な人だけれど、ちょっと男性的な感じで、男の子みたいな感じの女性ですね。
山田陽子 ふられました。
加来典誉 あ、ほんと、ふられとか、別に人に知られても大丈夫ですよ。そんな普通ですよ。
山田陽子 そうですか。
加来典誉 よくあることですよ。異常じゃないから。それでどうしていいかわからなくなった?
山田陽子 そうです。
加来典誉 うーん、お父さんとお母さんはお見合い結婚ですか?
山田陽子 お見合いです。
加来典誉 ご両親がお見合い結婚の場合、恋愛を罪悪視して、失敗を隠したり、恋愛が苦手な人が多いように思います。ぼくが何度も何度も言っているんですけれど、女性の場合ですね、男性を好きになる場合に、告白したんですか?
山田陽子 告白しました。
加来典誉 あの・・・、わたしの良い所、悪い所があって、わたしの良い所を、好みに思ってくれているか、この男の人は、というのが重要です。好みというのは主に外見的な好みです。例えば、髪の毛が好きな人がいます。ストレートヘアのロングヘアがいい。それにこだわりを持っている人がいる、男の人で。そしたら、やっぱりストレートヘアの人じゃないと嫌だって言います。背が高い人がいいとか。背が高い人じゃないと嫌だって言います。胸が大きい人がいい。胸が大きくないと嫌だって言います。顔は、細長い目が好きだという人、目がぱっちりが好きな人、面長が好きな人、丸顔が好きな人、それぞれ好みがありますからね。好みで、自分が合致しているかどうかですね、その告白された方が。それを調べてみてください。ふられるとね、全人格を否定されたような感覚になるんですよ。全部、人格を否定された・・・、そんなことはないですよ。あのー、たまたま、男の方の好みに自分が合わなかっただけでね、山田陽子さんが悪いわけじゃないです。そこを勘違いしないようにしないと。だから、恋愛する時はですね、めかしこんで綺麗にして、いろんな男に追わせるというのが、ひとつの方法です。モテるようにしてね、自分を。五、六人、追わせるわけです、自分を。 その中から、一人選ぶわけです。自分の気に合う人を。それかですよ、こっちから告白する場合だったらですよ、事前に下調べをするんです。好きな人を、三、四人つくっておいて、この人、わたしのことを好みと思ってくれるかなと調べて、この人だったら、わたしを好みと思ってくれるかな、という人にアタックして告白すれば、成功する確立が高いです。理路整然と話しましたけれど、当然の話ですね。まぁ、まだちょっとね・・・、睡眠取れてます?取れてる。一旦、今日帰ってね、その男の人のお友達のお友達でいいから、その男の人が、どんな女の子が好みか聞いてみてください。外見的な好みですよ。たぶん違うと思いますよ。山田陽子さんではないと思う。ただ、それだけです。何ヶ月くらいですか。四ヶ月。四ヶ月なら、まだ、たいしたことない。一年、二年になると、これは大変ですけれど、あきらめられなくなる。わたしも実は好きになって、かれこれ四年です。
山田陽子 四年も!
加来典誉 そうですよ。だからもう大変だから、あきらめられなくなっています。そういう場合もあります。
山田陽子 どうするんですか。
加来典誉 彼女が結婚するまで、頑張るしかないですね。なんとかしようとして。本田茜さんっていうスポーツクラブのインストラクターですね。なかなかうまくいかない。女性は、男性の外見的な好みで惹かれるることよりも、男性の行為とか、人柄で惹かれることがほとんですからね。だから、ぼくはあきらめないわけです。
山田陽子 わかりました。
加来典誉 一回、帰ってから調べてみてください。

  加来病院外来診察室 一週間後

加来典誉 はい、どうでした?
山田陽子 やっぱり好みじゃなかったです。
加来典誉 そうでしょ。あのー、出会いの機会を増やしたいなら、出会い系のバーっていうのがありますから。普通にどこかバーに入ってみてね、大名あたりで、で、出会い系のバーってありますかって聞いたら、教えてくれますから。格好を綺麗にして、カウンターで待ってたら、声を掛けてくれますから。で、この人はちょっと違うと思ったら、ごめんなさい、わたしちょっと好みじゃないみたいと言ったら、さっとどっかに行ってくれますから。何回か、行っているうちに出会いますよ。まぁ、見たところ、ちゃんとお洒落もしているようだし、出会えるんじゃないですか。出会いの機会さえ増えればいいんだから。どちらかと言えば、内気じゃないですか。
山田陽子 内気です。
加来典誉 ご両親はお見合い結婚ですか。
山田陽子 お見合い結婚です。
加来典誉 だからですね。この人しかいないと思い込んでしまうんですね。出会いの機会が少ないからね。本当は、いっぱい人間はいますからね。両親がお見合い、結婚だから、恋愛を罪悪視する所があります。
山田陽子 先生は?
加来典誉 ぼくは、本当に惚れちゃってですね。いいところがいくつかあって。正直に言いますとね。あの、肖像画を彼女にあげたんです。どういう肖像画家というと、女の人が、つまり彼女が、小学生くらいの男の子を、電気バリカンで丸刈りにしている絵をあげたんです。わたしは試しにあげたんですけれど、普通、この絵をあげると、どう思いますかと言われたら、わからない、って言うと思うんです。ところが、いいと思います、っていう返事が返ってきたんです。いつも冷たいのに。ぼくと同じ趣味を持っている。ぼくは散髪が好きなお母さんって言うのに、セクシャルなものを感じて。男の子を丸刈りにするのが好きな女の人にセクシャルなものを感じて、なんか、いいなと思ったんです。なんでかって言うと、たぶん、自分の生まれてからの経験でしょうね。フェチになってしまった。最初は、女性が髪をバッサリ切られるということに興味を持ってですね、そのうち、だんだん、だんだん、髪を切る側の女性に興味を持つようになって、そのフェチが、彼女と一致しているので、千載一遇の出会いだな、と思って。向こうも感じていると思うんです。この人しかいないって。だから、会社が恋愛禁止になっているから、スタッフと会員が。それで、今、頑張っている所なんじゃないでしょうかね。一緒になろうとして、会社の中で。ただ、ぼくと一緒になれると分かってからじゃないと、ぼくに告白はしないんじゃないかと思います。好きだけど、今、会社で係争中です、とか、そういうふうには言わないみたいですね。本当かどうかわからない、わたしの妄想ですけれどね。そうかもしれませんね。まぁ、とにかく恋愛してみましょうよ、どっかで。出会い系の・・・、ホストクラブに行って、練習してもいいですよ。最初はね、男性と話す練習で。あんまり話さないでしょ、男性と。ホストクラブに行くと面白いですよ。まず、ホストクラブに行ったらどうですか。男性と話す練習と思って。慣れていないから。どんなふうに言えば、いいですか、告白する時、お話しする時、こんなふうに言っちゃダメとか、あんなふうに言っちゃダメとか、こんなふうに言うといいとか、教えてくれるから。ホストクラブがいいと思います。中洲の。インターネットで調べるのもいいだろうし、一件、適当に普通の飲み屋に入ってみて、ホストクラブを教えてもらうとかしたらいいと思います。ホストクラブに行ってから、出会い系のバーに行ったらいいんじゃないですか。二回ぐらい行ったら、コツがつかめてくるから。じゃあ、また来週。

  加来病院外来診察室 一週間後

加来典誉 ホストクラブ行った?楽しかった?
山田陽子 楽しかったです。
加来典誉 男性は意外と簡単だったでしょ?
山田陽子 簡単でした。
加来典誉 いよいよ出会い系のバーは行くんですか。
山田陽子 まだです。あと、二回くらい、ホストクラブに行きます。
加来典誉 慎重に?
山田陽子 慎重に。

  山田陽子はホストクラブを楽しみ、出会い系のバーに行ってみた。

山田陽子 なかなかいないです。
加来典誉 最初は、いないですよ。ファッションもね、自分の好きなタイプの人が、好きなファッションというのを研究してみたらいいですよ。

  数週間後、山田陽子は彼氏をつくった。

  加来病院外来診察室

加来典誉 よかったですね。これで大丈夫。しかし、安易に出来た彼氏だから、安易に別れやすいんですよ。それは注意してくださいね。簡単に出会えてしまった彼氏は、別れやすいんですよ。だから、そこは、これから、じっくりと熟成させていって、仲良くならないといけないです。別れないといいですね。ちょっと様子見ましょう。

  加来病院外来診察室 一ヵ月後

山田陽子 大丈夫です。
加来典誉 よかったですね。一ヶ月経てば、大丈夫じゃないかな、あとは半年、一年。一ヶ月に一回の診察でいいですよ。

  加来病院外来診察室 一年後
加来典誉 もうそろそろいいですよ。わたしのところ、来なくても。あの、来たい時に来てください。ちょっと心配だったものだから。すいません、医療費をいっぱい使わせてしまって。じゃあ、どうかお幸せに。何かあったら来てください。

  山田陽子は、その後、来なくなった。


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