加来病院病棟
加来典誉 はい、あ、みぃちゃん。どうした?困ってる。何が。彼氏のことで。なんで。今から?何、どうしたの?
中村美穂 実はね、あのね、浮気しているんじゃないかと思う。
加来典誉 へー。そしたら、一応、コツを知っているんだけれどね。例えばね、どういう女の人が好きなの?背が高い人、低い人?胸が大きい人小さい人??低い人?髪が長い人?短い人?わかった、あなた、そういう人と浮気しているのね。って、言えばいい、そしたら、あ、ばれたか、ということもあるし、そんな冗談だろっていうこともある。笑いで包みながら聞き出すっていう方法がある。
中村美穂 そんなことじゃない。
加来典誉 みぃちゃん、ぼくのことが好きなんでしょ?どうなんやろ。
中村美穂 ちがう。
加来典誉 なんね。思い上がっちゃいかんね。困っている。
中村美穂 困っている。
加来典誉 デートするために?なんね。
中村美穂 もういい。
加来典誉 わかっとる。ぼくもみぃちゃんのこと好きなんだよ。彼氏がいたからね。今、休み時間だね。また、今度。お話するんだったら、いくらでもやってあげるから。大丈夫だよ。また、誘って。
加来病院病棟
加来典誉 新患さん?今日?どういうふうな感じですか。入院患者さんですか。
ナース じゃ、ないです。診察です。
加来典誉 あれ、今日はでも、外来じゃないですよ。
ナース 外来じゃないです。
加来典誉 どうして。
ナース どうしてもということで。
加来典誉 わかりました。では、ちょっと診ましょう。花田聖子さん。女性の方。年齢は?
ナース 二十歳。
加来病院外来診察室
加来典誉 はい、花田さん、どうされました?落ち着かない感じがある。どういうふうに落ち着かないですか。
花田聖子 わからない。
加来典誉 ちょっと、変なことを聞きますけれど、オナニーしていますか。
花田聖子 していないです。
加来典誉 だからじゃないかな。
花田聖子 そうですか。
加来典誉 願かけているんじゃないですか。
花田聖子 そうじゃないです。
加来典誉 オナニーはしないと身体の調子を崩しますからね。したことはありますか?ある。オナニーはしてください。身体の中にはいろんな信号が行き来しているんですよ。例えば、信号機には、青と、黄色と、赤がありますよね。青だったら、進め。赤だったら、止まれ。黄色だったら、注意しろですね。そういうふうに脳と身体も信号を送りあっているんです。はい、今、緊張しなさい、危ないですよー、とかね、今はゆっくりしていいですよ、とか、急ぎなさい、とか、色々信号があるんです。性的に満足したよー、というのをみんなに教えるとか、今、ちょっと不満だから、頑張れ、とか、そういう信号が行き来している。だから、ずーっと性的な欲求が満足しないと、性的欲求を満足しなさいという物質が出すぎて、他の所が迷惑するんです。だから、必ず欲求というのはきちんと満たさないといけない。食べることだけでいいと大丈夫だろうと思うかもしれないけれど、人間というのは性的な欲求というのも重要なんです。特に若い頃はね。ちょっと、オナニーをしてみてください。お便所でもいいですよ。せっかくだから今日来られたから、お便所でオナニーしてみてください。きれいなお便所がいいですね。あんまりきれいな便所がないんですよね。あそこじゃできないでしょ?
花田聖子 わからない。
加来典誉 ちょっとやってみませんか。ちょっとやってみてください。だいたいすぐできますか?
花田聖子 できます。
加来典誉 待ってますから。
加来病院外来診察室 10分後
加来典誉 どうですか、気分は。
花田聖子 だいぶいいです。
加来典誉 やっぱりやらないとダメです。願掛けじゃないですか?
花田聖子 願掛けです。
花田聖子 オナニーはしておかないと、ますます恋愛から遠ざかりますよ。まごまごまごまごして、変なことして、逆に失敗しますよ。それより、ちゃんとオナニーして、満足しながら落ち着いて恋愛したほうがずっといいから。とりあえず、それだけでしょうか。お薬は必要ないと思いますよ。時間外だったけれど、まぁ、いいでしょう。お急ぎの様子だったから。もし、不安だったら、また、来てください。月曜日と木曜日が外来だから。いいですか。
花田聖子 はい。
花田聖子は、病院に来なくなった。