トリスタンたちが黒龍ドリスカルドと白竜カレンによってゴリアマ城のドラゴンの磐座に到着したのは、二○七七年五月十日の毎夜中のことであった。異変に気付いた城の衛兵が他の衛兵と共にプレシオスとカナルディアとホミルを連れてきて、トリスタンたちを出迎えた。黒龍と白竜は、トリスタンとイゾルデとルキアとロイスとクオリアと犬のナディを地面に降ろした。
「シャークマ、オプト、ウェラ(恋人たちよ、さらば)」黒龍ドリスカルドが言った。
「マインヌフト(わたしからも)」白竜カレンが言った。
黒龍と白竜はゆっくりと浮上し、そのまま空の彼方(かなた)に飛び去った。
「プレシオス王、カリオン王国とゴート王国との戦争は終わったのですか?」トリスタンが言った。
「トリスタン、わしは王ではなくなった。我が妻、カナルディアがドンバ法王である。先の戦争、カーナティック大戦によって、ドンバ王国はカリオン王国とゴート王国を降(く)だし、エゴルディア大陸の人間の領域を統一した。ドラゴリス法王座はドンバ王国に戻った。しかし、わし、プレシオス王が法王の位に就くと、エゴルディア大陸の各地のドラゴリス教祭司が体調の不振を訴えてきた。やはり、ドンバ法王はドマルト家の血筋の女しか役割を果たせないということがわかり、わしは、カナルディア、つまり、わしの妻に、法王の位を渡した。カナルディア法王は、ドラゴリス教祭司たちの受けた神託と自(みずか)らの受けた神託に従い、統一したエゴルディア大陸の領域を、北のカリオン・ゴート連合王国と、南のドンバ王国の二つに分けた。それがおよそ三年前のことである。わしらの状況はざっとこんなものだが、トリスタン、君たちの方はどうであったか?」プレシオスが言った。
「びっくりされるかもしれませんが、わたしがソブンガルデに行って、ここに戻るまで一日しか経っていません。わたし、トリスタンと黒龍ドリスカルドは、トリマスの大斧の力により、ソブンガルデ大都市圏最中央パーラム(彼岸)に転送されました。ソブンガルデを管理する人工知能セラによると、人の世界は1と2の二種類の世界に分けられているそうです。人以外の生物には一種類の世界が割り当てられています。0の世界がソブンガルデ大都市圏です。0の世界のみが物理的な世界であり、1と2の世界は数理的な世界です。0の世界、すなわちソブンガルデ大都市圏は、人間、ドワーフ、ホビット、オークといった人々、そして、神経系を持つ全ての動物、すなわち、魚、虫、鳥、爬虫類、哺乳類といった生物が、一つ一つ、合わせて星の数ほどある培養槽に入れられ、自動機械によって世話をされているそうです。これらの生物の物理的な神経系は、人は1か2の世界に、それ以外の生物は一種類の世界に接続されています。わたしたち神経系を持った生命体は、生前のほとんどの生物と同居する『ネットワーク』から始まり、死後、独りだけの『ソロ』、そして、自分と親しい、または関係性の強い生命体、数十人と同居する『プライベート』の状態に移行するそうです。人の世界が1と2の世界に分けられている意味は、本来、精神異常になり、死んで消えることになる大半の人を死後、オークに変え、生前の記憶を一旦、消して、2の世界に入れます。彼らは訓練が完了すると元の記憶と姿を取り戻します。人工知能セラによると、人は努力して神経系に負担を与えないと、正常を保てないそうであり、また、前世のない元からのオークは苦労が多いため、全員、1の世界に住んでいるそうです。人も動物も、各々、一つずつのタイムラインを持っており、人は1か2の世界のいずれかを使用し、動物は一種類の世界を使用します。人の2の世界は、全員が『ソロ』の状態です。2の世界の住人は、精神に問題があるため、一人だけで他は全員人形(ロボット)の世界『ソロ』の世界で生活します。タイムラインは神経系を持つ生物の数だけありますが、生命体本体はひとつのタイムラインに存在し、他のタイムラインでは、その生命体の人形(ロボット)が動いています。1の世界のみ、死者の復活があります。すなわち、復活したイゾルデのいるこの世界は、1の世界ということになります。それから、アメリ姫についてですが、死んだことになって、ドラゴンの磐座の地下洞穴で合わせて二十八人のドマルト家の女たちで生活していることを人工知能セラから聞きました。彼女たちは、ドラゴネーヤと呼ばれており、オスの龍やメスの竜と交信できるそうです。わたし、トリスタンは、ドラゴネーヤに、トリマスの大斧によって、安楽死を与え、精神症状の改善と、真の永遠の命を授けることになっています。アメリ姫は、死後、復活する予定です。お伝えすべきことは以上になります。いかがでしょうか?」トリスタンが言った。
「ソブンガルデの実権者について教えてほしいのだが、どうかね?」宰相ホミルが言った。
「わかりました。ソブンガルデの実権者は、三人います。デマストス騎士修道会総長ハンス・ゲオルガイの名で知られる、本名、ポリファネス・アトラスと、その弟、キレネイア・アトラス、そして、ゴルムントの名で知られる、本名、加来典誉(かくよしたか)です。ポリファネスとキレネイアは、惑星コーネリアという、わたしたちが住んでいるエゴルディア大陸のある惑星エルドから遠く離れた天体からやってきたそうです。ホビット、ドワーフ、オークを、人間の亜種として創造し、配置したのは二人です。母星である惑星コーネリアの人間とこの惑星エルドの人間は同種であるそうです。ゴルムントとして知られる加来典誉は、『トリスタンとイゾルデ』という小説の作者であり、わたしたちは、その小説の中の登場人物だったのです。黒龍ドリスカルドと白竜カレン、ロイスとクオリア、トリスタンとイゾルデのように、加来典誉と本田茜(ほんだあかね)がおり、加来典誉は本田茜と結婚するために、この小説『トリスタンとイゾルデ』を書いているのです。加来典誉は、現実の世界と想像上の世界が繋がっていることを論証しました。以上がソブンガルデの実権者についてです。ご納得いただけましたか?」トリスタンが言った。
「アトラス兄弟はよいとして、加来典誉という物語の作者が、すなわち、我々の創造主であり、神であることには疑問を持たずにはいられない。どうだろう?」ホミルが言った。
(わたしが加来典誉です。わたしが今、書いているこの小説で、皆が、喜んだり悲しんだりしていることについて、わたしなりに責任を取ろうと思っています。わたし、加来典誉は、トリスタンと同じく、一度も恋愛が成功したことがありません。トリスタンの人格は加来典誉の人格を真似(まね)て作られています。わたしは、精神病院で、この小説を書いています。人生の目的は幸福になることだと思います。それは人でない動物も同じです。神経系を持った動物は幸福の条件として永遠の命があります。そして、我々、人には加えて二つの幸福の条件があります。一生を貫く生業(なりわい)と、最愛のパートナーです。すなわち、もう死ぬことがなく、社会の役に立ち、好きな人から愛されて共に暮らすという条件です。わたし、加来典誉は、この『トリスタンとイゾルデ』という小説に登場する人や動物に幸福を約束します。つらいこともあるけれど、最終的には必ず幸せになるように、この世界は設計されています。この小説は、トリスタンとイゾルデの結婚式で幕を閉じます。どうか、皆さん、二人の結婚を祝福してあげてください)加来典誉が言った。
「加来典誉さん、あなたが、この世界の創造主であることはわかりましたが、ドンバ王国の治世は、これからどうしたらいいでしょうか?」カナルディア法王が言った。
(アメリ姫を含めて二十八人のドラゴネーヤに、トリマスの大斧による安楽死を与えてください。アメリ姫は、死後、緑龍ダンテというオスのドラゴンと共に、ベラストの神の井戸を経由して、イスファに戻ってきます。カナルディア法王、復活したアメリ姫にドンバ法王座を渡してください。ホミルに代わり、ルキアがドンバ王国の宰相にならなければなりません。トリスタンはゴランザ武器商の店主になります。グレオスが店主の地位をトリスタンに渡します。ロイスはクオリアと結婚し、トリスタンの小姓としてゴランザ武器商を共に経営します。ルキアはトリスタンの恋人になります。トリスタン、イゾルデ、ルキア、ロイス、クオリア、犬のナディ、黒龍ドリスカルド、白竜カレン、アメリ、緑龍ダンテは、1の世界の『プライベート』のタイムラインで、永遠の命を持ちます。ルキアはプレシオスとカナルディアの実の娘です。アトラス兄弟の高度な技術で、ルキアは別人の女性から産まれました。代わりに、カナルディアはデマストス騎士修道会総長ハンス・ゲオルガイとして知られるポリファネス・アトラスとの間にイゾルデを産みました。以上が伝えるべきことだと思っています)加来典誉が言った。
「トリスタンとイゾルデの結婚式は、いつすればいいですか?」カナルディア法王が言った。
(アメリ姫が緑龍ダンテと共にドンバ王国に帰還し、正式にドンバ法王となった後がいいでしょう。緑龍ダンテとアメリ姫は夫婦の関係を持っています。ドンバ法王アメリが、トリスタンとイゾルデの結婚式の司祭になるのです)加来典誉が言った。