加来病院病棟
加来典誉 あれ、病院の紹介で来たの?どこの?済生会。あ、ほんとに。どうして?食べない、拒食症?意識、昏睡とかなってない?なってない。あ、ほんとに。わかりました。拒食症ね。わかりました。わたしが担当ですか?わかりました。お母さんがいる。今から診察ね。お名前は?大久保亜衣子さん。何歳ですか?二十三。わかりました。
加来病院外来診察室
加来典誉 こんにちは。わたし、加来です。まだ若いんですけど、三十二です。先代の院長がやめたから、この病院をつぎました。
加来典誉 なにニッコリ笑ってるんですか?なに笑ってるんですか?
加来典誉 どうしたんですか?わからない。なんで食べないんですか?
大久保亜衣子 言えないです。
加来典誉 深い訳でもあるんでしょうね。
大久保亜衣子 そうでもないです。
加来典誉 そうだな。どうしようかな。とりあえずね、きちんと、食べ物が食べれるようになって、退院というふうにしてほしいわけです。ここは精神科の病院です。いわゆる精神病院です。気が狂った人が来るところです。食べれなくなる人がいる。摂食障害ということになるわけで、精神科の担当になっているんです。あと、過食症。いっぱい食べる人、精神科の担当です。食べるようになりましょう。訳があるのかな?脳の異常なのか?心の悩みなのか?それで、治療のアプローチが変わってくるわけです。どちらですか?脳の異常ですか?心の悩みですか?
大久保亜衣子 心の悩みです。
加来典誉 自分でわかっているということは、隠しているだけですね。
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 それを言ってくれないと治らないんだけど・・・。お母さん、知っているんですか?
大久保亜衣子 知ってます。
加来典誉 じゃ、わたしに言っていいんじゃないでしょうか。
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 お母さんが知っているなら、わたしが知ってもいいんじゃないでしょうか。一応、他言無用ということですが、カルテに書くから、病院内だけでは知られてしまいます。
大久保亜衣子 そうですか。実は、彼氏に逃げられました。
加来典誉 それだけですか?
大久保亜衣子 子供が産まれました。
加来典誉 あ、ほんとうに。それで逃げられた。それはきついね。中卒?ははは、次の彼氏が難しいわけね。
大久保亜衣子 そうです。
加来典誉 なんのために生きているかわからないのね。セックスしたいしね。キスもしたいし、抱きしめたいしね。それで・・・。人事みたいに言ってごめんなさいね。それでね、彼氏に逃げられて、子供が一人いて、中卒だったら、絶望だよね。
大久保亜衣子 絶望なんです。ははは。
加来典誉 絶望か。どうしたらいいかな。次の彼氏が欲しいんですか?
大久保亜衣子 そうじゃないです。
加来典誉 なんとなく?
大久保亜衣子 なんとなく。
加来典誉 娘さんのこと好きになれないんでしょ?息子さん?
大久保亜衣子 娘です。なんでわかったんですか?
加来典誉 適当に言ってみた。娘さん、まだ、三歳。じゃあ、二十で産んだんですね。安産でしたか?
大久保亜衣子 安産です。
加来典誉 じゃあ、あれかな、あまり、かわいくないかな。
大久保亜衣子 かわいくないです。
加来典誉 あ、ほんと。安産で産むと、女の人は子供をかわいがらないんです。苦労して産むと、かわいがるんです。奈々ちゃん。誰が名前をつけたの?
大久保亜衣子 お母さんです。
加来典誉 うーん、そうねぇ。どういう時が、一番、楽しいですか?これしていると、楽しいなっていうこと。
大久保亜衣子 寝ているときです。
加来典誉 あなた、セックスが好きなんじゃないですか?
大久保亜衣子 ははは、なんでですか?
加来典誉 だいたいね。そういうふうに答える人は。セックスとかキスが好きな人。芸術家肌の人ですね。
加来典誉 飲み屋で働いているの?
加来典誉 ははは。向いているのかもしれないね。
加来典誉 おばあちゃんに怒られた?好きのなの、おばあちゃん?
大久保亜衣子 はい。
加来典誉 まぁ、そういうことしたらね。馬鹿にされる、とかそう言われたんでしょ?
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 そういことしてるとね、いっぱしの人間と見れないと、言われるもんね。
大久保亜衣子 楽しいんです。
加来典誉 楽しいのね。お金になるしね。倍だもんね。だいたい普通、給料二十万といっても、飲み屋では四十万だもんね。君、綺麗だから、もてるだろうね。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 いいじゃないね。中卒でも高卒でも、飲み屋では関係ないもんね。お話が上手でね。まぁ、ちゃんと聞き役になってくれれば。聞き役だよね?
大久保亜衣子 聞き役ですね。
加来典誉 聞き上手でなければね。
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 うーん、どうしたら、娘さんがかわいくなるかな。娘さんと一緒にいると楽しいってなるとね、また人生に希望が持てるんだけどね。
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 うーん、まぁ、一言で言えばね、娘さんも好きで生まれてきた訳じゃわけじゃないんだね。苦しいだろうけどね、大久保アイコちゃんもね。あの、どうしても・・・、やめてほしい?
大久保亜衣子 いや、いいですよ。
加来典誉 どうしてもね、自分だけ損しているような気がして。死んじゃえと。
大久保亜衣子 そうです。
加来典誉 わかった。食べないで死のうと思ったんだね。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 でも、なんでこの子が生まれてくるんだろうと思ったかもしれない。
大久保亜衣子 うん。
加来典誉 でも、好きで生まれてきたわけじゃないんだよ。こっちも好きで産んだわけじゃないけど。
大久保亜衣子 うははは。
加来典誉 生まれてくるほうも、好きで生まれてきたわけじゃないんだよね。
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 食べてくれないかな。生きていこう。奈々ちゃんのためにね。中学卒業だったら、娘さんは高校にやりたいんじゃない。
大久保亜衣子 高校にはやりたいです。
加来典誉 大検、受けてみたら?高校卒業資格取れるよ。大検っていう試験受ければ。
大久保亜衣子 あ、そうですか。
加来典誉 簡単な参考書で勉強して、受ければいい。高校卒業の資格取れればいい。堅い職業もつけるよ。おばあちゃんの言うこと聞くならね。いややね。飲み屋のほうが楽しいね。
大久保亜衣子 ははは。なんでわかるの?
加来典誉 ぼくも飲み屋に行ってたから。小林あけみちゃんというひとと仲良くなった。あけみちゃん。こえださんっていう源氏名。一回で一万円くらい。ワンセットで四十分。ツーセット頼んでた。同伴で、一万二千八百円。
大久保亜衣子 おかしい、ははは。
加来典誉 同伴で行ってたよ。小林あけみさんってね、はじめっから、整形したような顔で生まれているんよ。ガクトみたい。整形していないんよ。整形したんじゃないかなと思うぐらい、きれいなんよ。整形した後みたいな顔なんよ、もともと。綺麗過ぎて、ぼくは色気を感じなかった。アイちゃん、きれいだよね。ごめん、セクハラだ。ははは。まぁ、いいや。どうしようかな。娘さんと遊んでみたら?
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 こんど、連れて来たら?一緒に。どうしようかな。入院して、様子を見てほしいんでしょ?お母さん?
大久保亜衣子の母 そうなんですよ。
加来典誉 あの、静かなところがいいでしょうね。せっかく入るなら。七病棟空いてますか?空いてない。一病棟だけ。一病棟、うるさいもんね。あなた美人だから、追い掛け回されるもんね。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 ちょっと、様子見て、食べれるようになってから、家に帰るようにしましょう。
大久保亜衣子の母 そうですね。
加来典誉 食べる?
大久保亜衣子 食べない。
加来典誉 食べない?わかった、ぼくと遊びたいんでしょ?
大久保亜衣子 ばれました?
加来典誉 ばれましたじゃないよ。ははははは。外来で来ればよかろうもん。そうする?
大久保亜衣子 いやだ。
加来典誉 いたいんだ。いいよ。入院して。じゃあ、娘さんを連れて来てもらおう。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 わたしも話してみる、娘さんと。三歳なら。しゃべれるんでしょ。もう?
大久保亜衣子 しゃべれる。
加来典誉 じゃあ、こんど、娘さん連れてきて。奈々ちゃん。アイコってどういう字書くの?亜細亜の「亜」に、「衣」。「亜」っていうのは、色の名前ですよね。亜麻色の髪っていう。
大久保亜衣子 そうですよ。
加来典誉 それで、衣。なかなか風雅な名前ですよね。普通、アイコなら、愛する子供、天皇陛下のお孫さんの愛子さまの愛子だけど。もっとしゃれた名前。
加来典誉 そんなの知らなかった?
大久保亜衣子 知らなかった。
加来典誉 つけたのおばあちゃんじゃないの?
大久保亜衣子 おばあちゃん。
加来典誉 ははは。よかったね。また、娘さんもおばあちゃん(亜衣子のお母さん)につけてもらったね。
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 本当はお母さんじゃなくて、おばあちゃんにつけてもらったほうがよかったんじゃないの?ちがう?
大久保亜衣子 そう。
加来典誉 ははは。もう名前変えられないからね。じゃあ、入院しましょう。ちょっと、着るものとかに名前を書かないといけないからね。なくなるから。
大久保亜衣子 ああ。
加来典誉 いやでしょ?
大久保亜衣子 いいです。
加来典誉 わかった。入院しよう。まずいよご飯。おいしくないよ。ときどきおいしいのがあるよ。昼ご飯に。夜ご飯はおいしくない。朝ご飯はおいしい。あの、ところてんが出たり、おきゅうとがでたりする。あと、納豆とか。パンとか。当たり前だけど。おいしいよ。食べたことある。じゃああと、何?
大久保亜衣子 何歳?
加来典誉 三十二。
大久保亜衣子 わたし、二十三。結婚できるね。
加来典誉 ははははは。ごめん、ぼく、好きな人がいるんだ。本田茜さんっていう、コナミスポーツクラブのインストラクター。
大久保亜衣子 いいですね。
加来典誉 本田茜さんが、冷たいから、飲み屋の小林あけみさんにしようと思ったけど、無理やった。やっぱり本田茜さんがよかった。
大久保亜衣子 わかりました。
加来典誉 準備できてますか?
大久保亜衣子の母 できてないです。
加来典誉 じゃあ、洋服とか持ってきてもらって。とりあえず入ってもらって。開放病棟じゃないけど、閉鎖の一般病棟だから。保護室とかじゃないから。あなたは、必要ないと思う。食べないだけだから。
大久保亜衣子 先生、ずっといるんですか?
加来典誉 いやあ、ぼくは回るから、病棟を。四がなくて一病棟から七病棟まである。ずっとぐるぐる回ることになる。外来ふくめて。なかなか来ないよ。一週間にいっぺんだから。意味ないよ。
大久保亜衣子 いいです。
加来典誉 わかった。ご飯食べるから。では、入院ということで、では、ナース、準備ということで。
ナース わかりました。
加来典誉 女性と男性が一緒だから。注意してね、男の人が寄ってくるから。あなた、美人だから。
大久保亜衣子 わかりました。
加来典誉 あなた、飲み屋だから、どんなふうにあしらったらいいか、知ってるでしょ。ぼくも行ってたから。一軒だけ。CAT'Sっていうところ。中洲のね。ヒップホップとか流れてる。知ってるの?知ってるんだ!はははは。あるもんね。働いたことある?ない。そこで働く。働かない。そこが乙女心だね。わかりました。では、入院で。とりあえず一病棟に行ってみて。ナースが案内するから。じゃあ、来週ね。
大久保亜衣子 来週ですか!?
加来典誉 そうだよ。来週だよ。週に一回だよ。
大久保亜衣子 ああ。
加来病院第一病棟診察室 一週間後
加来典誉 食べてる?
ナース 食べてますよ。
大久保亜衣子 退院したい。
加来典誉 ははははは。お母さん、連れて来るかな、奈々ちゃん。まだわからない。電話もしてない。娘さんといる時間が楽しくなったら退院ということにしようかな。
大久保亜衣子 あ、そうですか。
加来典誉 うん。じゃないと娘さんの顔を見るたびに憂鬱になるようでは、これはまた食べなくなる。
大久保亜衣子 なるほど。
加来典誉 娘さんと一緒におって、楽しくなるなら、退院。大検の勉強でもしたら?携帯で調べてごらん、大検って。あるでしょ、携帯。インターネットで、使える時間決められているけど。参考書をお母さんに買ってきてもらって。
大久保亜衣子 わかった。
加来典誉 好きなの?ぼくが?好きなんだ。正直だね。嬉しいな。本田茜さんは好きでも、絶対にぼくに好きって言わないの。嬉しいなぁ。美人さんだし。ファンなんでしょ。
大久保亜衣子 ファンです。
加来典誉 付き合ってくれないんでしょ?
大久保亜衣子 ばれました?
加来典誉 ははは。ぼく、ファンがいっぱいいるんだよ。でも付き合ってくれないんだ。ははは。どうしたらいいかな。じゃあ、とりあえず大検調べてごらん。で、いつか呼んでごらん、お母さん。お姉さんがいるの?じゃあ、いろいろ呼んだらいいじゃない。ぼくにも紹介して。
大久保亜衣子 恥ずかしい。
加来典誉 ほんと。それはいろいろな家庭があるからね。恥ずかしがらなくていいよ。
大久保亜衣子 わかった。
加来典誉 おばちゃんに来てもらうの?でも、心配するよ。お年は?
大久保亜衣子 六十ぐらい。
加来典誉 元気なの?
大久保亜衣子 元気。
加来典誉 一回来てもらったら。
大久保亜衣子 来てもらう。
加来典誉 電話してみたら?テレフォンカード。
加来典誉 しない。ダメなんだ。やっぱり。お母さんに言ったら?ダメかな?
大久保亜衣子 ダメっぽい。
加来典誉 ちょっとびっくりするかもね、おばあちゃん。こんなとこいたら。こんなとこまで来てしまった。飲み屋で働いていていた挙句に、精神病院まで。ははは、びっくり仰天してしまって。
大久保亜衣子 そのとおり。
加来典誉 ははは。じゃあ、そうしよう。あとは娘さんといる時間が楽しくなる。そのとき診察する。娘さんと一緒に来てごらん。お母さん抜きでね。お母さんがいるとわからなくなる。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 お母さんに連れて来てもらってね。お母さんに待っててもらってね。こんどの診察のとき、お母さんいるのかな。働いているのかな?働いている。日曜日?
大久保亜衣子 金曜日。
加来典誉 なんとか頑張るよ。大丈夫、金曜日なら、わたしいるから。そうしましょう。金曜日診察ね。どうするかね。おばあちゃんの話もしといたら。無理だろうけどね。おばあちゃん、びっくりさせるからって。そうなると思う。
加来病院第一病棟診察室 一週間後 金曜日
加来典誉 なかなか、かわいい子。いっぱいしゃべるね。かしこいね。ずいぶんかしこいじゃない。亜衣子さんはしゃべらないのに。いっぱいしゃべるね。かしこいのかな。
大久保亜衣子 かしこいと思う。
加来典誉 似ているんじゃないかな、本当は。しゃべらないだけで、本当はかしこいんじゃないかな。
大久保亜衣子 ははは、そうかな。
加来典誉 どう、お母さん、あんまりよくわからない?
大久保奈々 よくわからない。
加来典誉 お母さん、なんでね、奈々ちゃんのことよくわからないと思ってるかわかる?
大久保奈々 わからない。
加来典誉 お母さん、言ってみたら?
大久保亜衣子 あのね、お父さんが逃げた。
大久保奈々 なんで、死んじゃったって言ってるよ。
大久保亜衣子 うそだ、おばあちゃんが嘘ついている。逃げちゃった。
大久保奈々 なんで?
大久保亜衣子 子供、産ましたから、わたしに。
大久保奈々 へぇ。
大久保亜衣子 子供、産ますことできる。逃げちゃった。
大久保奈々 ひどいね。それはしょうがないよね。
加来典誉 かしこいね。まだ三歳なのにね。
大久保亜衣子 先生に、言われたの。奈々も好きで生まれてきたわけじゃないって。
加来典誉 ははは。
大久保奈々 わたしは楽しいよ。
加来典誉 それは結構だね。よかったじゃない。お母さんはね、奈々ちゃんと仲良くなって、奈々ちゃんと一緒にいると幸せだなと思ったら、幸せってって言うのは、嬉しいということ、嬉しいなと思ったら、退院ということ。
大久保奈々 あ、ほんと。
加来典誉 病院だからここは。そうじゃないとまた同じことになる。楽しくない?
大久保奈々 楽しい。
加来典誉 高校に行かせたいのよ。高校って知らないでしょ?
大久保奈々 知らない。
加来典誉 学校があるんだよ、知ってる?
大久保奈々 知ってる。
加来典誉 すごいね、よく知ってるね。小学校、中学校、高校、大学まである。お母さんはね、中学までしか行ってない。だから、奈々ちゃんには高校まで行ってほしいんだって。働いているから、お母さんは。飲み屋さん、ていうとこ。
大久保奈々 なに?
加来典誉 お酒飲むところ。男の人が。よくわからない?
大久保奈々 わかるよ。いまはわかるよ。
加来典誉 かしこいなぁ。遺伝したんだね。どうしたの?嬉しいの。
加来典誉 よかったねぇ。あぁ、泣きそうになってる。ははは。ごめんなさい。
大久保亜衣子 いえ、いいです。
加来典誉 苦しかったんやね。今までの人生、苦しかったんじゃないの?
大久保亜衣子 苦しかったです。
加来典誉 苦労が多かったんでしょうね。中学校から。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 じゃあ、だいぶいいじゃない。娘さんと一緒で。だいぶいいよ。あと、三回くらい会ってみたら。それくらいでしょ。先生のこと、好きなんだって。お母さん。ぼくと結婚したいんじゃないの。
大久保亜衣子 ははは。
大久保奈々 好きな人いるの?
加来典誉 コナミポーツクラブの本田茜ちゃんっていう人。
大久保奈々 へぇ。お母さんと結婚して。
加来典誉 ははは。好きな人、いなかったら結婚していいんだ。
大久保奈々 わかった。
加来典誉 ファンなんだって。ファンって、好きだっていう人。付き合わないけど。付き合うってわかる?
大久保奈々 わかる。
加来典誉 かしこいなぁ。末は東大じゃないかなぁ。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 末っていうのは、大きくなってっていうこと。じゃあ、そういうことにしよう。高校までやって、大学、国立大学に入ったら、すごいよね。
大久保奈々 すごいね。
加来典誉 なるかもね。九大とか。医学部とか。
大久保亜衣子 ははは。
加来典誉 じゃあ、そうしよう。あと、二、三回かな。あと、二回かな。選んでいいよ、二回か、三回か。二回がいい。わかった。
加来病院第一病棟診察室 一週間後 金曜日
加来典誉 よかったね。大丈夫だ。来週も同じ。
加来病院第一病棟診察室 一週間後 金曜日
加来典誉 ああ、これは大丈夫だ。どうするの、退院して、また飲み屋で働くの?
大久保亜衣子 うん。
加来典誉 いいの?
大久保亜衣子 うん。
加来典誉 じゃあ、大検は調べたの?
大久保亜衣子 調べた。
加来典誉 勉強してるの?
大久保亜衣子 してない。
加来典誉 めんどくさい?しない?
大久保亜衣子 いや、する。
加来典誉 便利だもんね。高卒のほうが、働き口があるから。びっくりされるやろ、中卒だと。
大久保亜衣子 うん。
加来典誉 やってみたら、ひまがあるときにね。あとは診察は、外来診療でいいからね。週に一回から、二週に一回なって、ぐらいになると思う。あとは、来なくていい。来たかったら、来てください。月一でもいいけどね。あとは退院。外泊とかはしてなかったけど、いいでしょう。いい、わかってるから。入院期間は。四週間だから、一ヶ月ぐらいね。はい、退院です。あさってね、退院。外来は、月曜日と木曜日、午前と午後があるから。
大久保亜衣子 何時ですか?
加来典誉 午前は、九時から十一時三十分までが受付で、九時十五分から十二時までが診察。午後は、十三時から十五時までが受付で、十三時三十分から十七時までが診察。え、好きなの、ありがとう、嬉しいなぁ。カードあげるから。帰りにもらって帰ってね。保険証を出してね。
加来病院外来診察室 月曜日
加来典誉 どう、食べてる?
大久保亜衣子 食べてる。
加来典誉 娘さん、かわいい?
大久保亜衣子 かわいい。
加来典誉 楽しみができた?
大久保亜衣子 楽しみができた。
加来典誉 それでいいやろ。男と付き合うとしたら、どうするかね。友達づきあいで、いいでしょう?彼氏にならんでも、結婚はできなくても、キスしたりはできるね。
大久保亜衣子 できる。
加来典誉 抱きしめたりとかできる。娘さん、かわいがればいい。
大久保亜衣子 うん。
加来典誉 無責任かもしれないけど。ぼくも頑張れって?ありがとう。ほんと、嬉しい。恋が実らん人で、まだ童貞なんよ。
大久保亜衣子 童貞?ははは。
加来典誉 おかしい?
大久保亜衣子 おかしい。
加来典誉 これは、大丈夫やろ。
大久保亜衣子 ほんと、ははは。
加来典誉 なにもせんでいい、あとは。来たいなら来てもいいよ。毎週?二週間にいっぺん?毎週来たい。わかった、じゃあ、悩み相談だから、飲み屋で困ったお客さんがいるとか言っていいよ。大検、どうしたらいんですか、とか。わかった、毎週ね。お薬出さんでいいからね。
大久保亜衣子 そうですね。
加来典誉 お薬なかったもんね、最初から。
大久保亜衣子 うん。
加来典誉 いい、いい、心の悩みだからね。脳疾患じゃないからね。わたし、そういうふうに分けているのよ、脳疾患と心の悩みをね。心の悩みは一時的なものだからね。確かに、ちょっと、例えばさ、むしゃくしゃして、アルコール飲んだら、すっきりした、ってあるよね。
大久保亜衣子 あるある。
加来典誉 それと同じで、お薬飲むと治ることがある、それはいいよ。いずれ薬は抜けるんだから。抜かせれるんという先生ばっかりだったけど、ぼくは抜かそうという人だから。
大久保亜衣子 わかりました。
加来典誉 風邪が治ったのに、風邪薬飲む人はいないでしょ。それで。ま、毎週ですね。楽しみですね、トークが。それでは。