僕は高校に入学後、しばらくして、彼女がバレー部にいることを知った。本当は彼女が練習をしている様子を見に行きたかったが、恥ずかしくてできなかった。特に体育館は女子だけしかいないことがあり、そんなときに僕一人だけで行ったらどんなふうに思われるか心配だった。だから、僕は授業の間の休み時間に、水を飲みにいく途中に通るということで、こっそり彼女のクラスの前を通った。僕は彼女の教室の前に来ても立ち止まらず、やや歩く速さを落として、そのまま通り過ぎる。気付かれたくないのだ。彼女が教室の中にいるときは、彼女の姿をほんの少しだけ見ることができる。彼女はたいてい笑って女友達と話している。残念なことに遠くなので彼女の顔は小さくしか見えない。あるときには彼女は教室にはいない。僕ががっかりしていると、向こう側から彼女が女友達と一緒に歩いてきて僕とすれ違う。僕は間近で見る彼女の美しさに心を打たれる。彼女は実に楽しそうだ。そして、あるときはクラスの男子たちと彼女が親しく話しているのを目撃する。僕はやっぱりつらい。僕もあの男子たちの一人になりたい。クラスが違うということがやはり障壁になっていることは確かだった。彼女には彼氏がいるのかもしれない。僕は彼女がどんな女の子なのか自分の中で勝手に想像した。そして、想像の中で彼女に色々と優しい言葉をかけてもらっていた。そして、家でオナニーをするときはいつも彼女のことを思うのだ。そうして、彼女と一言も話さないまま高校一年生は終わった。
高校二年生になると、クラス替えがあり、なんと彼女と同じクラスになることができた。僕は嬉しくてたまらなかった。そして、同時に非常に不安だった。かなり長い時間を彼女と同じ教室という空間で過ごすことになるのだ。彼女と話す機会もあるかもしれない。しかし、僕は自分が決定的に恋愛に不向きであることを自覚していた。問題は僕の容姿と性格だ。この二つを変えることがいかに困難であることか。表面的なことは変えられても根本的なところは変えられないのだ。彼女との恋愛が成功する見込みはゼロだ。友達にすらなってもらえないだろう。僕は高校一年生の頃よりもさらに苦しい思いをした。授業中も彼女のことが気になって、彼女のほうをどうしても見てしまう。あくまでみんなに気付かれないようにだが。彼女は部活で疲れているのか、机にうつ伏せになって寝ていることが多い。それで、先生が「平岡!」と大声で叫ぶことがある。彼女はびくっとしてがばりと机から頭を上げ、一瞬寝ぼけた不思議そうな顔をしてから、先生のほうを見て、ニヤニヤする。「平岡、問い3の答えは何だ」先生にそう言われると、こっそり隣の生徒に答えを教えてもらって、彼女は「53」と答える。先生は「部活も大事かもしれないが、勉強のほうがもっと大事なんだぞ。そのことを忘れるな」と言う。彼女は黙ってニヤニヤしている。先生が「平岡、返事は!」と言うと、彼女はニヤニヤしたままやっと「はい」と答える。僕はますます彼女のことが好きになる。