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思索とアートとヘアカット
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田中秀昭さん(幻覚=脳の構造異常)

   加来病院外来診察室

加来典誉 はい、こんにちは、精神科医の加来です。お名前をうかがっていいですか。田中秀昭さん。ご年齢は。二十一歳ですね。どんなご用件でしょうか。ご用件じゃないですね、すいません。お困りのことは何でしょうか。
田中秀昭 何か変なものが見える。
加来典誉 そうですか。どんなものですか。よくわからないけれど、変なもの。ふわふわ、白いもの。
田中秀昭 そうです。
加来典誉 あの、どれくらい前からですか。
田中秀昭 二ヶ月くらい前からです。
加来典誉 あの、作家の芥川龍之介さんが『歯車』という小説を書いているんですけれど、自分の眼の前に歯車が出てくるらしいんです。で、幻聴の方に言ったんですけれど、夢を見ているのが、起きた状態で起きているような感じですね。
田中秀昭 なるほど。
加来典誉 例えば、普通、夢で映像を見ますよね。
田中秀昭 見ます。
加来典誉 それが起きている時は見えない。
田中秀昭 見えない。
加来典誉 それが見えているような感じ。結局、脳の構造異常じゃないかと思います。ちょっと待ってくださいね。壁とか床を見て、模様が人の顔に見えますか。
田中秀昭 見えないです。
加来典誉 ああ、これは分裂病じゃないんだなぁ。ごめんなさいね、統合失調症という名前があります。昔は早発性痴呆と言ってました。これはちがいますね。わたしも臨床があまりないから。これは薬を入れないほうがいい。
田中秀昭 そうですか。
加来典誉 いつ、出てきます、一日で。
田中秀昭 朝です。
加来典誉 やっぱり朝ですね。寝た後でしょ。夢の続きが見えている、と思ってください。
田中秀昭 なるほど。
加来典誉 気になるでしょうけれど、いろいろ見えてくるでしょ、そしたら、自分も頭を振って楽しんでください。こうして、頭を振って、一緒に踊ってみてください。そうやってごまかして、不安でしょうけれど慣れてください。おそらく、二十一歳で発現するようになっていたんだと思います。脳の構造上。例えば、水がだんだんたまってくるでしょ。ゼロ歳からぽったんぽったんたまってきて、ある一定の所になると見え出す、みたいな感じだったと思います。もう付き合っていくしかないと思います。お薬で無理やり消すことはできるけれど、副作用があるから。飲みたいですか。
田中秀昭 いや、いいです。
加来典誉 では、適当にごまかしていくしかないです。ドーパミン異常とか、そんなのじゃないです。ドーパミンという物質がいっぱい出ると、幻覚が見えることがあります。それじゃないです。脳の構造上の問題だから。夢の続きが見れている感じ。だから、うまく付き合ってください。来週また来てくれませんかうまくやり過ごせているか。不安なのはわかりますけれど。わたし以外に信頼できる人に話してみてください。ぼく、脳の異常で、夢の続きが起きているときに見えるんだと言ったら、あまり変な顔はされませんから。幻覚というふうに言う人がいるかもしれないけれど、適当にやり過ごしていると言ったら、あまり変な顔はされないと思います。彼女はいますか。
田中秀昭 いますよ。
加来典誉 話してみてください。
田中秀昭 もう話しました。
加来典誉 昼間に出ると、問題だから、その時はまた言ってください。
田中秀昭 わかりました。
加来典誉 その時は、お薬があったほうがいいですね。
田中秀昭 そうですね。
加来典誉 困りますもんね。起きてからどれくらいに見えますか。
田中秀昭 一時間くらいです。
加来典誉 じゃあ、大丈夫です。また来週来てください。

   加来病院外来診察室 一週間後

加来典誉 どうですか。
田中秀昭 見えるけれど、だいぶ楽になりました。
加来典誉 じゃあ、あと毎週二回来て、それから、二週間にいっぺん二回来て、後、一ヶ月にいっぺん二回来て、後は、昼間も見えたりして心配になった時に随時来てください。
田中秀昭 わかりました。

   田中秀昭の経過はその後、良好だった。


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