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思索とアートとヘアカット
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『番号17』
加来典誉

とびら

そのとき、王は右にいる人々に言うであろう、『わたしの父に祝福された人たちよ、さあ世の初めからあなたがたのために用意されている御国を受けつぎなさい。あなたがたは、わたしが空腹のときに食べさせ、かわいていたときに飲ませ、旅人であったときに宿を貸し、裸であったときに着せ、病気のときに見舞い、牢獄にいたときに尋ねてくれたからである』

マタイによる福音書 二十五章三十四節・三十五節


第一章

平岡郁美。僕は彼女を遠くで眺めている。気づかれないように。彼女は女子バレーボール部に所属しており、高校二年生にしてすでにキャプテンだ。僕は彼女と同学年だが、年は僕のほうが二歳年上である。彼女は公立中学校を卒業し、高校から僕と同じ高校に入ってきた。彼女は公立中学時代にすでにバレーボールの全国大会に出場している。僕が彼女を初めて見たのは、高校の入学式から三日後のことだった。僕はクラスの違う彼女と廊下ですれちがった。彼女を一目見たとき、僕の心と身体に激しい動揺が襲ったことを今でも忘れない。彼女は、均整の取れた体躯で、はっきりした二重まぶたに、愛らしい口元、それに意志的な表情をしていた。まるで僕などそこにいないかのように、彼女は僕の横を通り過ぎて行った。僕は思わず振り返り、ブレザー姿の彼女の姿を目で追った。襟足の髪を短く刈り上げた彼女のむきだしの首筋が目に付いた。僕は彼女を美しいと思った。もちろん、そのときの僕は彼女のことを何も知らなかった。

一方、僕の顔は悪かった。普通に見ると気づかないが、鏡でよく見ると、僕の左目は右目よりも少し下についていた。一重まぶたのたれ目で細かった。そして、太ってこそいなかったが猫背で痩せており、弱々しい体格だった。髪もひどいクセ毛で、きつい天然パーマがかかっており、長く伸ばしていたので鳥の巣のようにボサボサだった。写真に写った僕の顔はいつ見てもひどいもので、僕には嫌悪感しか起こらなかった。僕は付き合ってくれる彼女がずっと欲しかったが、今まで一度も彼女ができたことがない。童貞だ。僕は女子には常に無視される存在でしかない。僕は女の子との恋愛に必要な最低限のルックスを持ち合わせていない。そして、さらに悪いことには僕自身が人間嫌いだ。人と関わるのを避け、一人でいることが多い。休日も家に閉じこもっている。男友達も少ない。女友達などいるはずがない。僕は自分自身がブサイクなのに、顔の悪いブスの女が大嫌いである。僕は美しい女にしか魅力を感じられないのだ。高校一年生のとき、同じクラスのデブで僕と同じようなひどいクセ毛で鼻の毛穴の開いた、そばかすだらけの目と目の間隔が広い肌の汚いオバサンのような女子が何度も僕に親しく話しかけてきて、僕は激しい嫌悪を感じていた。僕は内心、「お前はひどいブスで、気持ちが悪いから、寄ってくるな!」とはっきりその子に言いたかった。しかし、その勇気はさすがになかった。幸いなことにその女子は親の仕事の都合で転校となった。僕はほっとした。僕はつくづく自分がひどい奴だと思う。僕は駄目な人間だ。

そんな僕と、平岡郁美が釣り合うだろうか。釣り合うはずがない。絶対に無理だ。だから、僕は内心、平岡郁美に激しい性的欲望を感じながら、それを決して表には出さないようにしてきた。もしかしたら、無意識のうちに出てしまっていたかもしれないが。僕は家でオナニーをするときも、インターネットで拾ったHな画像や文章を見ながら、手淫し、いきそうになった瞬間にいつも平岡郁美のよがる顔や身体を思い浮かべて射精する。それだけで、彼女と結ばれたような気分になる。あるときは平岡郁美にフェラをされているところを想像する。夜寝るときも、ベッドの中で彼女のことを思い、かけ布団を彼女だと思って抱きしめ、キスをする。そして僕のいきり立った男性自身を仮想の平岡郁美の尻に擦り付けて快感を覚える。僕はやっぱり異常だ。


第二章

僕は高校に入学後、しばらくして、彼女がバレー部にいることを知った。本当は彼女が練習をしている様子を見に行きたかったが、恥ずかしくてできなかった。特に体育館は女子だけしかいないことがあり、そんなときに僕一人だけで行ったらどんなふうに思われるか心配だった。だから、僕は授業の間の休み時間に、水を飲みにいく途中に通るということで、こっそり彼女のクラスの前を通った。僕は彼女の教室の前に来ても立ち止まらず、やや歩く速さを落として、そのまま通り過ぎる。気付かれたくないのだ。彼女が教室の中にいるときは、彼女の姿をほんの少しだけ見ることができる。彼女はたいてい笑って女友達と話している。残念なことに遠くなので彼女の顔は小さくしか見えない。あるときには彼女は教室にはいない。僕ががっかりしていると、向こう側から彼女が女友達と一緒に歩いてきて僕とすれ違う。僕は間近で見る彼女の美しさに心を打たれる。彼女は実に楽しそうだ。そして、あるときはクラスの男子たちと彼女が親しく話しているのを目撃する。僕はやっぱりつらい。僕もあの男子たちの一人になりたい。クラスが違うということがやはり障壁になっていることは確かだった。彼女には彼氏がいるのかもしれない。僕は彼女がどんな女の子なのか自分の中で勝手に想像した。そして、想像の中で彼女に色々と優しい言葉をかけてもらっていた。そして、家でオナニーをするときはいつも彼女のことを思うのだ。そうして、彼女と一言も話さないまま高校一年生は終わった。

高校二年生になると、クラス替えがあり、なんと彼女と同じクラスになることができた。僕は嬉しくてたまらなかった。そして、同時に非常に不安だった。かなり長い時間を彼女と同じ教室という空間で過ごすことになるのだ。彼女と話す機会もあるかもしれない。しかし、僕は自分が決定的に恋愛に不向きであることを自覚していた。問題は僕の容姿と性格だ。この二つを変えることがいかに困難であることか。表面的なことは変えられても根本的なところは変えられないのだ。彼女との恋愛が成功する見込みはゼロだ。友達にすらなってもらえないだろう。僕は高校一年生の頃よりもさらに苦しい思いをした。授業中も彼女のことが気になって、彼女のほうをどうしても見てしまう。あくまでみんなに気付かれないようにだが。彼女は部活で疲れているのか、机にうつ伏せになって寝ていることが多い。それで、先生が「平岡!」と大声で叫ぶことがある。彼女はびくっとしてがばりと机から頭を上げ、一瞬寝ぼけた不思議そうな顔をしてから、先生のほうを見て、ニヤニヤする。「平岡、問い3の答えは何だ」先生にそう言われると、こっそり隣の生徒に答えを教えてもらって、彼女は「53」と答える。先生は「部活も大事かもしれないが、勉強のほうがもっと大事なんだぞ。そのことを忘れるな」と言う。彼女は黙ってニヤニヤしている。先生が「平岡、返事は!」と言うと、彼女はニヤニヤしたままやっと「はい」と答える。僕はますます彼女のことが好きになる。


第三章

小平順一は今日も、グラウンドを高いところから見下ろしていた。順一は自尊心が高いわりに、劣等感も激しく、その矛盾した性格に、日々、悩まされていた。順一にとって平岡郁美は多大な存在であった。その郁美がグラウンドで練習をしているのだ。順一は、郁美の運動神経の良さに憧憬(あこがれ)を持っていた。順一自身の運動神経は貧弱で、彼自身も中学の時は二年間バレー部にいたのだが、活躍できず、いつもベンチに座るか、応援席に立っているだけであった。女子バレー部は、月、水、金は体育館が使用できるが、他の曜日は主に外のグラウンドで基礎体力作りをしていた。「主に」と書いたのは、日曜日に他校との練習試合で体育館を使うからである。体育館まで見に行く勇気のない順一は、グラウンドでの郁美に熱を上げているのであった。順一自身、グラウンドの平岡郁美をこっそりと眺めていることが女子バレー部員たちに明らかになった場合の羞恥心は大きなものであろうことは予測していた。しかし、その危険性を冒してもグラウンドに行くのは、ひとえに郁美の美しさゆえであった。

以前、体育の授業中にこんなことがあった。その時、男女に分かれて整列して授業を待っていた。順一は女子側に面する場に腰を降ろしており、郁美も男子側に面する場に腰を落ち着けていた。順一は郁美と隣り合っており、胸の高まりを抑えるのが難しいくらいだった。ふと、そのとき、順一は、郁美の髪の毛に糸くずのようなものがついているのに気付いた。順一はどうしようか迷ったが、思い切って郁美に声をかけた。

「平岡さん、髪の毛に何かついているよ」
「え、そうなの?取ってくれる?」

順一は胸に激しい動揺を感じながら指を伸ばし、郁美の髪の毛に触った。糸くずは難なく取れた。

「ありがとう、小平くん」

そう言って、郁美は笑った。しかし、これが順一の郁美の身体を、といっても一部分だが、触った最初であった。その後、そのこと、そして郁美の笑顔を順一は何度も何度も胸の中で思い出すのだった。そのときの郁美はもうかつての刈り上げショートカットではなく、お洒落でフェミニンな感じのショートヘアになっていた。

一体、順一は郁美の何にそれまで入れ込んでいるのかと、自分でも考えることがあった。それは順一にないものを郁美に求めているのだという結論だった。顔の整った郁美は、不細工な顔の順一に対していたし、運動神経の良い郁美は、運動神経の悪い順一に対していた。ただし、一方的に郁美のほうが優れているともいえないこともわかっていた。勉強面では順一のほうが郁美に優っていた。多くのドラマや小説では、主にこれと逆のパターンが見られる。すなわち、運動神経では彼女に優り、勉強では彼女に劣るといった男子の形式である。しかし、小平順一は正反対であった。したがって、彼は相変わらずもてない男であった。順一に欠如しているのは多分に男らしさといったものであろう。

グラウンドに来た順一の話に戻そう。女子バレー部がグラウンドで練習している火、木、土に、順一は帰りがけに自転車を転がしながらグラウンドを見下ろす高台に行く。そこをできるだけゆっくりと歩いて通り過ぎるのである。視力のいい順一には遠くからでも郁美の姿を判別することができた。彼が歩きながら通って、立ち止まらないのは、女子たちに自分の郁美への恋慕がばれないようにするためである。

彼女の機敏な動きと長い肢体には、順一は大いにそそられるものがあった。順一は、郁美の男らしさにほれこんでいるのだろうかとも思う。しかし、順一はゲイではなかった。男ではなく女を性的に愛していた。しかし、繰り返し言うように、順一は郁美に自分にはない美点を見出していたのだ。それは遺伝子の命じるところであったのだろうか。より優れた遺伝子を残すために自分の足りないところを異性に求めるというわけである。たしかに郁美は「男顔」であった。しかし、無骨なそれではなく、美少年のようなそれであった。彼女は異性からも同性からももてるタイプの女子であった。

グラウンドで練習をしている平岡郁美の姿は、いつも順一に歓喜をもたらした。自分の愛している郁美の美点がそこではあらわになり、汗をかく郁美の姿すら、彼には愛しく、美しく思われるのだった。太陽の下での練習のため、郁美たち女子バレー部員の身体はこんがりと日に焼けていた。しかし、郁美の美しさは損なわれていなかった。


第四章

順一はその日、家に帰って、絵を描いた。無論、平岡郁美の絵である。順一は幼少の頃から、自分の欲しいものを絵に描いてみるという癖があった。平岡郁美の絵はこれまで何枚か描いた。しかし、実物の平岡郁美には到底、及びのつかないものであった。しかし、その日、描いた平岡郁美の顔はいつになく現実味を帯びていた。順一は絵の中の平岡郁美に、自分への求愛のポーズを取らせた。それというのは左手をふくらんだ胸にあて、右手を差し出して、「私はあなたのものよ」と言わんばかりのものであった。順一は、その絵を見て一人、赤面した。これが事実であったならと思った。しかし、その絵を描いてから、順一には不思議な自信が湧いてきた。もしかすると、この絵は現実のものになるかもしれないという自信である。その自信の根拠といえば、このように現実味の帯びた平岡郁美の絵を描けたというただそれだけのことだった。したがって、自信といってもたいしたものではなく、順一にとって、平岡郁美は依然としていと高いところにある存在であった。

翌日の授業中も、小平順一は授業に真剣に取り組む一方で片方だけ、精神を平岡郁美に傾けていた。郁美は相変わらず、机にうつ伏せになっていた。彼女は授業を聞いていないわりに、テストではまあまあの成績を取っていた。おそらく友人にノートを借りているのだろう。順一は自分のノートを借りてくれればと願ったが、それは無理なことだとわかっていた。郁美にとって順一は、単なるクラスメイト以上の存在ではなかったからだ。

事件はそのさらにその翌日に起きた。これは小平順一の人生の転機だったのである。

木曜日のことだった。順一はいつものようにグラウンドの高台へと向かった。そして、極力、ゆっくりとグラウンドを通り過ぎようとした。すると、平岡郁美がずんずんと順一のほうに向かってきた。順一は思わず逃げ出そうとしたが、身体がすくんで言うことをきかない。そうこうしているうちに順一は郁美と対面していた。

「小平くん、いつも私たちの練習を見に来ているのね。バレー部に好きな女の子がいるの?」

郁美らしい単刀直入な言い方であった。順一はしどろもどろになりながらもそれを表にださないようにして言った。

「い、いや、そういうわけではないんだ」
「そんなはずはないでしょう。私たちにはわかっているのよ。いつもいつもじろじろ見られていたら気持ち悪いじゃない。今まで黙っていたけれど、そろそろ決着をつけなくちゃと思ったの。好きなのは香織?それとも由佳里?」
「ちがうよ」
「ふーん、それなら誰かしらね」
「気持ち悪いと思われているなんて知らなかった。もうやめにするよ」順一は急に弱気になってそう言った。
「明日、私たちの部室に来てみない?小平くんの好きな子が誰だか私、とても知りたいな」
 郁美は相変わらず能天気であった。順一は本心を打ち明けるわけにもいかず大層、困り果てた。しかし、女の園である女子バレー部の部室に入れることは順一にとってとても興味のあることだった。
「それなら行こう」
順一はようやくただそれだけ言った。


第五章

うちに帰ってから順一はその日に起こったことを思い返していた。それは何となく現実感のない出来事だった。郁美とあれほどの言葉を交わしたこと自体が実は初めてであった事ばかりではなく、恋の話を直接したのである。彼の精神は、本当のことを郁美に言うべきかということまで考えが回らないほど混沌としていた。ただ、あれほど間近に感じた郁美の息が順一にはたまらない快感だった。順一はそれだけでもう充分だと思っていた。明日はバレー部の部室に行くのだ。しかし、それが何となく現実感のないのは、郁美自身が現実に存在する人物(おんな)と思われないのと同じだった。そこまで郁美は順一の中で純化され理想化されていたのである。

順一は不安になった。それは明日が現実との対決となるからだった。明日になってしまえば全てが決まってしまう。今までの曖昧模糊とした状態を脱することになるのだ。明日が順一にとっての最後の審判となることは明確だった。順一は出来ればそれを避けたかった。最悪の場合、郁美から絶縁を宣告されてしまうのだ。順一は、そうなることを避けるための方法は一つしかないと思った。それは「本当のこと」を言わないのである。「愛」が「真実」であった。しかし、それが「死」へと転化する恐れを順一は無意識に感じ取っていたのである。

夕食をとる順一も上の空であった。順一の妹である和子は相変わらず、順一を軽蔑すべき存在として順一から顔を背けていた。和子は順一に対して激しい憎悪の念を持っていた。そうして、順一も和子を激しく憎んでいた。彼らの間柄は冷え切っていた。しかし、その原因は順一自身にあるのだということは順一にはわかっていた。わかっていたのだが、和子の順一に対する侮蔑的な態度が順一をさらに一層、意固地にさせていた。和子の兄に対する侮蔑的な態度に順一が文句を付けると母親の房江は必ず和子の肩を持った。そして、次第に父親の隆志までもが和子の側にまわった。順一は追い詰められて来ていた。

「階段を下りるの時にばたばたと降りるのはやめなさい」

これは房江だった。房江はことあるごとに順一を攻撃した。それが息子に対する愛情からなのか、無意識的なところでの息子に対する嫌悪感からであったのかわからない。しかし、母親の攻撃が順一にとって心理的圧迫となっているのは確かである。最近、順一は母親の自分に対する愛情に疑問を抱くことが多くなっていた。自分を厄介者として母親が感じているのではないかということである。そういう点で妹の和子も同じであった。和子は明らかに順一を邪魔者だと考えていた。順一が自分の兄であるということ自体が許しがたいことであるかのように。事実、和子は順一のことを「お兄ちゃん」と呼んだことが一度もなかった。

「階段の降り方くらい僕の好きなようにしてもいいだろう!」

順一は母親の攻撃に耐えかねてこう言い放った。順一は、母親との間に起きるこういったことを、もう、いい加減に止めにしたいのである。その後、順一と母親との間に口論があったのは明らかであるが、父親の隆志の仲裁でその場は納まった。

順一は、夜寝る前に、今日起きたことを、ゆっくりと反芻した。あの間近に感じた郁美の肉体。恋について語ったこと。あのアスファルトの照り返しのある高台で順一が今日、感じたことは生涯忘れられぬことになるかもしれないと思った。太陽が強く、順一も郁美も汗で濡れていた。郁美の若い躍動する肉体とそれを覆う引きしまった皮膚に、順一は思わず吸い込まれていた。美と醜、郁美と順一であった。ふと、順一はオペラ座の怪人のことを思った。クリスティーヌが郁美で、怪人が順一である。しかし、男らしさのある郁美はクリスティーヌと調和しないかもしれないとも思うし、怪人のように郁美に教えるべき歌も音楽も順一にはないと思われた。一体、何が自分の財産なのか、と順一は自問した。勉強は人並みに出来る。それが順一の財産か。読書ができる。それが順一の財産か。しかし、それが、順一がこれから暮らしていくための金銭的支えになるのか。順一は不安だった。自分の前途にかかるもやもやとした暗雲が晴れないのを順一はもどかしく思っていた。順一は、どうしても寝付かれないので部屋で音楽を鳴らした。ハリウッド映画「シカゴ」のサウンドトラックだった。

”He had it coming. He had it coming. He only had himself to blame. If you’d have been there, If you’d have seen it, I betcha you would have done the same!”

「あいつが悪いのよ。あいつが悪いのよ。あいつだけが悪いの。あの場所にいて、あれを見たなら、誰だって同じことをするわ!」

順一はこのフレーズを気に入っていた。刑務所に入ってもなお、自分の犯した殺人を当然のことと開き直り、「何が悪いのか!」と歌う彼女たちの強さに順一は惹かれていた。「シカゴ」のヴェルマやロキシーのほうが、何人も殺したのに、刑務所に入るなり、急に大人しくなってしまい、過去の罪を反省したふりをし、かつての罪を劇化して商売にするような女よりもずっと性根が正直でいいと思った。一体、刑務所に入って、真の意味で悔悟する囚人が本当にいるのだろうか。そう、順一は思った。殺人のほとんどは綿密な計画か衝動によるものだろう。綿密な計画を練ったのなら、犯罪者たちは社会的に悪とされることをしているということは百も承知の上だろう。衝動で人を殺すなら、成り行き上そうなっただけで、自分に罪はないと思うだろう。たまたま、警察や裁判所といった権力機関に捕らわれてしまったために、彼らは無理矢理、自分の罪を意識するように仕向けされるわけだが、彼らが感じているのは、殺人の罪よりも、捕まってしまった自分の失態の後悔だろう。彼らは弱い。犯罪者は弱者なのだ。もっと強ければ捕まらないのだ。そう考えていくうちに、順一は自然と眠りに落ちていった。

翌日、順一は寝起きが悪かった。しかし、それはいつものことだ。寝付きも寝起きも悪いのが順一であった。寝起きが悪いというと、苦しいような印象があるが、それは起き上がることが苦しいのであって、順一は、起きる苦しみの一方で快い眠りと一体となっている幸福感にひたっているのであった。順一は今日これから起こることをふと思い出し、逃げ出したいような気分になったが、同時に郁美のそばに行けるという幸福をこれから手にするということに少なからず心引かれた。

順一はいつもよりははっきりした調子で一階に降りた。順一の朝食はいつもワカメとハムとゆで玉子とパンだ。パンを牛乳と一緒に食べた後、順一はカスピ海ヨーグルトを果物と一緒に食べた。カスピ海ヨーグルトは、母の房江が知人から種を譲り受けたもので、房江は毎日かかさず牛乳からヨーグルトを作っていた。話によるとこのヨーグルトはカスピ海沿岸地方から長寿食を研究している京都大学の教授が持ち帰ったものだという。

「今日はいやに早いじゃないの。どうかしたの」と房江である。
「別にどうもしないよ」順一は無愛想にそう言った。

房江は掃除、洗濯、料理を完璧にこなしていた。完璧な主婦である房江の前では、普通ならだらしがないとは言われない順一も、欠点だらけの息子と映るようであった。

順一は食事を終えると、洗面所に行き、歯を磨いた。今日はいつもよりも念入りに磨いた。大事な時に口臭がしたりしては問題だと思ったのだろう。歯を磨き終えると、ニキビを防止する洗顔用石鹸で顔を洗った。順一はもともとニキビが出来やすかったが、この石鹸を使い始めてからは、嘘のようにニキビが消えていた。しかし、だからといって、順一の容貌コンプレックスが解消されたわけではない。順一の容貌コンプレックスは根深いものであったが、克服するには好きな女に愛される体験であろうことは順一もわかっていた。しかし、順一の内気な性格からしてもそれは困難なことであった。克服困難なこのことを克服できたら順一は何の迷いもなくなるのではないかと思っていた。無論、人生はそういうものではない。ひとつ迷いがなくなれば次々に迷いが出てくるものだ。

ドアを開けると、朝の光が順一の目を射った。順一は自転車の鍵を外して自転車にまたがった。この自転車は三段階切り替えになっている。中学の頃から使っているのが事故で使えなくなったので、高校生になってから新たに買ったものである。オリーブ色の車体に、銀色のサドルがきれいに映えていた。握り手の部分は茶色のビニールで覆われていた。順一はアンドリュー・ニコル監督の映画「ガタカ」が好きで、「ガタカ」に出てきそうなデザインのものを好んだ。順一の時計や自転車がそれである。シンプルでクラシックな感じの上品な雰囲気、銀色に光る金具といったものが特徴である。順一は門を出てなだらかな坂道を登っていった。途中で左に曲がり、さらに坂を登っていく。この坂はなだらかではあるが、長く、かなり体力を消耗させる。順一はもう慣れているはずだったが、最後のほうになると息を切らしていた。信号を渡ってしばらくすると校門に着いた。


第六章

校門ではドイツ系アメリカ人の神父が英語で中学生たちに挨拶をしていた。彼はこの学校の校長である。順一も中学生の頃は、この赤ら顔の神父と英語で挨拶をしたことがあるが、いつも気恥ずかしい思いをした。日本語でも用が足せるのにわざわざ英語で話すからだろうか。また、会話の内容が普通なら話さないようなことであったためかもしれない。順一は靴箱で上履きに履き替え、高校の校舎へと移動し、階段で三階まで上がった。この学校は向かって右が中学校、左が高校というようになっていた。中学校に入ったものはほぼ全員高校へと上がっていた。中学校高校一貫の教育なのである。だから、中学生と高校生は気軽に交じり合っていた。

時計を見ると七時時五十分だった。朝礼まで三十分もある。教室には男子が五人に、女子が三人いるだけだった。順一は手持ち無沙汰のときはいつも文庫本を取り出すのだが、その日はそういう気分ではなかった。彼は教室の横のベランダに出た。学校が山の上にあるので、そこからの眺めはなかなかよかった。山間に住宅地が広く並んでいる。遠くゴミ焼却場の大きな煙突が見えた。その前は学校の敷地だろうか。グラウンドのようなものが見えた。心地よい風が順一の頬をなでた。するとそこに順一の親友の大岩真治がやってきた。

「どうしたんですか?今日はこんなに早く」大岩真治はなぜかいつも敬語を使う。順一だけにだけでなくみんなにそうなのだ。真治は実直な性格で、体格が良く、善良そのものといって良い人物だった。しかし、あまりに真面目なので、級友たちからからかわれることもあった。
「いや、今日は早く目が覚めたんだ」
「ふーん。そうですか。ところで、今日の英語の宿題やってきましたか?杉田先生は宿題を出しすぎですよね」
「そうだね。一応やったよ。僕は英語が好きだからいいけれど、嫌いな人にとってはひと苦労だと思うよ」
「数学の宿題を沢山出されるよりはいいけれど、かなり大変でしたよ。杉田先生、またみんなからだいぶ文句言われるだろうね」
「杉田先生は熱意があっていいのだけれど、ちょっと頑張りすぎだね。あれじゃ、みんな、ついて行けないよ」
「杉田先生は上智大学の英語学科でしたよね。聞くところによれば、中学・高校時代は英語づけの毎日だったそうで」
「よっぽど英語が好きなんだろうね。たしか杉田先生のお父さんも英語の先生だったらしいね」
「へー、そうなんですか。英語一家ですね」
「杉田先生はまだ教師になってから日が浅いのに、あれだけ頑張って僕は感心するよ」
「杉田先生は生徒に期待しすぎてるんじゃないですか」
「そうだね。時間がたてば、杉田先生の熱血ぶりもだいぶ調整されると思うけど」
「そうかなー。あの先生はずっとあんな感じじゃないのかなあ」
「あはは、そうかもしれないね」

八時十五分になった。生徒たちが続々と到着してきた。その中に、平岡郁美の姿が見えた。順一は、郁美を目で追ったが、郁美がこちらを向くと、急いで顔を動かして、見ていないふりをした。順一は明らかに自意識過剰であった。普通なら気にしないようなことまで気にするのが順一の性格だった。郁美にどう思われるということが、順一には何かとても怖いことのように思われた。郁美が教室の後ろのほうに行って、他の女子たちと話しているのを、順一はそっと盗み見た。郁美はいつもと変わらず能天気な様子で、お笑い芸人のマイケルのまねをしてふざけていた。《いや、いつ見ても美しい女だ。実にいい女だ。》順一はつくづくと胸の中でかみしめるようにそう唱えていた。

そのうち担任の浜島がやって来た。八時二十分になった。浜島は学級委員長の山中恭三に号令をかけるように言った。山中恭三が号令をかけると、生徒たちは立ち上がり、ややぞんざいに「おはようございます」と言って着席した。出席確認が始まった。浜島が名前を読み上げ、呼ばれた生徒が返事をした。《いつもどおりの朝だ。》順一はそう思った。順一にはそれがいかにも不思議なことのように思えた。順一が郁美たちのいるバレー部の部室に行く今日という特別な日が、順一以外の人間にとっても何か特別な日であらねばならないというような錯覚を順一は持っていた。しかし、順一以外の生徒たちにとって今日という日は昨日や一昨日とほぼ同じ価値しか持っていなかった。順一はそこに他の生徒と自分との隔たりを感じずにはいられなかった。

いや、それは今日だけのことではないかもしれない。順一は普段から自分と自分以外の生徒や他の人々に対していつも隔たりを感じていた。順一は自分を特別な人間と考えているわけではなかったが、自分が外国人であるかのように感じることが多かった。順一は精神的に孤独だった。順一はテレビをほとんど見なかった。新聞もマンガも読まなかった。そのため、順一は他の生徒たちの話題についていけないことが多かった。順一が接する情報は文庫本や新書、インターネット、映画に限られていた。順一は一見すると難しそうな本が好きだった。本当に難しい本は順一にも読めなかったが、多くの本は見かけよりも簡単であることに順一は気付いていた。順一が最も自分に近い存在だと感じていたのは、友人ではなく、父親の隆志であった。隆志が順一の小さい頃から順一に与えてきた影響は大きかった。隆志も文庫本が好きだった。隆志の本棚には千冊に達すると思われるほどの文庫本がつまっていた。中学生の順一にアメリカのO・ヘンリやイギリスのサキを教えたのも隆志だった。順一は、「ひねくれる」ということの良さを隆志から学んだように思う。

順一の理論はこうだった。一度だけ、「ひねくれた」者は、社会から迫害を受ける。だが、二度、「ひねくれた」者は三百六十度回転して、他の人たちと見分けがつかなくなり、社会に適合する。順一の目指しているのはこの「二度、ひねくれた者」であった。しかし、現実には順一は一度しかひねくれていなかった。順一は自分自身から見ても他人から見ても孤独であった。その点、順一のもう一人の親友で優等生の吉山幸一は、順一から見ると「二度、ひねくれた者」であるように思われた。だから、順一は吉山幸一を羨ましく思っていた。「二度、ひねくれた者」は、他人から見ると決して孤独なように見えない。だが、本人の中では他者との間に隔たりを感じ、孤独を感じているものである。順一は多くの偉大な思想家が孤独を感じつつ生きているのを知っていた。孤独そのものに意味があるのではなく、彼ら、偉大な思想家は、時代を先んじているために孤独なのである。ニーチェや夏目漱石といった人たちは、明らかにそのような傾向を持っていると順一は考えていた。


第七章

朝のホームルームが終わり、つかの間の休憩の後、国語の授業が始まった。担任の浜島が国語の教師だったので、浜島は教室を出ずにそのまま授業へと移っていた。浜島の授業は、東大入試を念頭においているもので、かなり難易度の高いものだった。順一は、浜島の試験ではいつも四十点程度しか取れなかった。その日も、宿題が出ていた難しそうな評論文が提示され、質問形式で授業が進んでいった。二時限目は英語だった。順一は英語が最も得意な授業であった。授業の初めにある単語テストは、授業前の十分の休み時間中に頭にたたきこみ、八割がた正解した。三時限目は数学、四時限目は美術、五時限目は世界史、六時限目は、物理だった。

帰りのホームルームが始まった。順一にとって、今日一日はずいぶん早く終わったような気がした。順一は郁美が今日、部室に一緒に行くことを覚えてくれているかどうか心配だった。順一のほうから部室に行こうと言うのは随分、変態的なことのように思われた。順一は郁美の席のほうをちらちら見るが、郁美は全くいつもと変わりがない。順一はここで考えてみた。いずれにせよ順一の好きなのが本当は郁美だということを今日は郁美に話さないのだ。だったら、バレー部の部室に行くということは意味のないことではないか。もしも、郁美が順一を呼び止めなければ今日は家にまっすぐ帰ろうということにした。順一は呼び止められないことを期待していた。呼び止められることがとても怖いことのような気がした。順一は自分が何かの犯罪を決行しようとしているように思えた。

「小平くん、私たちの部室に来てくれるんだよね!」

終礼後に平岡郁美が順一に言ってきた。順一は男の自分が本当に行ってもいいのかと聞いた。すると気にしないでいいと言う。順一はついに来るべき時が来てしまったと思った。郁美は順一に好きな人のことを聞いてくるであろうか、それともそのことは忘れてくれているだろうか。順一はもとより本当のことを言うまいと思っていた。しかし、郁美の匂いをかぎにバレー部の部室まで行くことは何だか恥ずかしいが、幼い子がお母さんのいるところに飛び込んでいくような誘惑があった。結局、放課後、順一はバレー部の部室に郁美と一緒に行くことになった。

「さあ、ぐずぐずしないで行くよ」
郁美は躊躇しがちな順一の手を引っ張って階段をおり、部室に向かった。順一は郁美に手を握られることだけでとても幸せだった。

部室に着くと、郁美は中で着替えている女子部員たちを待って、順一を中に入れた。もうすでに女子部員が五人ほど来ていた。

「郁美、誰を連れてきたの?」着替え終わった部員の一人が言った。
「小平くんだよ。いつもグラウンドに練習を見に来ている」と郁美は言って他の部員に目配せした。すると女子部員たちは意味ありげに笑顔を交わした。順一たちは他のバレー部員たちが全員そろうのをその場で待った。

「さあ、このなかの誰が好きなの?小平くん!」バレー部の部員が全員そろうと、郁美が言った。他の部員たちはずらりと順一を囲んでいる。順一は顔が真っ赤になるのを感じた。郁美以外にも魅力的な女子部員が何人かいた。運動着に出ている胸のふくらみやむき出しの太ももに順一はいいしれぬ興奮を感じた。順一は黙っていた。

「ほら、早くいいなよ。言ったら楽になるよ」これは他の部員である。

「よーし、どうしても言わないなら、小平くん、坊主にしちゃうよ!」
郁美はそう言って、バッグから電気バリカンを取り出した。順一はぎょっとした。順一は小さい頃から頭を丸刈りにされることに極端に抵抗感を感じていたが、郁美にそれが見抜かれているような気がしたのだ。

「わー、郁美、いいもの持って来たねえ」
「うん、前は兄ちゃんが坊主にするのに使っていたけど、私がもらったのよ。あたし、男の子を坊主にするの、得意なのよ。バーバー平岡よ」

「あのさ、別に好きな子がいるから見に来ているわけではないんだ。僕も昔バレーをしていたからちょっと興味があってね」冷静さを装って順一が答えた。しかし、言葉が少し震えているのに順一も気付いた。

「嘘つき嘘つき。嘘つきは損だよ。さあ好きな女の子の前で告白しちゃいなよ。教えてくれないんだったら女子バレー部の部室に入った罰として小平くんの頭を坊主にすることになるのよ」これは別の部員である。

「わかった。好きな人を言うよ。僕が好きなのは平岡さんだ」順一は必死に答えた。

「ええっ、あたしだったの」郁美はそれを聞いて絶句した。そして「小平くん坊主!」と言い放った。「あたしがやるから、みんな手伝って」

「そんな馬鹿な」順一は部室から逃げ出そうとした。ところが、高一、高二の女子部員たち五、六人が飛びかかり順一を力ずくで抑え付けた。女子部員たちは日頃から身体を鍛えているだけあって、ひ弱な順一から簡単に身体の自由を奪った。女子部員たちは順一を無理やり椅子に座らせた。椅子に座らされた順一は半ば諦めておとなしくなった。郁美はバリカンのコードを部室のコンセントにつなげた。

郁美はバリカンを右手で握りしめて無言のまま順一にじわじわと近いてきた。郁美は親指でバリカンのスイッチを入れた。ブーン……という音が順一の耳に入り、順一は恐怖でぶるっと身震いした。郁美は順一の前髪を左手で上に押し上げた。そしてぶんぶん唸るバリカンの刃先をおでこの生え際にくっ付けた。バリカンの刃が順一の髪の毛に入っていくとバリカンはそれまでの乾いたモーター音とは違うジィィィジジジジジという毛を刈る独特の音を出した。バリカンが動くにつれて順一の髪の毛はバリカンの上にこんもりと盛り上がる。バリカンが通ったあとは青々とした刈り跡が残っていく。他の女子部員たちはキャーキャーと騒いでいた。順一の真ん中の髪をあらかた刈り終わった郁美は順一の右耳を左手で抑えて耳周りの髪をどんどん刈り落としていった。順一の耳にはバリカンのブーンという音がことさら大きく聞こえた。右側を終えると郁美は左側も同じようにした。残ったのは後ろの髪だけである。郁美は左手でぐいっと順一の頭を前に倒して、襟足からバリカンを入れていった。とうとう長かった順一の髪の毛はあらかた刈り取られた。最後の仕上げに郁美は順一の頭全体にバリカンを走らせた。ものの十五分ぐらいで順一の頭はくりくりの青坊主になってしまった。

「きゃーかわいい!」一年部員の坂本春香が順一の刈りあがったばかりの坊主頭を両手でしゃかしゃかと撫で回した。「さっぱりしたじゃない」と、平岡郁美も満足そうに順一の坊主頭を撫でた。「あたしにも触らせてー」と叫ぶ声がした。女子部員たちはかわるがわるに順一の頭を撫で回した。


第八章

順一は本心状態だった。自分の受けた侮辱とも屈辱とも言える郁美の行為が一体何であったかも自分ではよくわからない有様だった。順一はいましめを解かれてから、その後どうやって家まで帰ったかよく覚えていない。ちょうど熱病にかかったように朦朧とした意識の中でいつのまにか自分の家の洗面所にいた。鏡の中には青々とした坊主頭の自分がいた。頭を手で触ってみるとザラッという独特の感触がした。それが自分の頭であるということが信じられなかった。タワシのようである。順一は小さいころから丸刈りにされることを極度に恐れていた。順一が中学から現在の私立の学校にいるのも丸刈りにされたくなかったからだった。順一が普通なら行くはずだった公立の中学校の男子は丸刈りと決まっていたわけではなかったが、順一には公立中学というと、男子が悪いことをすると体罰などで丸刈りにされるというイメージが頭にあったのだ。しかも、入学説明会で配られた説明には男子の髪型は丸刈りが望ましいとあったのだ。順一は小学校の四年ごろから塾に通って本気で勉強をし、見事、進学校である私立の中学校に入ることができたのだ。順一はなぜそのように丸刈りを恐れたのだろうか。それは次にあるような思い出のためかもしれない。

順一は小学校の低学年ぐらいまで当時四十代だった母方の祖母に髪を切ってもらっていた。母の妹である叔母は順一と十歳しか離れてはおらず当時は高校生だった。叔母さんというよりもお姉ちゃんのようだった。彼女はもちろん祖母と同じ家に住んでいた。順一はもともと髪を切られるのがどうも好きではなかった。だが、母に連れられて祖母の家に来ると、ときどき順一は祖母に髪を切られていた。その時、きまってこのお姉ちゃんは楽しそうに祖母の散髪の手伝いをするのである。祖母に髪を切られるときは、首にケープのようなものを巻くのではなく、チラシを切る髪の下のところにもっていって、落ちてくる髪の毛を受け止めるのである。祖母がぼくの髪を切っている間。順一の母やお姉ちゃんはこのチラシを持って落ちてくる順一の髪を受け止めていた。そのときにお姉ちゃんはよく順一に「順一くん、坊主にしたら?」と言ってきた。順一はそのたびに「いやだ」と言っていた。するとあるときお姉ちゃんは、順一の髪を切っている祖母に「ねえママ、坊主にするなら、やっぱりバリカンよね」と言い、「電動式のバリカンは吸うように髪が切れるんだって」とおねだりするようにつけ加えた。どうやらお姉ちゃんはどうしても順一をバリカンで坊主にしてみたかったらしい。幸いなことに順一は祖母に坊主にされることはなかったのだが、このときの体験の影響で、以後、順一は髪の毛を坊主にされることに対して普通の男の子が感じる以上の恐怖感を持つようになったのではないか。実はお姉ちゃんも小学生の頃までこの祖母、つまり彼女にとっての「ママ」に髪を切られていたそうである。順一が祖母に髪を切られていた当時、お姉ちゃんはもうすでに背中の真ん中ぐらいまであるきれいなストレートのロングヘアだったが、「ママ」に髪を切られていた頃のお姉ちゃんは、写真を見ると、前髪は眉の上で、横と後ろは耳たぶのあたりでまっすぐにすっぱりと切りそろえられたワカメちゃんのようなオカッパ頭だった。お姉ちゃんはそのワカメちゃんカットが恥ずかしくてとても嫌だったらしい。それで中学生になってからは、順一の母が祖母に「髪を伸ばさせてあげたら」と言ったこともあって、ロングヘアにするようになったという。

またこんなこともあった。順一は小学校低学年、つまり小学校一年生から三年生までの間、光岡先生という女の先生が担任をするクラスにいた。順一の小学校は二年ごとにクラスと担任が変わるようになっていて、普通なら一年生と二年生は同じ先生で、三年生になると別の先生に変わるはずだったのだが、偶然、順一は三年生も光岡先生が担任をするクラスに入ったのである。そして、光岡先生は順一が四年生になるとの小学校へ転勤となった。だから順一は一年生から三年生まで光岡先生のクラスにいたことになる。光岡先生は当時、二十六、七才であった。肩まである髪にソバージュパーマをかけていてつむじのあたりにバレッタをつけて髪をまとめていた。くっきりとした二重まぶたで目が大きかった。そして先生用の呼び笛を首にかけていてジャージを着ていることが多かった。光安先生は男の子の丸刈りが大好きだった。よくクラスの男の子が自分の髪の毛をハサミで切ったり、女の子の髪をひっぱったりしていたずらをすると、きまって光安先生はその男の子に「そんなことするんだったら、先生がバリカンで坊主にしてあげるわよ!」と言ったものである。またそれまで普通に髪を伸ばしていた男の子が青々とした丸刈りにして恥ずかしそうに学校にやってくると、光岡先生はとても喜んで「あらっ、さっぱりしたわねー。かっこいいじゃない!」と言って、手でその男の子の刈りたての青々した丸刈りをぐりぐりとなでまわしてにこにこ笑っていた。また、休み時間に教卓とは別に教室の隅にある先生の机に何人かの生徒たちが集まっておしゃべりをしていたときに、忘れ物をした人に何か罰を与えないといけないという話になったのだが、そのとき光岡先生は「忘れ物をしたひとは、頭を丸くする!」と笑って言った。順一たちがまだ「頭を丸くする」という意味がよくわからないと知って、光岡先生はちゃんと説明してくれた。「頭を丸くするっていうのはね、丸坊主にするってことよ。バリカンでウィーンって」と、手でバリカンを持つ真似をして、楽しそうに話していた。順一は本当にそうなるのではないかと内心、心配していたが、忘れ物をしたのが女の子だったらできないということで実現されなかった。それからこういうこともあった。田山くんというスポーツの得意な男らしい男の子がいた。彼はいつもスポーツ刈りにしていたのだが、そのときはずいぶん散髪に行かずに髪を長く伸ばしていた。すると、光岡先生は「田山くん、髪、伸ばしているでしょ。光ゲンジの諸星くんのまねしているの?」と田山くんに言った。田山くんが髪を伸ばしていると返事をすると、光安先生は「ダメ、坊主!」と言い放った。光安先生は本当に男の子の丸刈りが好きだったのだろう。順一はもうこの頃すでに丸刈りにされるということを極端に恐れていたので、光岡先生が丸刈りについて話す時にはドキドキさせられた。

これらは順一にとって断片的な記憶で、なぜ丸刈りを順一が極度に恐れたのかいまひとつわかりにくいかもしれない。もっと深く探っていけばこういうことなのではないだろうか。順一は、小学校五、六年ごろから女の子を性的に要求するようになった。もちろん頭の中だけでの話しだったが。ちょうどその頃、それまで髪を背中や腰まで伸ばしていた女子たちが何人か、ちらほらとバッサリと首筋までのおかっぱにカットして学校にやって来ていた。また、一年上の上級生の女の子が、卒業式の日に、それまで腰近くまであった長い髪を、襟足を少し刈り上げたようなショートカットにしてきていた。これは順一たちが普通なら行くはずだった公立中学校の校則が、女子は襟につかない程度の髪に切っておくことというものがあったためだろう。また、小学校五年生の時には、隣の髪が肩くらいまであった女の子が、耳の真ん中を通るラインで横と後ろを切りそろえ、ラインより下の襟足の髪をすべて短く刈り上げたワカメちゃんのようなおかっぱにしてやってきた。ちなみにその女の子が順一の初恋の相手だった。その女の子の話によると、お母さんが、あなたは髪が多いからそうしたほうがいいと言われたからだそうだ。しかし、これもどうやら中学の髪型校則を意識した母親の親心によるものだったようだ。順一はそれまで長かった髪を女子たちがバッサリと短くカットしてきたことにその頃、不思議な魅力を感じたものだ。順一はそれまで長かった自慢の髪を短くカットしなければならない彼女たちを可哀想だと思うと同時に、髪を切られる時の彼女たちの複雑な心理を想像して、性的に興奮していた。この性的興奮が逆になったところに、順一が丸刈りにされるのをひどく恐れる原因があるように思う。例えば、順一たち男の子が行かなければならない中学が、男子は全員丸刈りにしなければならなかったとする。するとちょうどさっきのとは逆のことが起こるわけである。小学校五、六年生ごろから、男の子たちは中学の校則を意識して、親に説得されるか、自分の意思で、ちらほらと丸刈りにして学校にやってくるにちがいない。あるいは中学校に入学式に、初めて丸刈りにしてやってくるかもしれない。その男の子たちの丸刈りになった頭を見て、女子たちは半ば馬鹿にしたように面白がって大笑いするだろう。実際にそういう話はよく聞く。その場合、男子にとって丸刈りは屈辱のヘアスタイルとなるわけである。順一は、女子たちが髪を短くするのを面白がっていたが、順一自身が丸刈りにされれば、逆に順一のほうが女の子たちから面白がられる対象になるわけである。女の子はショートカットかおかっぱとはいえまだ髪が長いのに、男の子だけ丸刈りになってしまうという不合理も、順一にとっては耐え難いことだったようだ。


第九章

順一は鏡の前でもう一度自分の丸刈りを手で撫でた。ふと、順一は泉鏡花の『高野聖』という小説を思い出した。山の中に美女が住んでおり、性的な邪心を抱いて彼女に近づく旅人たちを次々に動物に変えていた。しかし、熱心に修行をしていた若い僧は美女に誘惑されながらも、性的欲望を表に出さず、無事に旅路を続けることができたという筋である。さしずめ順一は美女の魔力によって動物に変えられる代わりに、郁美という美女に髪の毛を奪われてしまったことになる。

順一は自分の性的欲望のために、順一自身が最も恐れていた丸刈りにされてしまった。日本や中国の仏教の修行者は、出家する際に、髪の毛を剃り落として坊主頭になる。それは髪への執着を捨てるためだという。そしてそれはさらにはあらゆる欲望を捨て去ろうという決意につながっている。順一の性的欲望も郁美のバリカンによって髪の毛ともに刈り落とされたのだろうか。もしそうであれば順一は幸せだっただろう。しかし、実際はそうではなかった。自分の性的欲望の暴走が、鏡の中にいる情けない丸刈りの自分にしたということで後悔の念はあったが、むしろ、順一の性的な欲望は、郁美に丸刈りにされてからさらに激しく燃え上がっていた。欲望とは苦しみである。特に容易に満足させることのできない欲望は非常な苦しみである。順一の郁美に対する性的欲望は順一を激しく苦しめていた。順一は生まれて初めて丸刈りになったことによって、自分の性的欲望が髪の毛への執着、すなわち丸刈りを恐れる心理とつながっていることをあらためて見出したように思った。順一は郁美に丸刈りにされた。順一は、最も恋しいと思っている人から、最も大事に思っていた髪の毛を奪われたのである。それは順一が郁美に征服されたことを意味していた。そこには奪われる快感、征服される喜びがあった。郁美のバリカンで丸刈りにされることは実は順一自身が無意識のうちに最も望んでいたものだったのではないだろうか。自分が最もされたいことと、自分が最もされたくないことは、実は同じであるという奇妙な論理である。郁美の手に、ぐっと抑え付けられながらバリカンで髪の毛を刈られる時、順一の心にあったのは屈辱感ではなく燃え盛る性的な欲求だった。事実、髪の毛を郁美のバリカンで刈られている順一は男性器を激しく固く勃起させていたのである。


第十章

家に帰った郁美は、カバンを放り出し、テレビをつけて、畳のうえにゴロンと横になった。郁美は、バレーの部活が六時半に終わって、七時半に帰ってきた所である。今日の練習を振り返ってみると、みんなサーブのレシーブの正確さがまだ足りないと思った。郁美が入部した当時より、ハードな練習で部員たちの体力はかなり上がったと思うのだけど。郁美は置きっぱなしになっていた先月買ったファッション誌を拾い上げて、ぱらぱらとめくった。郁美は高校に入ってからファッション誌を買うようになった。中学時代は部活が忙しすぎて、そういったことに気が回らなかった。ファッション誌は、郁美がそれまで置き忘れてしまっていた女の子の雰囲気でいっぱいだった。そんな雑誌に載っているような服を、郁美は少ないが何着か持っていた。それとお気に入りのブーツを一足。どれもお小遣いをためて買ったものだ。それから趣味でシルバーアクセサリを作っている中学時代の友達からもらった、ネックレスと、ピアスをいくつか。それらをうまくくみあわせて部活のない休みの日に友達と街を出歩くのが高校生になってからの郁美の楽しみだった。髪もヘア雑誌を見るようになったし、小さいころから中学校を出るまでずっと通っていた床屋をやめて、友達に紹介してもらった美容室に通うようになった。そんなふうに「変身」した郁美を見て、父親の良治は「郁美は母さんに似てきたな」と言った。郁美の母親の一枝は郁美が八歳のときに白血病で死んだ。郁美の記憶に残っている母親は若々しくて綺麗な人だった。家に残っている写真を見ると、郁美の母は少しウェーブをかけたロングヘアをひとつに束ねて胸にたらしている。今の郁美とは髪型が違うが、言われてみれば、なるほど郁美と顔つきが似ている。特に目元と鼻の形がよく似ていた。

郁美はテレビを見るともなし見ながら、小平順一のことを考えた。男の子から愛の告白をされたことはこれで二度目だ。一度目は、中学二年生の時だった。最初に告白された時の相手の男の子とはもともと一年の頃から同じクラスで仲の良かった友達で、短い期間ではあったが付き合ったこともある。しかし、郁美の部活が忙しすぎてあまり相手にできなかった。その男の子は郁美の初体験の相手でもあった。その男の子と初めてキスをした同じ週に郁美はその男の子と親たちが出払って誰もいない男の子の家で昼間に交わった。郁美はその男の子が好きだったが、その男の子は、郁美があまりに部活に忙しくて相手にしてくれないのを見かねて、付き合い始めて四ヵ月後に郁美に別れようと言ってきた。郁美にとっては部活をとるか恋愛をとるかの境目だったが、郁美は涙を飲んで部活を選んだ。全国大会に参加できるほどのバレー部で有望視されていた郁美は部活を選ばざるをえなかった。それに郁美はバレーボールが好きだった。しかし、よりによって小平くんが郁美のことを好きだとは。郁美は意外だった。小平くんは郁美と同じクラスでも、どちらかというと存在感のない生徒だった。郁美のことを好きだと思わせるような素振りを、小平くんはクラスで一度も見せたことがない。だって、今まで郁美は小平くんとほとんど話をしたこともなかったのだ。バレー部の部活の様子をこっそり見に来ていたのは、一ヶ月前から知っていたが、小平くんのお目当ては、てっきり、郁美の学年で特に男子から人気のある山口香織だろうと思っていた。たしかに高校に入って、お洒落に気を使うようになったけれど、郁美は自分がもてる女だとは一度も思ったことがない。性格だって男っぽいし、顔にもあまり自信がない。高校に入ってできた郁美の親友の原里藍利からも、郁美の顔はカワイイけどちょっと男っぽい顔をしていると言われたことがある。郁美は自分にある男っぽいところを気にしていた。もっと女らしくなりたい。郁美はそう思っていた。それは郁美が小さい頃、お母さんのことが大好きだったことと繋がっているようだ。大きくなったらわたしもお母さんみたいになりたい。それが郁美の夢だった。しかし、二人の兄の影響で、郁美は小さい頃から男の子と一緒にドッジボールとかサッカーとかそういう男の子っぽい遊びばかりしていた。お母さんみたいになりたいと思う反面、男の子らしい遊びが好きだった郁美は、自然と男の子のような性格になっていた。郁美は何事もさっぱりと割り切って考えるほうだった。ねちねちと考えるのは苦手だった。小平くんが好きな人を言わない時のことを考えて、ちょっと意地悪だけど、ふたつ年上のお兄ちゃんが野球部の時に使っていたバリカンを持っていったのも別に深い考えがあったわけではない。郁美は去年までお兄ちゃんに頼まれて、お兄ちゃんを月に一度はバリカンで坊主にしていた。慣れないうちは面倒だったけど、慣れてくるとバリカンをかけるのが好きになった。刈った髪がバサバサ床に落ちていくのがすっきりして気持ちいい。だけど、小平くんを坊主にしようと思っていたわけではない。ただ、たいていの男の子は坊主にするというと嫌がるということを知っていたから、半ば遊び心で持っていっただけだ。使うつもりはなかった。小平くんを坊主にしたのは成り行き上そうなってしまったわけで、悪いことをしたかなあと郁美はちょっと反省した。小平くん傷ついてないかなあ。女子たちに押さえつけられて、無理やり坊主にされちゃったから。まあ、バレー部のメンバーには今日のことは誰にも言わないようにと言っておいたし、小平くんも郁美のことが好きだって言うから親や先生には何も言わないと思うけれど。明日、小平くんに会ったら、一応、あやまっておこうかな。そう思って、郁美は立ち上がった。そろそろお父さんが帰ってくるから、夕食を作っておいてあげよう。郁美の兄たちが高校を卒業してひとり立ちして家を出て行ってから、郁美は父親の誠一と二人で生活していた。誠一は早く帰ってきた時や、休みの日になると夕食を作ってくれたが、それ以外の日の夕食は郁美が作っていた。今日は豚の生姜焼きだ。昨日、豚肉を買っていたので、料理するだけだ。後はキャベツの千切りに味噌汁でもつけておけばいいだろう。ご飯はタイマーでセットしてもう炊き上がっている。


第十一章

翌日、順一はいつもの通り、朝のホームルームが始まる直前に教室に入った。昨日早く来たのは特別だったのだ。

「小平くん、どうした?坊主になってるじゃないか」佐山吉平という男子生徒が順一の頭を見て驚いて話しかけてきた。
「いや、ちょっとね。別に何でもないんだよ」順一は適当な言い訳を見つけることができず、曖昧な返事をした。
「心境の変化?」
「まあ、そういう感じ」順一は少し無理に笑って見せた。

他の男子や女子たちも興味ありげな視線で順一を見ている。そのうち女子バレー部のメンバーで同じクラスの山岡美穂と神田洋子は事情を知っているわけである。順一が予想していた通り、皆の好奇の目が順一に集まってしまった。正直に本当のことも言えず、かといって適当な言い訳が見つかるわけでもない。順一の両親には男友達とふざけて坊主になったと説明していたが、学校で同じ言い訳を言うわけにはいかない。順一は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。そして、平岡郁美の姿を探した。郁美はまだ来ていないようだ。この時間にいないということは遅刻である。順一はほっとしたような、また不安なような複雑な気分を感じた。

「頭、思い切って切ったんですね」親友の大岩真治が心配そうな顔をしてやって来た。
「そうなんだよ。みんな驚いているみたいだけど、別に何でもないんだよ」
「ならいいけど、ちょっと驚きましたよ」

担任の浜島が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。浜島が出席簿を読み上げている途中に、平岡郁美が教室に入ってきた。
「平岡、遅刻だぞ」
「先生、おまけして、ほとんど遅れてないからさあ」
「だめだ。さっさと席につけ」

順一は郁美の姿を見てドキッとした。席に着いた郁美はいつもと変わらない様子である。昨日、部室で郁美のことが好きだと言ってしまったことを後悔した。もうクラスや学年でも噂が回っているのじゃないか。そしたら自分はどうなるのかとても心配だった。そして何より、これから郁美が順一にどういう態度を示すかが恐ろしかった。

ホームルームが終わったあと、郁美はバレー部の美穂と洋子を呼び寄せ、教室の横のベランダに出て行った。何やら話をしているようである。順一はその様子を、教室の中から窓越しに気づかれないようにそっと見つめた。もうだめだ。郁美と絶交される。もしかしたら、女子たちからいじめられるのではないか。不安ばかりがつのってくる。順一は恐怖を感じていたが、同時に、郁美に対して以前にも増して愛しい気持ちが高まってくるのを感じた。もし、郁美にひどいことを言われるようなことがあっても、郁美を恨むことは到底できそうにない。順一はそう思った。窓越しに空を見ると、雲がいくつか浮かんでいるが、青空で太陽が輝いている。


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