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思索とアートとヘアカット
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田中優梨子さん(鬱病)

   加来病院第二病棟診察室

加来典誉 院長が辞めたので、代わりに入ることになりました。加来典誉です。田中優梨子さん。何歳ですか。二十五歳。入院して一年。どうしたのかな。入院した時は、ギャーギャー言っていました?言っていなかった。鬱病?鬱病。お父さんが亡くなった?
田中優梨子 なんでわかったんですか。
加来典誉 だいたいそれが多いんですよ。お父さんが亡くなって、鬱になる人。女の人はね、特に。では、働いていた頃だったんですね。
田中優梨子 そうです。
加来典誉 では、そう言う人に言うんですけれど、天国でお父さんが生きているとして、田中さんになんて言います?
田中優梨子 優梨子、早く元気になれ、って言ってる。
加来典誉 それから。
田中優梨子 退院しろ、って。
加来典誉 それから。
田中優梨子 結婚しろって言ってます。
加来典誉 そうじゃないですか、きっと。
田中優梨子 そうですね。わたしもそう思います、ははは。
加来典誉 あのね、これはごまかしなんだけれどね。本当に本当じゃないだけれど、お父さんと話す方法がある。あの、スターウォーズのジェダイが死んだ人と話しているのがある。あれと同じで、お父さんといくらでも話しができる。いろいろ話せるでしょ。
田中優梨子 話せます。
加来典誉 今日のご飯は何がいいとか。
田中優梨子 そうです。
加来典誉 なんでかわからないでしょ。
田中優梨子 わからないです。
加来典誉 これはね、田中さんの、田中優梨子さんの頭の中に、お父さんの記憶がいっぱい詰まっている。だから、お父さんだったら、こう言うだろうっていうなっていうのが、頭の中でだいたいわかっちゃってる。だから、どう言えば、どう言うってことがわかるわけね。こう言えば、ああ言うみたいな。わかってしまうという。お父さんの脳みそが頭の中にできてしまっている。一部、小さいけれどね。だから、話せる。寂しくなったら、これやってみたら。退院して結婚して仕事してね、それがいいだろうね。
田中優梨子 そうですね。
加来典誉 ナースから見て、元気がない?元気がない。だからでしょうね。今は退院でしょう、希望は?
田中優梨子 そうですね。
加来典誉 もうちょっと元気を出さないといけないな。例えば、そうだな、何かやらないといけないね。
田中優梨子 そうですか。
加来典誉 あの、OTのね、いわゆる作業療法に参加するのもいいし、もしくは、そうだなぁ、音楽を聴いてみるとかね、あとは本を読んでみるとか、そういうなにかこう活動的なことをしてほしい。そしたら、何かやってるなぁということで、ポイントが上がるんだけど。何がいいですか。作業療法。では、作業療法に参加してみてください。だいぶ点数が上がりますよ。ねぇ、ナース、内野さん。
内野英俊 うん、上がります。
加来典誉 じゃあ、やってみてください。内野さんがいくつくらいかって。いくつですか。
内野英俊 いくつでしょう。
田中優梨子 三十五、六でしょう。
内野英俊 そんなに若くないですよ。
加来典誉 すごいもんね、強くてね。合気道でね。優しくてね。わたしもいいな。ああいう人は安心だもん、ボコボコにされないから。合気道は痛くないからね。警察も合気道を習っているらしいもんね。柔道もいいけどね。柔道も結構、危ないからね、投げたらね。危ないよ、畳の上だからいいけどね、ポーンと投げて、コンクリートの上だったら、頭を怪我するからね。合気道のほうがいいよ。アイタタタってなるんだよ。
内野英俊 そうですね。よく知ってますね。
加来典誉 それでね、もう止めるんだよ。相手が。暴れるの、止めるの。わたし、知ってるから、合気道。ぼくはしきらんよ。空手とかはボコボコにしちゃうからね。寸止め・・・。極真空手とかは、ね・・・、ま、関係ないね。ま、やってみて。で、一応、お薬は今のまま出しておきます。先代の院長の時のまま出しておきます。元気が出てきたら、少し減らしたりしますから。はい、やってみましょう。

   加来病院第二病棟診察室 二週間後

加来典誉 どうですか。内野さん。だいぶ良くなった。三ヶ月くらい様子見るかな。
内野英俊 そうですね。
加来典誉 院内散歩を許可しておこう。

   田中優梨子、三ヶ月ほどして、外泊後、退院。

   加来病院外来診察室

加来典誉 どうしようかな。どうですか。今、やりたいことは何ですか。結婚じゃない。
田中優梨子 結婚じゃないです。
加来典誉 何かしたいことはないですか。美味しいものを食べたりとか。
田中優梨子 そうですね。美味しいものを食べたいです。
加来典誉 それをやってください。お母さんと一緒に。
田中優梨子 そうですね。
加来典誉 どんなことがしたいですか。
田中優梨子 わからない。
加来典誉 とりあえず、お仕事をしてみたらどうですか。ごめんなさい、ちょっとまだ早いかな。一年入っていたから。えーと、まぁ、家事手伝いでもしていたいたらどうですか。
田中優梨子 そうですね。
加来典誉 掃除したりとか、料理してみたりとか。それを半年くらいやってみて、ようやっと、外で働いてみると。家事手伝いすると、結婚には役に立ちますからね。家で料理が作れるって、重宝がられますよ。料理ができて、働けたら完璧ですよ。後はお洒落をして、ヘアスタイルも綺麗にしてね。いい旦那さんができると思いますよ。働くとお金ができるじゃないですか、そのお金でお洒落ができますから。
田中優梨子 嬉しいです。
加来典誉 良かったね。良かったですね。本当に。とりあえず、半年、週に一回来てください。薬も最低維持量まで減らしていきますから。なくしてもいいのかもしれない。それは結婚してからですね。また憂鬱になったら困るから。結婚して少したってから。鬱病の薬は無くせるから、理論上。統合失調症の薬と違って、無くせるんですよ。なんとななると思います。半年位して、何か、バイトして、お洒落ができるといいですね。好きな雑誌もありますよね。
田中優梨子 あります。
加来典誉 綺麗になって。出会いの場はありますか。
田中優梨子 あります。
加来典誉 そのうち、相手は見つかりますよ。

   田中優梨子、二年後、結婚。

   加来病院外来診察室

加来典誉 じゃあ、一年間くらい、結婚生活を続けてください。その後から、無くしますから、薬を。面倒臭いでしょ。
田中優梨子 面倒臭いです。
加来典誉 飲み忘れるもんね。

   加来病院外来診察室 一年後

加来典誉 薬を無くしたけれど、どうですか。
田中優梨子 なんとかなりそうです。
加来典誉 あなたは、あれですもんね、心因性、心の悩みですからね。
田中優梨子 そうですね。
加来典誉 先生によっては、薬が必要って言う先生もいますけれど、症状が出ていない時に、薬をあえて投与する必要はないと思うんです。統合失調症は違いますけれど、鬱病は無くしてもいいから。診察はこれから一ヶ月に一回にしましょう。面倒臭いもんね。この状態で、一年か二年続いたら、もう来なくていいです。後は好きな時に来ていいです、挨拶くらいで。
田中優梨子 わかりました。
加来典誉 よろしくお願いします。


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