加来病院外来
加来典誉 はい、新患さんですか。どんな状態ですか。暴れている。女の人?男の人?女の人。十八歳。山口香織さん。はい、わかりました。とりあえず、保護室まで行っておいてください。はい。今日は美人は?いる。二人とも。わかりました。終わったら言ってください。わたし、行きますから。久家さんと亀井さんね、一緒にここに集まるようにしてください。
ナース わかりました。
ナース 先生、エッチ目的じゃないですか?
加来典誉 エロくはないですよ。わたしは別にセックスする目的じゃないですから。ここで待っておこう。ここはいけないね、外来のところで。怒られるね。ははは。あ、来た。行こうか。亀井さん、久家さん。いつもの仕事だから。中村美穂さんを合わせて、チャーリーズエンジェル。ははは。仲がいいから、三人。じゃあ、行きましょうね。山口香織さんって、十八歳。
加来病院第一病棟保護室
加来典誉 うーん、暴れているね。お水も用意した。氷もある。コップもある。はい、入りましょうかね。止まった。よし、これで、いいかな。
山口香織 なんですか。
加来典誉 うーん、病院ってことがわかったかな?
山口香織 わかりました。軍の特殊施設とかね、そういうのじゃないから。中国人がつくった特殊施設とか、そういうのじゃないから。ここは精神の調子を崩した人が入る、精神病院です。人生、終わりでしょ。
山口香織 終わりです。
加来典誉 終わりでもないよ。なんとかなるから。今、多いですからね。大事なのはね、わたしの治療のアプローチで大事なのは・・・。まぁ、水でも飲みませんか。お薬は入っていませんから。その証拠にわたしたちも全員、先に飲みますから。どのコップでもいいですから。絶対に薬は入っていないですから。
加来典誉 おいしい?
山口香織 おいしい。
加来典誉 何杯も飲んでいいですよ。飲みたいならね。叫んでたからね。きついでしょ、叫んで、のどが。寝れてます?寝れている。寝れているのに、叫んでいる。心の悩みはありますか?ない。昔あった、エッチなことで隠していることありますか。ない。ああ、これは、脳疾患だな。脳疾患型の統合失調症だな。うん、とりあえず、お薬を出しておきましょう。心の悩み本当にないんですか。ない。これを間違えると大変なことになる。じゃあ、いくつか試してみましょう。わたしはジプレキサが・・・、ああ、ジプレキサは嫌だろうな、太りたくないでしょ。太りたくない。ルーラン出しておこうかな。太らないから。ジプレキサは太りやすいんですよ。嫌でしょ。
山口香織 嫌です。
加来典誉 じゃあ、ルーラン出しておこう。なかなか美人でしょ、二人とも。暴れている人の所には、美人を連れてくることにしているんです。
山口香織 なんでですか。
加来典誉 暴れている人がピタッと止まるんです。美人の力があって、なんか落ち着くんですよ、美人を見ると、安心でしょ、綺麗だから。お父さん、お母さん、どっち?美味しい食べ物を持ってきて欲しいんじゃない?コンビニから買ってきてもらって。どうですか。何が欲しいですか。コカコーラ。だけでいい。じゃあ、コカコーラを買ってきてもらって。一本でいいですか?一本でいい。じゃあ、一本買ってきてもらって、付き添いのナースと一緒にお母さんにここまで来てもらいます。二日くらいここに入っていてもらいますから。あの、精神が沈静するんですよ。食事をちゃんと食べて。朝は美味しくて。昼は時々美味しいことがあって。夕飯はだいたい美味しくないです。ボリューム的には、朝昼晩、あまり変わりはない感じですけれどね。どっか一食でも食べていれば生きれる感じ。久家さんと亀井さんっていう人。久家さんってここの担当?じゃない。亀井さんは?一病棟、ここの担当。久家さんはどこの病棟?六病棟、開放病棟。いろいろ動いているからね。久家さんに会うことはないと思います。はい、では、そうしましょう。二日くらいたって、一般病棟に行きましょう。ただ、そこは閉鎖です。外に自由に出られないです。というのは、やっぱり刺激を減らしたほうがいいです。早く治るから。早く治して、お薬はこれが一番いいというのを見つけて退院するのがいいです。様子見ましょうね。この保護室で、暴れたり、食べなかったり、寝なかったりすると、一般病棟に行くのが延びますから、わかっていてください。
山口香織 わかりました。
加来病院第一病棟診察室
加来典誉 出れましたね。どうですか調子は。ルーラン出してみましたけれど、寝れてますか。
山口香織 寝れてます。
加来典誉 落ち着きました?
山口香織 落ち着きました。
加来典誉 何かこう、恐怖感みたいなのがあったでしょ。
山口香織 ありました。
加来典誉 あの、統合失調症の症状には、情報がいっぱい集まってくるっていう症状があるんです。なぜかというと、食べなかったりとか、寝なかったりとかすると、危険ですよね。そしたら、動物は、いっぱい情報を集めて、そこに向かって、突進するようにするんです。ドーパミンが出過ぎると、そういう状況になります。ちょうど山口香織さんのような状況になります。食べているのに、寝ているのに、必要ないのにドーパミンが出過ぎると、同じようになるんです。いろんな所の模様がはっきり見えたり、臭いがすごく強く感じたりします。そういう状態なんです。そうでしたか。
山口香織 そうです。
加来典誉 ドーパミンの量は減らせないんですけれど、ドーパミンをキャッチするところがあって、そこをブロックして、減らすようにする、それで、全体としてドーパミンをキャッチできないようにして調整するという仕組みになっています。このままいくと、一ヶ月か二ヶ月で退院できると思います。まぁ、一ヶ月じゃないでしょうか。このままいけばね。一ヶ月様子見て大丈夫だったら、もういいですよ。一ヶ月と二週間にしようかな。
加来病院第一病棟診察室 一ヵ月後
加来典誉 あと、二週間、毎週外泊、つまり一泊自宅で泊まって、うまくいったら退院です。早く帰りたいでしょ。
山口香織 はい。
山口香織は外泊に成功し、退院した。