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思索とアートとヘアカット
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田中良人さん(統合失調症)

   加来病院第一病棟保護室前

加来典誉 新患さんですか。はい。暴れている。美人は?二人いる。久家さんと亀井さん。はい。じゃあ、水と氷と持って行きましょう。コップとね。田中良人さん。二十五歳。わかりました。男の人。じゃあ、行こうか、亀井さん、久家さん。飽きてきた?飽きてない。面白いでしょ。面白いね。暴れているね。いつもどおり。じゃあ、入りますね。はい。
加来典誉 暴れたまんまだ。どうしようかな。ちょっと待ってくださいね。わたし、裏技使いますから。亀井さんと久家さん、怖い?怖くない。ちょっと正座しよう。じゃあ、いきますよ。なむぶつ。なむほう。なむそう。なむくおんんじつじょうほんししゃかむにぶつ。なむいちじょうみょうほうれんげきょう。なむまっぽううえんのだいどうし。ほんげじょうぎょうこうそにちれんだいぼさつ。ろくちゅうくろうそうとうしゅうもんれきだいにょほうくんこうのせんしせんてつ。べっしては。ほけきょうおうごのしょてんぜんじん。そうじては。じっかいかんじょうのしょそんとう。らいとうどうじょうごほうみのうじゅー。止まった。
止まりましたね。
田中良人 ははは。
加来典誉 これ、裏技なんですよ。わたしの。大丈夫ですか。
田中良人 なんですか、そのお経。
加来典誉 いやー、わたし、日蓮宗だから、覚えてみたんです。
田中良人 なるほど。
加来典誉 美人さん二人呼んできたんだけど、あんまり女の人に興味ない?
田中良人 いや、興味ありますよ。
加来典誉 水飲みませんか。のどがカラカラでしょ。お薬、入っていませんから。その証拠に、わたしたちも飲みますから。全員飲みますよ。どのコップでもいいから。お薬が入っているかどうかって、心配ですよね。ここは軍の特殊施設とか、なんか国家機関とか、そんな所じゃないですから。私立病院ですから、精神病院。普通の病院ですから。普通じゃない?精神病院だから?無理やり入れられるから?症状が症状だからね。精神病というのは社会性を持っているわけね。難しい話になって悪いけれど、こんな時にね。一人だけの問題じゃないわけよ。他の人にもね、迷惑かかったりするわけよ。胃癌になった人で、別に困らないでしょ、他の人は。精神病になったら、周りが困るわけよ。社会性を持った病気だから、ちょっと違う病気。だから精神病院はちょっと毛色が違う。無理やり入れることもあります、確かに。治って欲しいから。社会生活をちゃんと送れるようになって欲しいから。昔は、狐憑きということで殺されてた。
田中良人 そうですね。
加来典誉 じゃあ、お話を。まぁ、飲んで。あの、寝てますか。
田中良人 寝てます。
加来典誉 突然なった?
田中良人 ちがいます。
加来典誉 心の悩みがあった?まぁ、ちょっと、飲みましょう。わたしが飲みますから。久家さんと亀井さんと、美人さんがいるから。飲みますから。大丈夫だから。お薬は入っていっていですから。いっぱい飲んだら効きだすとか、そんなんじゃないですから。いっぱい飲んでも大丈夫。どれだけでも飲んでも大丈夫です。叫びつかれてきついと思う。お水とか飲んだり、食べ物を食べると、だいぶ治るんですよ、症状がね。心の悩みですか。
田中良人 心の悩みじゃない、突然です。
加来典誉 あー、これは脳疾患型かな。じゃあ、お薬が欲しいでしょ。
田中良人 欲しいです。
加来典誉 よし、これは脳疾患型だから、お薬をあげないといけないね。うーん、どれがいいかな、痩せ型だね。ジプレキサがいいかな。副作用が少ないような気がするんだよね、ジプレキサが。
田中良人 そうですか。
加来典誉 ジプレキサという薬があってね。ただ少し太るっていうのがある。太りにくいでしょ。
田中良人 太りにくいです。
加来典誉 じゃあ、多少飲んでも大丈夫だ。副作用が少ないから、ジプレキサは。うーん、5ミリくらい入れてみようかな。で、効かなかったら、10ミリにしようかな。5ミリが最低だから。2.5もあるけれど、まぁ、5ミリからね。今もそうだと思うけれど、なんかこう、壁とかいろんなものがはっきり見えるでしょ。
田中良人 はっきり見えます。
加来典誉 これはね、分裂病、統合失調症の症状なの。情報をいっぱい集めようとするわけよ。危険信号と思っているわけね。今、危ないと思った時は、いっぱい情報を集めたほうが得でしょ。軍隊とかでもさ、あーこれは危ない、これは危ない作戦だから、情報集めなきゃと思って、いろんなところに偵察機を飛ばして情報を集めるでしょ。
田中良人 集めます。
加来典誉 それと同じで、危ないなと思ったら、いっぱい情報を集めようとしてそうなるんです。だから、食べてないとか、寝てない時に、そういうふうになるんです。でも、良人さんの場合は、脳疾患で、ドーパミンが過剰に出ると、そういうふうになるんです。食べていて、寝ているのに、ドーパミンが勝手に出るんです。お薬で調整する必要があります。ということです。じゃあ、一日か、二日か、三日くらい、ここにおってください。看護師さんが決めますから、出ていいかどうか。閉鎖病棟ですけれど。刺激を少なくするためなんです。閉鎖にして、閉じ込めて、嫌がらせしているわけじゃないんです。刺激を少なくするためなんです。いろんなものを見ると疲れるんですよ。できるだけ刺激を少なくするために、閉鎖にしているんです。あの、そうですね、お母さんに来てもらいましょうか。欲しい物ありますか。食べ物。食べ物がいいです。わからない。好きな食べ物は。肉まん。肉まんを買ってきてもらおう。なかったら?コカコーラ。両方、買ってきてもらおう。何個?二個。あるかな。セブンイレブン、高木店。あった。電話してみようかな。キープしておこう。あ、もしもし、加来病院の院長の加来と申します。お世話になっております。まだ肉まん二個ありますか。ある。肉まんを二個キープしておいてください。今から、取りに行きますから。別の人なんですけれど、加来病院の者で、と言われたら、あげてください。よろしくお願いします。良人さん、お母さんには、ここまで来てもらうから。

   田中良人は、睡眠薬なしに、寝て、三日で出て、一週間で私物が全部持てた。

   加来病院第一病棟診察室

加来典誉 私物を一週間預かっておくのは、悪いけれど、また保護室に戻る人がいて、全部出すと、大変だから。
田中良人 そうですね。言われました。
加来典誉 計画なんですけれどね。一応、一ヶ月か二ヶ月はおってほしいと。というのを、一番、ぴったりのお薬の量というのを加減したい。見ときたい、様子を。一ヵ月半から二ヶ月。一ヶ月入院しておいて、もう一ヶ月は週に一回外泊っていって、お家に泊まるんです。そういうふうにしてみましょう。

   加来病院第一病棟診察室 一ヵ月後

加来典誉 効くねぇ、ジプレキサ。
田中良人 効きますね。
加来典誉 よかった、よかった。じゃあ、あと一ヶ月は外泊。

   加来病院第一病棟診察室 一ヵ月後

加来典誉 外泊が成功したので、退院して、外来通院になります。最初は、週に一回ですけれど、そのうち週に二回、一ヶ月に一回となります。
田中良人 わかりました。


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