トリスタンたち一行は、デマストス騎士修道会の専用馬車で、ゴイナマイト街道を東進した。車中泊五日でゴート王国の首都メンファに到着した。ゴート王国について記しておこう。ゴート王国の主産業は、牧畜と海外貿易である。ゴートには、海外貿易を推進するための海軍がある。ゴート海軍は、エゴルディアで唯一の海軍である。首府メンファは港町である。ロイスのような黒人は、他の大陸から、メンファを通じて、エゴルディアに入ってきたのである。ゴート王国には陸軍もあり、ロイスは、ゴート陸軍の正規兵だった。ゴートは、陸軍、海軍ともに最強と、エゴルディアで言われていた。ゴートの兵士は背が高く、屈強であった。ゴート海軍は、外洋上に、幾つかの基地を持っており、貿易船は、海岸に沿(そ)って南下し、他の大陸と交易していた。交易品は、ドンバからは鉄器、カリオンからは書籍、ゴート自体からは毛織物、海外からは、奴隷、絹織物、宝石、火薬といったものであった。ゴート国王は、名をゲルマーニという。ホルムス家が、ゴートでは最も強い家系(王家)であった。宗教はドラゴリス教であり、ゴルムント教の寺院も幾つかあった。ケイロンの角笛は、あっけなく貸し出された。デマストス騎士修道会の信頼の大きさを感じさせられる。ルキアが、もっとゴートを見てみたいと希望したので、貿易商を見て歩いた。ルキアは、ルビーの指輪をひとつ買った。ロイスは、ボウガンを買った。トリスタンは、エメラルドの指輪をひとつ買った。貿易商は、メンファの商館街にひしめいていた。その数ざっと三百。珍しい高級品が所せましと並んでいた。円形闘技場(コロシアム)もあった。コロシアムでは、剣奴の命懸けの戦いを見ることができた。人相手の格闘もあれば、クマやライオンやウシといった猛獣との格闘もあった。ロイスはコロシアムで、元気がなかった。ロイスは、コロシアムの剣奴と仲が良かったことがある。その親友は、コロシアムの試合で絶命したのである。ロイスは、ゴート陸軍の軍営に行かせてほしいとトリスタンに頼んだが、トルホンが制止した。ドンバ王国が起こすことになる戦争は、カリオン王国だけでなく、ゴート王国をも巻き込む大戦争になるはずだった。そのため、ゴート側に、いささかでも情報を与えてはならない、というのがトルホンの考えであった。トリスタンも兵士として今度の戦争に徴集されるのかという心配をルキアは示した。トルホンによれば、それはドンバ国王、プレシオスが決めることであるが、基本的には、ドンバ貴族は、戦争の際には士官として参加することになっていると答えた。ゴート王国での食事は、ドンバに劣らず豪勢であった。山海の珍味に加え、異国の香辛料が食事を色どり、一行は、たいへん贅沢な飲食を楽しんだ。トルホンは、メンファのデマストス騎士修道会の修道院から、ドンバのイスファ、カリオンのレマヌスに向けて、報告書を密使として、各修道院の院長に送った。
「しかし、一体、デマストス騎士修道会は、誰の味方なんだ?」ロイスの当然すぎる程の疑問であった。
「デマストス騎士修道会は、神であるドリスカルドにのみ仕える独立した機関である。先のゴレンド戦争も、今度の戦争も、ドリスカルドの意思によるものである。おわかりか?」トルホンが答えた。
「ゴルムント教とも関わっているようだけれど、この戦争は、エゴルディア全域を舞台とした戦争になるんですか?トルホンよ。答えてほしい」トリスタンが真面目な態度で尋ねた。
「それはまだ分からない。確かなのは、カリオン、ドンバ、ゴートが参加するだろうということだけだ。ゴルムント教は、ウルクハイの生産で重要な役割を果たしたが、それ以上ではない。ドンバのプレシオス王と、ゴルムント教徒の間に、どんな取引があったかはわからないが、恐らく、布教に関することではないだろうか」
トリスタン、ロイス、ルキア、ナディは、しばらく今後のことについて話し合った。ケイロンの角笛と、ケイロンの鉄製首飾りの鍛造法を記した『ケイロンの秘儀』を持って、プレシオス王の所に戻ることになった。トルホンは、デマストス騎士修道会士として、正式に、トリスタンを見習い修道士から、俗人に戻す儀式を執り行った。再び、一行は、デマストス騎士修道会の専用馬車で、ドンバ王国の首府、イスファに戻った。