加来病院外来診察室
加来典誉 はい、山口汐織さんですね。入院していたんですか。
山口汐織 していないです。
加来典誉 ああ、そうですか。うーんと、何か困っていることありますか。
山口汐織 ないです。
加来典誉 お母さんが行きなさいって言うからですか。
山口汐織 そうです。
加来典誉 うーん、なんで統合失調症っていう症状って言われたんですか。自分でわかります?
山口汐織 わからない。
加来典誉 たとえば、わたしはアイドルから好かれているとか。不思議な声が聞こえてくるとか。妙なものが見えるとかね。アイドルから好かれているって言っている。誰かな、田村正和さんかな。
山口汐織 ははは、そうじゃないです。
加来典誉 福山雅治ですか。
山口汐織 ちがいます
加来典誉 SMAPさんですか。
山口汐織 そうじゃないです。
加来典誉 誰だろ。わからないけれどいいや、知らない人。
山口汐織 知らない人。
加来典誉 えーとね、恋愛をしたことがないでしょ。したことない。だからですよ。あのね、恋愛したことがないから、仮想の彼氏が欲しくなって、頭の中でこさえちゃったんですね。だから、恋愛ができれば、その人は必要ないですから。好きな人ができて、その人とうまく付き合えたら、終わりですよ。一般的に言ってね、そのアイドルの人が汐織さんのことが好きだというのは、まずありえないです。そういうことを言って回っていると、この人はちょっとおかしなことを言っているな、と思われます。だから、もし、そういうふうに思っていても、言わなければいいんです。本当にそうだと思っても、言わないようにしましょう。そしたら、統合失調症っていう病名にならなかったでしょう。一緒にしてって、言ったんでしょ。それはダメです。言わないことですね。わたしもね、上原多香子さんのことを好きになってね。女優の、今はあまり人気ないですけれどね。あの人のこと好きになってね、いっぱい贈り物してね、彼女がぼくのことを好きだと思っているって言ったら、変人扱いされて、精神病院に入れられました。ほんとにさんざんでしたよ。そこから、頑張って、精神科医になったんだから。言わないどけって、先生に言われました。言わないだけでいい、思っていても。わたしも彼女が全然出来なかった。今もいないですけれどね。好きな人はいます。本田茜さんっていう。スポーティーな。SPEEDもスポーティーでしたね。ああいう感じの女の子が好きなんです。なかなか似てますよ、本田茜さんと上原多香子さん。好きですね。彼氏をつくりましょうよ。今飲んでいるお薬も必要なかったかもしれないな。ただね、今のところ、ルーランか・・・、全部抜くと、今度は、元気になりすぎる感じがあると思う。だから、感情調整薬でなんとかなるかもしれないし、やめられないかもしれない。仕事できてます?できてない。二十歳。仕事したいですね。まず、お洒落にならないといけないですね。で、仕事しないといけないですね。それで彼氏ができますよ。見た目と仕事でだいたい決まります。仕事は簡単なものです。アルバイトでもいいです。ほとんど見た目です。男が女を見る時。ほとんど見た目、見た目ばっかり、見た目の美しさが一番いい。それから入ります。どうしたらいいか。雑誌を研究とかね。インターネットネットカフェに言って、雑誌をいっぱい見るんですよ。わたしはこういうふうなのがいいんだなと分かってきますから。一冊、自分のお気に入りの雑誌を見つけます。それを頭に入れて、ずっとショッピングします。それを着て、一式、上から下まで揃えて、美容室に行って、かわいい髪にして、働いたりして、出会い系のバーっていうのがありますから、もう、大人だから、バー行っていいから。出会い系のバーっていうのを探して、どこでもバーに入ったらいいですよ、出会い系のバーありますかって聞けば、教えてくれますから。ただし出会い系のバーは、綺麗になってから行ってください。肌の調子を整えたり、くびれを出すために、運動してみたり、これなら大丈夫だとわかってから、行ってください。わたしが決めてもいいです。お母さんが決めてもいいです。お母さんは、自分の娘だから、甘いでしょうけれど、他人のほうがいい。わたしは、男だから厳しいですよ。お母さんはお見合い結婚ですか。
山口汐織 そうです。
加来典誉 どうも両親がお見合い結婚の場合は、息子さん、娘さんが恋愛の仕方がわからなくて困るようです。
山口汐織 なるほど。
加来典誉 そんなに頻繁にくる必要はないかな。変身してからとか。いや、お薬を出さないといけなから。徐々に薬は減らしていこうかなと、これを半分にすると、最低維持量を下回りますね。感情調整薬でなんとかならないかな、と思っています。一応、一週間に一回がいいですか。二週間に一回がいいですか。二週間に一回。じゃあ、そうしましょう。今度は変身して来るんですよ。そんなに焦らなくていいですけど。そして、仕事を探してみましょう。週に一回とか二回でいいから。やってみてください。
加来病院外来診察室 二週間後
加来典誉 だいぶかわいくなったね。ね、変わるでしょ。随分変わるでしょ。びっくりですね。これでいいんですよ。だいたいできますから、きちんと。で、まぁ、ちょっと気になるところは運動して痩せてみたりとか、そういうことやっているうちになんとかなりますから。お仕事探している?じゃあ、また二週間後。お仕事、見つかったら、出会い系のバーに行けますね。
山口汐織 わかりました。
加来病院外来診察室 二週間後
加来典誉 お仕事見つかった、もうお仕事している。楽しいでしょ、仕事
山口汐織 そうですね。
加来典誉 じゃあ、出会い系のバーに。ちょっと早いかな。もうちょっと仕事を頑張ってから。
山口汐織 そうですね。
加来典誉 人と話す練習をしてから。それからね、ホストクラブも行ってみたら。男と話す練習になるから。練習と思って。エロい目的じゃなくて、練習と思ったら。実地の演習だから。行ってみたらいい。お父さんとお母さんにお金出してもらっていいから。一回、そうだな、一万五千円くらいじゃないですか。出してもらっていいから。それで、だいたい九十分くらいですかね。わたし、行ったことないけれど、だいたいそれくらいだと思いますよ。二万持たしてもらったら大丈夫ですよ。中洲にお父さんと一緒に行ってね、ハイって入れてくれますから。お母さんは知らないからね。お父さんは大丈夫だから。
加来病院外来診察室 二週間後
加来典誉 楽しかったでしょ。面白かったでしょ。
山口汐織 面白かった。
加来典誉 練習になるでしょ。
山口汐織 練習になる。
加来典誉 だいたいわかったでしょ、男の子が、もっと練習したい?
山口汐織 いや、もういい。
加来典誉 じゃあ、そろそろ出会い系のバーかな。ホストから、どうしたらいいか聞いたかな。
山口汐織 聞いた。
加来典誉 色々頑張ってごらん。
加来病院外来診察室 二週間後
加来典誉 なかなか出来ない。まだ、見た目がね、なかなか整わないから。
山口汐織 そうですか。
加来典誉 かわいくなるのにも限界があるから。運動したりとか色々しないといけない。部分痩せとか色々しないといけない。今までのその、さぼっていた時期が長いからね、その時期が長すぎて、今、ちょっと損しているわけですよ。ずっと頑張っていたら綺麗だった。ちょっと研究しながら、やっていきましょう。で、ダメだったら、ホストクラブに行ったらいい。もっとうまくなるから、男の人と話すのが。男の人はほとんど見た目ばっかり見ているから。髪の毛はそんなに悪くないね。顔かなぁ。顔があんまり好かれない顔している。
山口汐織 ははは、そうですか。
加来典誉 そうだね、美容整形はしないほうがいいよ。したら損だからね。
山口汐織 なんでですか。
加来典誉 あのね、美容整形したらね、ああ、この人は、整形して綺麗になったね、ということにされて、結局嫌われて捨てられるから。だから美容整形は絶対にしないほうがいい。ほくろ消すくらいはいいよ。いぼ消すとか。顔の形を変えるのは絶対にダメ。
山口汐織 わかりました。
加来典誉 なんかね、コツがあるんだけど。それか、今度は気になる場所があるでしょ。どうしたらいいかわからないでしょ。今度はね、男性が行くキャバクラに行くんです。女の人がいっぱいいるから。
山口汐織 ははは。
加来典誉 どうしたらいいと思うって言ったら、わかる人がいるから。
山口汐織 ははは。
加来典誉 分かった?わかるでしょ。くわしいからね、彼女たちは。それでいいですよ。だいぶ綺麗になってくると思う。一年ずっと通っていたら、できるんじゃないですか、彼氏。
加来病院外来診察室 二ヵ月後
加来典誉 彼氏が見つかった。できた。よかったね。中洲のお姉さんと話せて良かったでしょ。
山口汐織 それもよかったです。
加来典誉 これで安心だね、アイドルはどうでもいいでしょ。
山口汐織 どうでもいいです。
加来典誉 よし、薬もだいぶ減らしたから。最低維持量を超しているんだけれどね。その代わりに、少し感情調整役を増やしたからね。ルーラン消してみようかと思って。
山口汐織 そうですか。
加来典誉 いらないもんね。妄想じゃないから。ただね、今、消すと危ないんだよ。暴れだすからね、心が。あのね、ルーランっていうのはね、新薬なんだけれど、抗精神薬の新薬なんだけれど、感情を抑える作用もあるんです。これが抜かれると、ぱーっと気分が上がるから、そこを抑える薬が必要なんです。それを減らしているわけ。それで、感情調整薬を入れているわけ。これで様子を見てみようというわけです。いずれはルーランをなくせるかもしれない。研究中なんです。統合失調症のお薬をなしにするのは。今のところ、実績はないです。頑張っていきましょう。できたらやってみます。外来でやると、やばいからね。院内で実験しているんですよ。院内の人は、大丈夫だから。看護しているからね。今は実験中だから。
山口汐織 わかりました。
加来典誉 じゃあ、お幸せにね。薬だけ、もらいに来てください。月に一回でもいいですよ。月に一回でいいですよ。二週間に一回がいいですか。月に一回。わかりました。それではお大事に。