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田中裕子さん(神経症)

   加来病院外来診察室

加来典誉 はい、よろしくお願いします。精神科医の加来典誉です。お名前を伺っていいですか。田中裕子さん。はい。何歳ですか。
田中裕子 十八です。
加来典誉 どんなことでお困りですか。お母さん?
田中裕子の母 突然、叫び出すことがある。
加来典誉 どんな所で叫びますか。
田中裕子の母 電車の中です。
加来典誉 電車の中が一番、多い?
田中裕子の母 電車の中だけです。
加来典誉 わたしの経験からなんだけれどね、止まる時じゃないですか。
田中裕子 なんでわかるんですか、ははは。
加来典誉 あのね、わたしの予想なんですけれど、ききーっ、と止まって、ばーっと詰められた経験があるんじゃないかな。ぎゃーんと人が寄ってきて、おじさんとか、おばさんとか、おしりががーっと寄ってきて、押しつぶされた経験があるんですよ。それでフラッシュバックになって、怖くなるんでしょ。小さい時のね、たぶん、まだ小学校四年生くらいかな、きゃーっ、と言って、死ぬんじゃないかと。小学校四年生ですか。
田中裕子 小学校四年生です。
加来典誉 叫んでいいです。慣れることです。電車にいっぱい乗ってください。なるほど、こんなものかと思って、だんだん治ってくると思います。二週間後にまた来てください。

   加来病院外来診察室 二週間後

加来典誉 どうですか。
田中裕子 だいぶ慣れてきました。電車が止まる時に。怖くないです。
加来典誉 これからもずっとやってみませんか。
田中裕子 そうですね。
加来典誉 時間が許す限り。好きな人とか、お友達とか、一緒に乗ってみて。
田中裕子 ははは。
加来典誉 楽しくね。独りがいいかな。他人がいると、心がそれるから。
田中裕子 そうですね。
加来典誉 独りが一番、苦しいから。
田中裕子 一番、苦しいです。
加来典誉 叫んでいいです。いいです。殴ったりするなら別ですけれど。半年くらい続けてみてください。半年くらい後に、また来てください。

   加来病院外来診察室 半年後

加来典誉 どうですか。
田中裕子 もう治ったと思います。
加来典誉 後はきついときとか、お母さんから見ておかしいなと思ったときに来てください。
田中裕子 わかりました。


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