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思索とアートとヘアカット
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第一章

平岡郁美。僕は彼女を遠くで眺めている。気づかれないように。彼女は女子バレーボール部に所属しており、高校二年生にしてすでにキャプテンだ。僕は彼女と同学年だが、年は僕のほうが二歳年上である。彼女は公立中学校を卒業し、高校から僕と同じ高校に入ってきた。彼女は公立中学時代にすでにバレーボールの全国大会に出場している。僕が彼女を初めて見たのは、高校の入学式から三日後のことだった。僕はクラスの違う彼女と廊下ですれちがった。彼女を一目見たとき、僕の心と身体に激しい動揺が襲ったことを今でも忘れない。彼女は、均整の取れた体躯で、はっきりした二重まぶたに、愛らしい口元、それに意志的な表情をしていた。まるで僕などそこにいないかのように、彼女は僕の横を通り過ぎて行った。僕は思わず振り返り、ブレザー姿の彼女の姿を目で追った。襟足の髪を短く刈り上げた彼女のむきだしの首筋が目に付いた。僕は彼女を美しいと思った。もちろん、そのときの僕は彼女のことを何も知らなかった。

一方、僕の顔は悪かった。普通に見ると気づかないが、鏡でよく見ると、僕の左目は右目よりも少し下についていた。一重まぶたのたれ目で細かった。そして、太ってこそいなかったが猫背で痩せており、弱々しい体格だった。髪もひどいクセ毛で、きつい天然パーマがかかっており、長く伸ばしていたので鳥の巣のようにボサボサだった。写真に写った僕の顔はいつ見てもひどいもので、僕には嫌悪感しか起こらなかった。僕は付き合ってくれる彼女がずっと欲しかったが、今まで一度も彼女ができたことがない。童貞だ。僕は女子には常に無視される存在でしかない。僕は女の子との恋愛に必要な最低限のルックスを持ち合わせていない。そして、さらに悪いことには僕自身が人間嫌いだ。人と関わるのを避け、一人でいることが多い。休日も家に閉じこもっている。男友達も少ない。女友達などいるはずがない。僕は自分自身がブサイクなのに、顔の悪いブスの女が大嫌いである。僕は美しい女にしか魅力を感じられないのだ。高校一年生のとき、同じクラスのデブで僕と同じようなひどいクセ毛で鼻の毛穴の開いた、そばかすだらけの目と目の間隔が広い肌の汚いオバサンのような女子が何度も僕に親しく話しかけてきて、僕は激しい嫌悪を感じていた。僕は内心、「お前はひどいブスで、気持ちが悪いから、寄ってくるな!」とはっきりその子に言いたかった。しかし、その勇気はさすがになかった。幸いなことにその女子は親の仕事の都合で転校となった。僕はほっとした。僕はつくづく自分がひどい奴だと思う。僕は駄目な人間だ。

そんな僕と、平岡郁美が釣り合うだろうか。釣り合うはずがない。絶対に無理だ。だから、僕は内心、平岡郁美に激しい性的欲望を感じながら、それを決して表には出さないようにしてきた。もしかしたら、無意識のうちに出てしまっていたかもしれないが。僕は家でオナニーをするときも、インターネットで拾ったHな画像や文章を見ながら、手淫し、いきそうになった瞬間にいつも平岡郁美のよがる顔や身体を思い浮かべて射精する。それだけで、彼女と結ばれたような気分になる。あるときは平岡郁美にフェラをされているところを想像する。夜寝るときも、ベッドの中で彼女のことを思い、かけ布団を彼女だと思って抱きしめ、キスをする。そして僕のいきり立った男性自身を仮想の平岡郁美の尻に擦り付けて快感を覚える。僕はやっぱり異常だ。


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