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思索とアートとヘアカット
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『茜の断髪フェチ』
加来典誉

第一部

理容師をしています川本優子(かわもとゆうこ)と申します。子供の頃からお店を介してお付き合いしていた本田茜ちゃんが結婚することになり、結婚式でのスピーチを頼まれました。たどたどしいスピーチになってしまいましたが、もっと詳しく知りたいというお姉様方からの要望で、もう一度、思い出を整理して文章にしてみることにしました。あまりうまい文章とは言えないかもしれませんが、何か得ていただけるものがあると幸いです。(茜ちゃんには一生秘密になる予定です…。結婚式ではぼかして話していた内容がかなりありましたので…)

茜ちゃんと最初に出会ったのは、茜ちゃんが中学に入学する時でしたので、かれこれ、19年ほど前になります。これで茜ちゃんの年が31歳というのはわかりますが、わたしの年はわかりませんね。わからなくていいです(笑)。当時の様子を小説っぽく紹介します。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「ご来店は初めてですよね」
「はい」
「中学生のお客様ですか?」
「今度、中学生になります」
「今日は、カットをご希望ですか?」
「はい…」

初めて会った背中までのロングヘアーの茜ちゃんはなんとなく元気がありませんでした。当時の公立中学は髪型校則があり、中学に入学する際に、男の子は丸刈り、女の子はオカッパ、ショートカットになるというのが全国的にも普通でした。わたし自身が学生の頃は、そういう規則がなかったので、なんとなく可哀想と思いながらも、ついついワクワクしながら、ハサミやクシや電気バリカンを動かしてましたっけ。わたしのお店には春になると取り出す魔法の小箱がありました。中身は男の子の丸刈り用の清水の電気バリカン水色の刈布(男の子の丸刈り断髪式専用)、オカッパハサミショートカットハサミクシピンクの刈布(女の子の断髪式専用)。新中学生のヘアカットのためだけに用意された大事な道具(今は茜ちゃん専用)です。茜ちゃんのカットをした年に、女の子用に新発売の松下電工の紫色のスキカル(家庭用バリカン)を購入していました。色も淡い青になっていて、丸っこくて可愛いデザインだったので、女の子用にピッタリと思って買いました。以前は別のメーカーの小型のバリカンを女の子用にしていました。

「こちらへどうぞ〜」わたしはウキウキしながら席の方に茜ちゃんを誘導しました。
「ロングヘアーはずっとですか?」
「幼稚園の頃からです」
「よくお似合いですね。今日は揃え髪ですか?」(わざと)
「いえ、中学に入るので、校則で短くしないといけないんです」
「そうですか。いい気分転換になるといいですね。じゃあ、座ってください」
わたしはニコニコして、茜ちゃんを鏡の前の断髪椅子に座らせました。

「オカッパかショートカットですよね」
「オカッパにしてください」
「わかりました」
「オカッパにも色々長さがありますが、説明を聞きたいですか?」
「お願いします」
「校則で許可されている一番長いオカッパは、襟につかない長さなので、下アゴのラインになります。それより短いと、アゴの根本のラインです。それから、耳たぶのギリギリのライン。そして、耳たぶを全部出したライン。それから、鼻のてっぺんの位置のライン、これは耳を半分にしたラインくらいになります。それから、目の位置のラインです。耳たぶを全部出したラインにすると、襟足を少し剃ることになります。それより短いおかっぱの場合は、いわゆるショートボブということになりますが、後ろをグラデーションにするか、刈り上げることになります。いい?」
「わかりました」
「どの長さにする?」
「そうですねぇ、よくわからないです」
「一般的に、面長の方は、オカッパが似合って、丸顔の方は、ショートカットが似合うというのが定説です。ちょっと待ってね。わたしが昔描いた絵があるから」
わたしは引き出しからメモ紙を取り出して茜ちゃんに見せました。絵は、面長の人のオカッパ、丸顔の人のオカッパ、面長の人のショートカット、丸顔の人のショートカットでした。茜ちゃんは笑ってました。
「丸顔の人のオカッパがおかしいんじゃないですか?」
「そうです」
「お人形さんみたいになりますよね」
「お客様は、面長なので、確かにオカッパが似合うかもしれないけど、逆に面長の人のショートカットも色っぽいこともありますよ。あまり容姿に自信がない人が、ショートカットにすると、オジサンみたいになってしまうので、そういう時は、わたしはオカッパを勧めるんだけど、お客様はなかなかおキレイなので、ショートカットもいいんじゃないかな?」
茜ちゃんはニコニコしていました。
「ショートカットのモデルさんの写真を見せてもいい?」
わたしは雑誌の切り抜きを集めたファイルを持ってきました。長くなるので詳しいところは割愛しますが、茜ちゃんが気になったのは、香港の女優の、アニタ・ユンの写真でした。いくつか写真があったのですが、特に気になっていたのは、ボブからセミロングくらいの長さの写真と、耳出しのショートカットにしている写真でした。
「このショートカット、素敵ですよね」わたしはさりげなく断髪椅子に座った茜ちゃんの髪を触りました。
「そうですね」
「どういうところ気に入ったんですか?」
「とにかく可愛いです」
「アニタ・ユンは、丸顔と面長の中間くらいの顔なので、ボブもショートもよく似合いますね」
「うらやましいです」
「お客様、お名前をうかがっていいかしら?」
「本田茜です」
「わたしは川本優子と申します。よろしくね」
「本田さんは、髪が長いアニタ・ユンと、髪が短いアニタ・ユンでは、どちらが好きですか?」
「そうですねぇ、短い髪のほうが好きです」
「他の人の髪だと、短い髪がいいように見えますが、自分のこととなるとまた別という感じかな?」
「そうですね」
「短くするのは簡単ですが、長く伸ばすのは大変よね」
「そうですね」
「ショートカットはもしかして本田さんの憧れの髪型?」
茜ちゃんはニコニコしていました。
「どうしてですか?」
「ロングヘアーにしていると、なかなか自分では勇気を持ってカットできないから…」
茜ちゃんはニコニコして、うなずきました。
「わたしもロングヘアーだからわかるな。ショートカット、いつかしてみたい?」
「そうですね、いつかしてみたいです」
「わたしは理容師をしてるけど、肩より短い髪にしたことがないのよね。セミロングとロングだけで、オカッパとかショートカットにはしたことがなくて、本田さんみたいに、学校の規則で髪型を決められたら、わたしも短い髪に挑戦していたと思うんだけど。短い髪に挑戦できる本田さんがちょっとうらやましいわ…」わたしは片手を口に当てて、上目遣いで茜ちゃんを見ました。
「ホントですか〜」茜ちゃんはニコニコしながら、口を閉じて顔をぷーっと膨らませました。
「やっぱり髪を短くするのイヤ?」
「ちょっと抵抗があります」
「そうですか、ごめんね。わたしがロングヘアーだからサ」
茜ちゃんはニコニコしていました。
「カットの準備、していいですか?」
「はい」
わたしは茜ちゃんの首に黄色のタオルを巻き、魔法の小箱から、ピンク色の断髪式専用の刈布を取り出して、タオルの上から茜ちゃんにかぶせました。そして、刈布の中から、茜ちゃんの黒髪ロングヘアーをどっさりと外に引き出しました。ほのかにシャンプーの香りがしました。
「オカッパにするときと、ショートカットにするときでは、最初のバッサリに違いがあるって知ってる?」
「知らないです」
「知るわけないわよね。オカッパにする時はですね…」
と言ってわたしは、茜ちゃんのロングヘアーを左横と、後ろと、右横に分けて、垂らしました。
「こんなふうにするの」
「ふーん」
「どうしてかわかる?」
「わからないです」
「理容室では、オカッパは、最初のカットで一発で短くカットするんです。横と後ろに分けていないと、長さがまちまちになってしまうので」
「なるほど」
「ショートカットにするときは、こんなふうに…」
と言って私は、茜ちゃんのロングヘアーを全部後ろに垂らしました。
「最初に一気にザクザクと首の襟足の生え際あたりで切ってしまいます」
茜ちゃんはニコニコしていました。わたしは、茜ちゃんのロングヘアーを全部後ろに垂らしたまま、ブラシで丁寧にとかしていきました。5分くらいとかし続けました。

断髪の刑務執行の準備完了です(笑)。

「さぁ、お客様、今日はどうしましょうか?」
茜ちゃんはニコニコしています。無理をして笑っているのはわたしにもわかりました。やはりつらいんでしょうね。断髪椅子の足台に載せた茜ちゃんの足が気持ち内股になっていました。
「ショートカットにしてください」
わたしはビクッとしました。わたしの下半身が嬉しさで小躍(こおど)りしました。わたしは断髪式の際に、受刑者(?)に、自分で、「ショートカットにしてください」とか「丸刈りにしてください」と言わせるのが好きです。受刑者にこれから受ける刑を確認させる大事な意味があるんですよネ(笑)。受刑者が自分で刑を口から出して確認する時の顔の表情は、いつも恐怖とあきらめが混じった独特の表情です。
「本当にいいんですか?オカッパじゃなくて」わたしはわざと言いました。
「いいです。確かにわたし、ショートカットに憧れていたので」
「ショートカットの茜ちゃん、素敵だと思いますよ。しばらく長い髪ともお別れね…。サッパリしましょう」わたしは口角をあげてニコッと笑いしました。
茜ちゃんはニコニコしてほっぺたをぷーっと膨らませました。
「川本さん、面白がって言ってるやろ?」
「そんなことないよ〜」
「もぉ〜!」茜ちゃんはプンプンと首を横に振りました。この時、茜ちゃんとは長い付き合いになるんじゃないかと思いました。これは茜ちゃんの結婚式でも言いましたよね。

「前髪はどうしますか?」
「眉にかからない長さにしてください」
「横の髪はどうしますか?」
「耳を出してください」
「後ろはどんなふうにしましょうか?」
「おまかせします」
「わかりました」

「じゃあ、ちょっと辛いだろうけど、頑張ってくださいね。では、サッパリと…」わたしはいそいそとオカッパハサミ(断髪ハサミ)を握って、クシを持った左手で、茜ちゃんのロングヘアーを軽く触りました。茜ちゃんは鏡から目を離しました。つらそうな気持ちが顔の表情から見て取れます。わたしの下半身が思わずうずきました。男の子の丸刈りの時は、バリカンのスイッチが入った時がまたなんとも言えない表情をするですよね。ふふ(爆)。

わたしはハサミを開き、バックハンドで、一気に茜ちゃんのロングヘアーを首筋でカットしていきます。わざと髪を濡らさないでカットしました。乾いた髪をカットする感触を味わいたいからです。

ザクザクッ、ザクザクザクッ♡、ザクザクザクザクザクッ♡…、

髪がカットされる切ない音が部屋に響きます…。半分、切り終わりました。

ザクザクザクッ、ザクザクッ♡、ザクザクザクザクザクザクザクッ♡…、

ザクザクッ、ザクザクッ♡、ザクザクザクザクッ♡…、

全部切り終わりました。長かった茜ちゃんの髪の毛は、長い頃がウソだったようにサッパリと短くオカッパになってしまいました。わたしの心を何とも言えない満足感と喜びが包みます。同時にポカポカと温かい気持ちがわたしの身体中に広がりました。茜ちゃんに対する愛(いと)しさが湧き出してきました。
「どうですか?こんなに短くするのは初めて?頭が軽くなったでしょ?」
茜ちゃんは、目をパチパチして、口をポカーンと開けています。
「頭が軽いです。信じられないくらいに…」
「すぐに慣れますよ。憧れのショートカットに近づいてきて嬉しいでしょ?」
「はい・・・」
茜ちゃはニコニコしています。やっぱりちょっと無理をしているようです。つらさが茜ちゃんの表情から伝わってきます。

わたしは霧吹きで、茜ちゃんの短くなった髪を湿らせました。

わたしはショートカットハサミに持ち替えました。カットは続きます。

ジョキジョキッ、ジョキジョキジョキッ、ジョキジョキジョキッ、ジョキジョキッ…、チョキン♡…、

前髪は、眉上3センチで真っ直ぐに切り揃えました。

サクサクッ、チョキチョキチョキッ♡…、サクサクッ、チョキチョキッ♡…、

もみあげを短めにして、左耳を全部出しました。

チョキチョキチョキッ…、サクサクッ、チョキチョキッ…、サクサクッ♡…、

右耳が全部出ました。やっぱり、ショートカットは、耳は出す!

茜ちゃんは髪が多いので、後ろはダッカールでブロッキングしてカットしました。

「すこぉ〜し、後ろは刈り上げようか?」
「えっ?」
「後ろを短く切り揃えてもいいけど、2センチくらい刈り上げたら、自然な感じになりますよ」
「おまかせします」
「わかりました」
わたしはハサミとクシで、茜ちゃんの後ろの生え際の髪を2cmくらい刈り上げてきます。

シャキシャキッ、シャキシャキシャキッ♡…、シャキシャキシャキッ♡…、

「パリッとした短めの刈り上げが可愛いと思いますが、どうですか?」
「いいと思います」
「じゃあ、バリカンを使いましょう。いいですか?」
「いいですよ…」
茜ちゃんの顔にサッと恐怖の表情が浮かびました。わたしの胸は思わずキュンとなりました。(うふふ…)

わたしは棚から完全充電済みの紫スキカルを出しました。

「このバリカン知ってる?女の子用なの…」
「知ってます。スキカルですよね。宣伝で見たことあるから…、女の子用なんですか?」
「わたしがこのお店で勝手に決めてるだけ(笑)。男の子の丸刈り用はこれ」
と言ってわたしは魔法の小箱から、清水の業務用バリカンを出しました。茜ちゃんはニコニコしています。
「男の子は動物用。女の子は人間用というふうにしているの…」
「ははは…、いいですね、やっぱり男の子は動物用ですね」
「長い髪で虚勢を張っていた男の子も、このバリカンで髪を刈り落とされて、自信を失うのよね。面白いわよ。」
「いいですねぇ〜!」
「ついでに女の子の髪型校則も!中学生の女の子はやっぱり短い髪がいいわね!」
「もぉ〜っ」茜ちゃんはまたプーッとほっぺたを膨らませました。
「うふふ…、わたしだけロングでごめんね…」わたしは満足して茜ちゃんの短くなったトップの髪をつまみながら茜ちゃんにほほえみかけました。茜ちゃんはニコニコしていましたが、わたしが右手で持ったスキカルを見て、サッと恐怖の表情を浮かべました。

「バリカンのスイッチを入れるけどいい?」
「はい…」
「つらい?」
「そんなことないです…」
私はスキカルのスイッチを入れました。ウィ~ン…、

茜ちゃんは相変わらず無理をしてい笑っていましたが、やはり恐怖は隠せない様子です。

ウィ~ン、ジョリジョリジョリ♡、ジジジ……、

わたしは茜ちゃんの襟足にスキカルを入れていきます。スキカル〜、スキスキ、スキカルカァ〜ット♪うふふふ♡

ウィ~ン、ジジジ…、 ジジジ、ジョリジョリ♡、ジジジ……、ウィ~ン、

スキカルのスイッチを切りました。あ~ら、こんなに短くなっちゃって…。思ってたより、短くなっちゃったわね。少し青くなってチクチク、ゾリゾリ…。カワイィ〜!

シャンプーをし後は、剃刀の準備です。うなじともみあげをゾリゾリゾリ♡。ピシッとそろってラインくっきり。

刈布を外します。茜ちゃんはホッとした表情。首に巻いたタオルを外すと思いきやわたしの余計なおせっかいは続きます。

「あっ、ちょっと待って…」

わたしは、スキカルをもう一度手に取りました。茜ちゃんの顔がサッとこわばりました。(うふふ…)


わたしはスキカルのスイッチを入れました。

ウィ~ン…、

わたしは手に持ったスキカルの電源を入れたまま、茜ちゃんから体を少し離し、茜ちゃんの刈り上げの仕上がりを確認します。茜ちゃんは目をキョロキョロと下向きに動かしてつらそうな表情をしていました。そして、茜ちゃんの襟足2センチにスキカルをもういちど軽く走らせます。

ジリジリ、ジョリッ♡、ジリジリ♡、ウィ~ン…、 ジリジリッ♡、ウィ~ン…、

わたしはスキカルのスイッチを切りました。茜ちゃんは放心状態。(うふふ…)茜ちゃんの首に巻いたタオルをとって、出来上がりです。ロングヘアーだった茜ちゃんは、清潔感あふれるショートカット美人に…。ショートカットになった茜ちゃんの髪の毛にはもうシャンプーの香りはありません…。ス・テ・キ♡

「初めてのショートカット、どうですか?」
「かわいいと思います」

…ブスッとしてなんとなく不服そうな茜ちゃん(笑)。

「なーに、ブスッとしちゃってぇ〜!ブスッとしないで笑顔笑顔!」

茜ちゃんは少し無理してニコニコしました。(う〜ん、かわいい!)

「恥ずかしい?」
「ちょっと恥ずかしいです…」
「みんながなんていうか楽しみね」
「そうですね…」
「髪を切った記念に写真はいかが?」
「えーっ、写真に撮るんですか?」
「いや?」
「いいですよ」

茜ちゃんの写真撮影が終わりました。

「現像するけど、写真欲しい?」
「欲しいです」
「じゃあ、あさって以降に取りに来てください」
「わかった」

茜ちゃんは、カット代二千円を払って帰っていきました。これが茜ちゃんとの最初の出会いでした。中学入学で断髪式をする女の子で、わたしがショートカットにできた女の子は、全員、後ろは刈り上げにしてました。春先は、襟足から2センチのちょい刈り上げですが、夏場は、10センチくらい後ろを刈り上げます。茜ちゃんもそうする予定でした。

最初の日からあさってに茜ちゃんがお店に来ました。

「写真できたわよ、お渡しします」
「ありがとう」
「襟足見せて」
「どうして?」
「いいから」
「はい…」
「わぁ、かわいい〜!」
「えっ?!」
「写真撮っていい?」
「ちょっと待って。どういうこと?」
「鏡持ってくるね」

「はい」
「うわぁ〜…」

茜ちゃんの襟足をカミソリで剃った後が、毛が生えてきて、プツプツと黒い点々ができていました。

「かわいいでしょ?」
「たしかにかわいい…」
「恥ずかしい?」
「ちょっと恥ずかしい…」茜ちゃんはニコニコしていました。

わたしは構わず、茜ちゃんの襟足をカメラで撮影しました。

「ショートカットは続けるの?」
「うん、続ける」
「みんななんて言ってた?」
「かわいいって言ってた」
「お友達?」
「そう」
「お母さんは?」
「かわいいって言ってた」
「小学校の先生は?」
「かわいいって言ってた」
「女の先生?」
「そう」
「どういうとこがかわいいって言ってた?」
「刈り上げ…」
「ふーん、ショートカットになって後悔したりした?」
「そんなことないよ」
「ヘアバントとか、バレッタとか、ロングヘアーの時に使ってたヘアーアクセサリを見たりするとつらくない?」
「ちょっとつらい…」茜ちゃんはニコニコしてました。
「伸ばしていい時まで、わたしが預かってあげようか?」
「いいかも」
「何人か預かっている人がいるのよ。今んところ、3人くらい」
「そうなんだ…」
「ショートカットを続けるんだったら、毎月、カットに来てくれない?半額にしとくわよ」
「どういうこと」
「普通はカットは二ヶ月に一回くらいよね。ショートカットは、頻繁にカットした方が、形が崩れないから、一ヶ月に一回がベストなの。でも、お金が倍かかるでしょ。わたしが指定した日付と時刻に来ててくれるなら、わたしも困らないし、二ヶ月に一回カットするだけの料金で、カットしてもいいと思ったの。あんまりこんなことする人いないけど、茜ちゃんならいいと思って、かわいいいから…」
「嬉しい!」
「一ヶ月に一回カットに来る?」
「行きます」
「おばちゃんも嬉しい。ヘアアクセサリーのことと合わせて、お母さんに説明しておかないといけないわね」
「そうかな」
「お家の電話番号、教えてくれる?今いらっしゃるかしら?」
「家にいると思うよ。番号教えるね」

わたしは茜ちゃんの家に電話してみました。お母さんは、ヘアアクセサリーの件と、カット代金半額の件を了解してくれました。

「じゃあ、また」

茜ちゃんは帰っていきました。わたしは、茜ちゃんが見えなくなると、すぐにもう一度、茜ちゃんのお母さんに電話しました。

「何度もすいません」
「どうしたんですか?」
「ちょっと聞きたいことがあって…」
「なんですか?」
「茜ちゃん、ロングヘアーからショートカットにしましたけれど、何か変化はありましたか?どんな様子でした?」
「変化、ありましたよ」
「どんな変化ですか?」
「ちょっと落ち込んでましたね。気になって鏡ばっかり見てました」
「やっぱりそうですか。本人に聞いたら、そんなことないって言ってましたけど…」
「そうですか。恥ずかしいんじゃないですか」
「そうでしょうね。女の子は、オカッパだと、あんまり落ち込まないんですけど、私の経験上、ショートカットは、カット後に後悔して落ち込む女の子が多いんですよ」
「そうなんですね」
「男の子だと、悪いことをした時に丸刈りにすると、ちょっと落ち込んで、悪いのが治るというのがあるんですけど、女の子の場合、ショートカットにするっていうのがあるんですよ」
「そうですね」
「やっぱりロングヘアーをショートカットにすると、女の子は落ち込むことが多いです。男の子の丸刈りはともかく、女の子でショートカットにすると、性格に変化があるっていうのは、まだ知らないですよ。茜ちゃんはショートカットを続けるみたいなんで、お母さんに時々、どんなふうに性格が変わったか聞いていいですか」
「いいですよ。わたしも楽しいです」
「お母さんは、ロングヘアーの茜ちゃんと、ショートカットの茜ちゃん、どっちか好きですか?」
「やっぱりショートカットですかね」
「ショートカットにすると、本人の性格が変わるということもあると思いますが、その女の子に対する他の人の態度も優しくなるっていうのがあるみたいです」
「そうですよね」

という感じでいくつか話して、電話を切りました。三日後くらいに、もう一度、茜ちゃんがお店に来ました。ロングヘアーの時使っていた、ゴムや、シュシュや、バレッタなどを渡してくれました。茜ちゃんのお気に入りは、ポニーテールの時に使うシュシュでした。

「じゃあ、預かっておくわね。カット代半額の件で、お母さんも納得したみたい。よかったね…」
「そうですね。よかったです」
「ショートカット、だいぶ慣れた?」
「慣れました…」
「自分の中で何か変化とかあった?」
「特にわからないです…」
「そうですか。ショートカットにすると、性格よくなるって言うのもあって、お客さんに勧めることがあるの。茜ちゃんの場合はどうかなって…」
「そうなんですか…」
「何か変化があったら、教えてね」
「わかりました」

最初のカットが3月だったのですが、4月、5月、6月と、わたしの指定した日に、茜ちゃんのヘアカットをしました。そして、7月…。

「だいぶ暑くなってきたわね。夏だし、今日はいつもよりちょっと短めにしてみようか、どう?」
「うーん、わからないです…」
「前と横はいつもと同じでいいと思うんだけど、後ろをもうちょっと上の方まで刈り上げてみない?」
「どれくらい刈り上げるんですか?」茜ちゃんは心配そうでした。
「ちょっと待っててね」
わたしは、タレントの 山口智子が刈り上げショートカットになっている写真を茜ちゃんに見せました。耳の上の方のラインまで、後ろが刈り上げになっています。
「こんなの、どう?」
「いいですね…」茜ちゃんはニコニコしています。

早速カットしました。前髪を眉上、3センチくらいで切り揃え、耳周りの髪をカットしました。もみあげも短くカット。前と横は、山口智子よりもずっと短いです。それから、ハサミで、後ろを刈り上げます。

シャキッ、シャキッ、シャキッシャキッシャキッ♡、シャキッシャキッ♡、シャキッ…

茜ちゃんの表情は恐怖でひきつっていました。(ウフフ…)

「後ろの仕上げにバリカン使っていい?」
「いいですよ…」茜ちゃんは少し恥ずかしそうにしています。

わたしは女の子用とき決めている紫スキカルを持ってきました。わたしはスキカルを持ってうっとりとしました。後ろの髪のブロッキングは今回は必要ないです。

「それでは、スキカル、スイッチ・オン♡」

カチッ…ウィ〜〜〜ン…、

わたしは茜ちゃんの頭をスキカルを持たない左手でぐいっと前に倒しました。

「はぃりまぁ〜す…」スキカルが茜ちゃんのうなじの髪に入っていきます。

ウィ〜ン、 ジョリジョリ♡、ジジジッ、ジョリジョリ♡…、ジジジ、ウィ〜ン…

左手で持ったクシで、茜ちゃんの襟足の髪をすくいながら、右手のスキカルで、クシからはみ出た毛を刈り上げていきます。

ウィ〜ン、 ジジジッ、ジョリジョリ♡、ジジジッ、ジョリジョリ♡…、ジジジ、ウィ〜ン…ジジジッ、ジョリジョリ♡…、ウィ〜ン…

茜ちゃんの襟足から10センチくらいが刈り上げになりました。一番下から6センチくらいが、一枚刈り(2ミリから3ミリくらい)で、その上の3センチが二枚刈り(5ミリから6ミリくらい)で、残りの1センチが三枚刈り(7ミリから8ミリ)くらいになりました。青々とした刈り上げに仕上がりました。プププ♡

わたしは、スキカルのスイッチを切りました。

「どうなったか見たい?」不安そうな茜ちゃんにわたしは笑顔で言いました。
「見たい…」
わたしは手鏡を持ってきて、茜ちゃんに見せながら、散髪椅子を回転させました。手鏡に、茜ちゃんの襟足が映ります。

「うわぁ〜…」
「サッパリと夏らしくていいでしょ?」
「ちょっと恥ずかしい…」
「かわいいよぉ〜」
「そうかな…」
「知的な感じがして素敵よ」
「そう…」
「暑いから夏場の9月まではこのヘアスタイルにカットしようね。いいね?夏はさっぱりサマーカット…、ね?」
「わかった…」

8月にまた茜ちゃんがカットに来ました。

「みんなの反応はどうだった?」
「かわいいいって言われた」
「仲がいいロングヘアーの女の先生はなんて言ってた?」
「かわいいって言ってた」
「他には?」
「エライって言われた」
「そっか」

よく丸刈りにしてきた小中学生の男の子に、女の先生が、「エライ」っていうことがありますよね。それと同じで、茜ちゃんもなんか可笑(おか)しくって。うふふ…。サマーカットはわたしのお店では、可愛い女の子のお客さんの義務でした(笑)。

この頃、お母さんに茜ちゃんのことを電話で聞いてみました。

「茜ちゃん、ショートカットになって、どうですか?性格に変化はありましたか?」
「ありましたよ」
「いい変化ですか?」
「いい変化です」
「どんなふうに変わりましたか?」
「意地っ張りなところが直って、素直になりました」
「よかったですね。ショートカット、やっぱり効きましたね」
「そうですね」
「茜ちゃんって、もしかしたら髪を長く伸ばさないほうがいい子かもしれませんね」
「そうかもしれないです」
「あんまり本人に言うと、反発するでしょうから、さりげなく誘導しないといけないと思います。まだ、はっきりとは分かりませんけどね。これからわかってくるでしょう」

茜ちゃんは7月、8月、9月がこのカットでした。中学校2年3年でも夏場は、この刈り上げスタイルにしました。しかし、中学校2年生の8月にドラマがありました。

「わたし、刈り上げ、やめようかな…」
「どうして?」
「わたしの刈り上げをバカにする友達がいるの」
「女の友達?どんな風にバカにするの?」
「女の友達、ジョリ子、って言ってクスクス笑う…」
「その子は茜ちゃんのことを好きなんじゃない?」
「そうかも…、わたしのマンガを描いているみたい。ちょっとショック…」茜ちゃんはニッコリします。
「原因はそれだけ?」
「うん…」
「本当?男に振られたんじゃない?そんな感じがする」
「そう…」茜ちゃんは笑いました。
「ふーん、どうして振られたの?」
「告白したら振られた」
「男は告白したら振られることが多いよ」
「そうなんだ、どうして?」
「男は安心しちゃって冷静になっちゃうから。男は追わせないと」
「ふーん」
「あと、好みが違ったってことがある。彼の友達から好みを聞き出してみて。ヘアカットはその後、どうするか決めてからにしたら?」
「わかった。彼、好きな人がいるみたい」

後日確認すると、茜ちゃんが告白した男の子は、タレントの菅野美穂が好みだったようです。茜ちゃんは笑っていました。

「いいアドバイスがあるんだけど、聞きたい?」
「お願いします」
「その人、好きな女の子がいるんでしょ。だったらね、茜ちゃんが、その人が、好きな女の子と、その人が一緒になれるようにお膳立てしたらいいよ。そうすると、その男の子は、感謝して茜ちゃんのことを好きになると思うよ」
「なるほど…」
「でね、好きな女の子って、オカッパ?」
「そうだよ」
「だったら、茜ちゃんはショートカットのほうがいいと思うよ」
「どうして?」
「男は似たタイプの女の子が二人いるより、違うタイプがいた方が燃えるから」
「なるほど〜」茜ちゃんはニコニコしています。
「あとねえ、髪型を女の子らしくオカッパにと思うかもしれないけど、髪はボーイッシュに短くして、服装を、レースとかフリフリがついていたり、花柄とか、ピンク色とか、思いっきり女の子らしくしてると、そのアンバランスが男はグッとくると思うよ」
「そうかな…」
「どう思う?」
「そうかもしれない…」
「水着も、赤とかピンクとかオレンジとかで、フリフリがついているとか…」
「なるほど…、いいかも、海に誘ってみようかな?」
「いいんじゃない?」
「その男の子に、刈り上げの女をどう思うって聞いてみて…」
「ははは、川本さん、やっぱり刈り上げにしたいんやねぇ」
「そういうわけじゃないけどね」
「ウソだぁ〜!最初の夏の刈り上げはびっくりしたよ。こんなに短くしなくていいと思ったもん」
「あら、そう…。気に入らなかった?」
「そんなことない。結構、気に入ってた」
「バリカンが気持ちよかったでしょ?」
「そうですね…」茜ちゃんはニコニコしています。
「どうする?刈り上げる?やっぱりサマーカットって嫌なの?」
「嫌じゃないよ…」
「このお店のルールなんだけど、可愛い女の子限定で、サマーカットは義務ですっ!(笑)」
「そんなぁ…」
「どうする?」
「わかりました。じゃあ、サマーカットでお願いします…」茜ちゃんはちょっとつらそうな様子で観念したような感じで言いました。

後日、茜ちゃんと一緒に、ショッピングセンターへ買い物に行きました。服と水着を選びました。お赤さんには内緒で、レースのついたワンピースを、わたしが買ってあげました。お母さんには古着って嘘をついてって茜ちゃんに言いました。茜ちゃんはすごく嬉しそうでした。茜ちゃんの可哀想なくらいの青々とした刈り上げが、なんとも愛しかったです。ウフフ…♡。

9月のカットの時の話です。
「海で好きな男の子とキスした…」
「ほんと?よかったねぇ。わたしのアドバイス正しかった?」
「うん…」
「刈り上げの女をどう思うか聞いてみた?」
「たまらないって言われた。刈り上げを舐められた…」
「うふふ、そうでしょ〜。刈り上げってエロいよね」
「そうですね…」茜ちゃんはニコニコしていました。

というわけで9月もサマーカットでした。中学三年の夏も茜ちゃんはサマーカットでした(笑)。茜ちゃんは、その後、その好きな男の子とセックスもしました。わたしのアドバイスで処女膜は産婦人科で破いてからでしたが。

高校に入学する前に、茜ちゃんがお店に来たのですが、こんなやりとりがありました。

「高校に入っても、ショートカット続ける?伸ばしたい?」
「どうしようかな」
「高校は、オカッパとかショートカットとかないんでしょ」
「ないよ」
「お母さん、なんって言ってた?」
「お母さんは、短い方がいいって言ってた」
「そうかぁ。男ってね、高校に入ると、趣味がちょっと変わるって知ってる?」
「知らない」
「中学までの男の子はね、お姉さんタイプの女の子を好きになるんだけど、高校になると、ちょっと弱い感じの女の子を好きになるみたい」
「そうなんだ…」
「だからショートカットは高校生だとボーイッシュすぎると思う」
「ふーん」
「ショートボブはどう?」
「ショートボブってどんなの?」
「むか〜し、茜ちゃんがロングでお店に来た時に、オカッパの長さを説明したの覚えてる?」
「覚えてる」
「鼻のてっぺんの長さ、耳半分くらいかな、の長さより短いオカッパが、ショートボブ。後ろはグラデーションか、刈り上げ…」
「うん」
「グラデーショがいい?刈り上げがいい?」
「刈り上げ…」
「刈り上げ気に入っているの?」
「うん」
「じゃあ、刈り上げボブでいいのね?」
「うん」茜ちゃんは下を向きました。(やっぱり恥ずかしいんですかね?)
「今の茜ちゃんの髪のの長さだと、無理だから、あと二ヶ月くらいしてまた来て…」
「わかった」茜ちゃんはニッコリしました。

二ヶ月後、茜ちゃんがお店に来ました。長さは長めのオカッパくらいでした。

「この長さでいいかな?」
「大丈夫よ。楽しみね」
「うん」
まずは、後ろの髪をブロッキングして、刈り上げました。ハサミで刈り上げた後、茜ちゃんの了解をとって、バリカンで仕上げました。その後、ブロッキングを外して、横と後ろ、前をカットして終了です。後ろの刈り上げは、パリッとした感じにしました。(少し青い…汗)鼻の頭の長さ(耳半分の長さ)で横と後ろの髪があるオカッパで、後ろの下は刈り上げです。シャンプーの後、カミソリで襟足を剃って出来上がりです。
「どう?」
「かわいい!」
「ショートカットとどっちが好き?」
「こっちかな」
「みんながどういうか楽しみね」
「うん」
これが六月のことでした。カット代金半額ルールはまだ継続中で、次の来店は七月となりました。

七月です。
「みんなの反応、どうだった?」
「すごくかわいいって言われた」
「そう…」
「暑くなってきたね。夏だからもっと短くする?」
「うーん…、このままがいいな」
「そう…」
わたしは、茜ちゃんを椅子に座らせ、カットを始めました。まずは、後ろをブロッキングし、最初からバリカンを入れました。いつもはハサミで刈り上げてから、仕上げでバリカンを使いますが、いきなりバリカンを使いました。前回より上の方まで刈り上げました。それから、前髪のカット。眉上3センチくらいで切り揃えました。それから横と後ろのカット。茜ちゃんの目元のラインからハサミを入れました。茜ちゃんは予想外の展開に、びっくりしていました。前回のオカッパは鼻の頭のライン(耳半分くらい)だったので。仕上がりは、目元のラインのオカッパで、後ろはサッパリと刈り上げました。チクチクゾリゾリ、青ジョリです…。茜ちゃんはしょんぼりしていました。

「よく似合ってるわよ」
「そうかな…」
「サマーカット、ステキよ」
「九月までこのまま?」
「そうね。なんだったらもっと続ける?」
「うーん、十月からは前くらいに伸ばしたい」
「いろんな人に意見を聞いて決めようね」
「わかった…」茜ちゃんはちょっと不服そうです。

茜ちゃんが帰って、翌日の夕方くらいに、茜ちゃんの家に電話をかけました。お母さんが出ました。
「茜ちゃんの髪、どうでしたか?」
「すごくよかったです。気に入ってます」
「六月の長めのカットと、今回の七月のカット、どっちがいいですか?」
「わたしは、今回の短いカットが気に入っています」
「茜ちゃんは、前回みたいにしてと言ってたのですが、わたしが勝手にカットしたんです。夏ですから短くサッパリと…」
「いいんじゃないですか」
「茜ちゃんの様子はどうでしたか?」
「うーん、実は泣いてました…」
「そうなんですか(笑)」
「やっぱりショックでしたかね?」
「そんなことないですよ」
「前のカットの方が気に入ってたんでしょうか」
「そうみたいですね。わたしは今回の方が好きですよ」
「茜ちゃんって、どんどん綺麗になってるから、ちょっと心配…」
「でしょー!」
「お母さんとしては、今回のワカメちゃんの方が安心なんですよね」
「そうですね、安心です」
「高校の間、ワカメちゃんをずっと続けて欲しいですか?十月なったら、前みたいに伸ばしたいって、茜ちゃんは言ってましたけど」
「続けて欲しいですね。母親のお節介かもしれないけれど、心配ですから…」
「男の人があんまり寄ってこないようにしないといけないですね…」
「そうですね…」
「でも、今の茜ちゃんのワカメちゃんスタイル、年上の女の人にはすごく好評じゃないですか?」
「そうでしょうね。まだ、昨日、今日の話なので、わからないですけれど、わたしは大好きですよ」
「茜ちゃんのこれからの性格面での変化も後々、教えてください」
「わかりました」

八月のわたしが指定した日に茜ちゃんがお店に来ました。

「みんなの感想どうだった?」
「かわいいって言われた…」茜ちゃんはニコニコしていました。
「落ち込んだりした?」
「そんなことないよ…」
「仲よくなった女の先生はなんて言ってた?」
「かわいいいって言ってた」
「他には?」
「エライって言われた…」
「先生は茜ちゃんの前の長めのオカッパとどっちがいいって言ってた?」
「今度の方がいいって言ってた…」
「他には?」
「刈り上げはバリカンでしたの?って、先生に言われた」
「よくわかったね、先生、どうしてわかったの?」
「バリカンで刈ると、筋みたいなのが髪にできるから、わかったんだって」
「どんな感じで聞かれた?」
「『刈り上げはやっぱりバリカン!?』ってニンマリして聞かれた…。ちょっと悔しかったな」
「あはは、そう…。面白い先生ね。お母さんと話してたんだけどね。高校生になってから男の人の視線が気にならない?」
「気になる…」
「茜ちゃんは、短い髪の方がいいんじゃないかな…」
「そうかな…」
「どう?先月、ワカメちゃんにして、男の人の視線は?」
「ちょっと減ったかな…」
「納得してる?」
「そうね…、正しいかもしれない…」
「お母さん、心配してるみたいよ。わたしも心配だわ…」
「サマーカットのワカメちゃんスタイル、十月以降も続けませんか?どう?」
「うーん…」
「六月にカットした長めのオカッパの方が、女の魅力は引き立つってわかるけど、そういうのは茜ちゃんにはまだ早いんじゃないかなぁ…」
「そうかな…」茜ちゃんはしょんぼりしています。
「高校生の間は、学生らしいさわやかカットの方がいいと思うわよ…。高校生になる時、最初に、ショートカットはやめたらって、わたしが提案したんだけどね…。中学の時のショートカットと、サマーカットのワカメちゃんスタイル、どっちがいい?」
「ボブの方がいいかな…」
「サマーカットでも?」
「うん…」
「じゃあ、お母さんも言ってたけど、十月以降も、高校の間は、ずっとワカメちゃんでいいわね?」
「わかった…」茜ちゃんはちょっと残念そうです。
「先生の意見も聞いてみてね。お母さんとわたしの意見も伝えてね」
「そうする…」

後日、茜ちゃんに聞いたのですが、女の先生も、茜ちゃんは短いワカメちゃんを続けた方がいいと言っていたそうです。高校の間、茜ちゃんは、夏冬関係なく、目元のラインの刈り上げワカメちゃんカットをずっと続けました。高校生の間、茜ちゃんには男の人はそれほど寄って来なかったようです。茜ちゃんのお母さんもわたしもひと安心でした(笑)。これって女の嫉妬でしょうかね?(笑)だったら茜ちゃんには悪いことをしたかもしれませんね。茜ちゃんが高校生のある時、茜ちゃんにこんなことを聞いてみました。

「茜ちゃんってね、お友達のロングヘアーをショートカットにカットするのを想像して、エッチなことをすることってある?わたしはあるんだけどね」
「うーん、前はあったけど、今はないかな…」
「どうして?」
「うーん、なんかね…、小学校まではよくやってたけど、中学の時に、初めてショートカットにした頃くらいから、できなくなった…」
「ふーん、想像してしようとするとどんな風になるの?」
「お友達をショートカットにカットする想像をしようとすると、襟足に川本さんのバリカンが振動する感触が伝わってくる感じがして、できなくなる…」
「ウィーン、ジョリジョリ…って?」
「そう…」茜ちゃんはちょっと残念そうです。
「優越感とか女のプライドがなくなった感じ?」
「そう…」
「髪でエッチはできなくなったの?」
「いや、できる…」
「どんなのでしてるの?」
「川本さんにカットしてもらうのを想像してエッチしてる…」
「そうなんだー。ちょっと嬉しいな…。でも、ご不満?」
「そんなことないよ、カットしてもらうのを想像してエッチするのも楽しいよ」
「どっちが好き?」
「カットされるのを想像する方が好き」
「男の子をバリカンで丸刈りにするエッチの想像はできる?」
「それはできる、前からずっと楽しんでる」
「ふーん、よかったじゃない、茜ちゃんは女の子の髪を短くカットするエッチの想像はしなくていんじゃない?」
「そうかも…」茜ちゃんはちょっと寂しそうです。
「本当はやっぱりしたい?」
「ちょっとしたい…」
「中学でできなくなって、ちょっと悔しいと思ったことはあった?」
「あった(笑)、ちょっと悔しい…」
「今だから言うけど、わたしも茜ちゃんのカットの想像でだいぶ楽しんだから…、わたしだけゴメンね…、わたしはずっとロングヘアーだから、カットされる想像はできないんだけどね。やっぱりわたしが羨ましい?」
「ちょっと羨ましい…」
「でも、お母さんは、髪を短くなってから、茜ちゃんがすごくいい子になったって言ってたよ」
「よく言われる…」
「余計な女のプライドとか髪へのこだわりがなくなった感じじゃない?」
「そうかもしれない…」
「男の子も、バリカンを入れて丸刈りにすると変わるのよ。こだわりが取れる感じ…。茜ちゃんもヘアカットで変わったのね…」
「うん」
「それってとっても大事なことよ。カットするエッチはできなくなったかもしれないけど、きっと襟足に感じるバリカンの振動が茜ちゃんを守ってくれてるのよ…。ワカメちゃんにしてから男の人もあんまり寄ってこないみたいだし…。よかったじゃない…」
茜ちゃんは笑いました。
「高校の間は、ずっとワカメちゃんでいいね?」
「そうする…。ありがとう」茜ちゃんはにっこり笑いました。
「わたしも嬉しい、茜ちゃんこと大好きよ…。私、茜ちゃんの刈り上げを見るたびに胸がキュンとする…」
「ははは、おかしい…」

その後、高校を卒業し、大学生なって茜ちゃんは、わたしのすすめもあり、再びロングヘアーにしました。茜ちゃんは体育関係の大学に入りました。大学二年の頃には、茜ちゃんは背中の真ん中過ぎのロングヘアーになっていました。茜ちゃんのお母さんとわたしが話していたのですが、茜ちゃんが髪を長く伸ばしても大丈夫な子かどうか確認するためでした。

「茜ちゃん、ロングヘアーにしてから、どうでしたか?変化はありましたか?」
「ありました」
「いい変化ですか?」
「悪い変化です」
「どんな変化ですか」
「前みたいに意地っ張りになってきました。茜は短い髪の方がいいと思います」
「そうですか…。、もうすぐ就職活動も始まるでしょうし、わたしの方からもさりげなく、茜ちゃんにヘアカットを勧めてみましょう」
「そうしてください」
「茜ちゃんは、やっぱり髪を長く伸ばさない方がいい子かもしれませんね。でも、あんまり無理に勧めてもいけませんから、茜ちゃんがちゃんと自分の意思で、短い髪を選ぶのを待ちましょう」
「わかりました」


第二部

茜ちゃんは、わたしのお店には時々、遊びに来てました。大学二年生のロングヘアーの茜ちゃんに聞きました。

「髪がロングヘアーになってから、女の子の髪をカットするエッチがまたできるようになったんじゃない?」
「いや、今でもできない…、まだ無理…」
「今も、ブーンと、襟足にわたしのバリカンの振動?」
「そうそう…」
「したい?」
「したいな…」茜ちゃんは恥ずかしそうに笑いました。
「そのうちできるようになるんじゃない?」
「そうかも」
「こんな時に言うのもなんだけど、大学三年生から就職活動ね」
「うん」
「策はある?」
「特にない(笑)」
「わたしの必勝の作戦、聞いてみる?」
「うん」
「履歴書をロングヘアーで写真を撮影して作って、面接の時に、髪を短くして行くの…」
「どうして?」
「短い髪の方が印象がいいって、人から言われて、どうしても入りたい会社だったから、思い切ってカットしましたっていう…」
「うーん…」
「会社のために髪をカットしたっていうと、女性の面接官の受けがすごくいいと思うの。きっと茜ちゃんを推してくれるわよ」
「考えてみる…」

その後、結局、茜ちゃんは髪を切らずに、就職活動をしました。理由は、もう髪を伸ばせなくなるのが嫌だから、ということでした。茜ちゃんのお母さんとわたしはちょっとがっかりでした。茜ちゃんの就職活動の結果は、第一志望と第二志望は落ち、第三志望には受かりました。茜ちゃんは第三志望にはあまり興味がないようでした。


「残念だったね」
「うん」茜ちゃんはうつむいています。
「わたし、思うんだけどね、無理して第三志望に入らなくていいと思うよ。まだ若いし、お金のために就職するってわけじゃないから」
「どういうこと?」
「体育関係の自分がしたい仕事に近い仕事をさせてくれるアルバイト先を探して、週三日くらいパートで働くのね、そして残りの週二日を、第一志望の会社で無料奉仕するの。自分のしたい仕事の方向性をちゃんと持ってた方が、先々伸びると思うよ。どう思う?」
「第一志望の会社、入れてくれるかな?」
「それは茜ちゃん次第」
「うん」
「どうする?」
「お父さんに聞いてみる」

お父さんもわたしと同じ意見でした。お金に困っているわけでもないから、焦って無理して就職しない方がいいということでした。お父さんはわたしのことを正しいと言っていたそうです。茜ちゃんはニコニコしていました。

「どうする?」
「わたし、髪、切る…」
「そう…」
「最初から切れば良かったんじゃない?」
「そうかもしれない」茜ちゃんは笑っていました。

アルバイトを始た茜ちゃんはロングヘアーで再び履歴書を作成しました。第一志望の会社は、事情を電話で話すと、幸い、ひとまずもう一度面接をしてくれることになりました。再面接の前日、わたしのお店で、断髪式を行いました。茜ちゃんは就職活動のための黒髪を維持していました。


「どうされますか?」わたしは茜ちゃんに真剣な顔で聞きました。
「ショートカットにしてください」
この茜ちゃんの一言を聞いたわたしの下半身がキュンとしました。
「わかりました。茜ちゃんの勇気ある決断に、お祝いを申し上げます。久しぶりのショートカットね」
「そうだね」
「前髪はどうしますか?」
「眉にかからない長さに切ってください」
「横はどうしますか?」
「耳を出してください」
「もみあげはどうしますか?」
「短く切ってください」
「後ろはどうしますか?」
「刈り上げてください」
「刈り上げはオシャレに長めですか?サッパリ短めですか?」
「サッパリ短めでお願いします!」
「えらいねー」わたしは椅子に座った茜ちゃんのロングヘアーを両手でくしゃくしゃっとしました。
「バリカンで刈り上げますか?ハサミで刈り上げますか?」
「バリカンでお願いします」
「よーし、よく言った…。茜ちゃんの真剣さ、わたしは認める!」

わたしは茜ちゃんの首にタオルを巻いた後、茜ちゃんが中学入学時に使った断髪専用のピンクの刈布を再び出してきて、茜ちゃんの首に巻きました。茜ちゃんのロングヘアーを刈布の上に引っ張り出して、全部、茜ちゃんの背中に垂らし、ブラシで10分くらい丁寧にとかしました。

「大切に伸ばしてきた自慢のロングヘアーともお別れですが、いいんですね?」
「いいです」
「茜ちゃん、あなたエライわ。つらいだろうけど、がんばろうね…」わたしは思わずハサミを持たなない左手で自分の涙をそっと拭う仕草をしてシュンと鼻を鳴らして優しく茜ちゃんに微笑みました。やはり茜ちゃんはちょっと無理をしているようでした。彼女としては長い髪を失うのは残念だったのでしょう。わたしはハサミ(断髪ハサミ)を、右手で構え、茜ちゃんのロングヘアーに近づけました。

「やだー、ドキドキするぅー!」わたしは再びハサミを引っ込め、茜ちゃんに微笑みかけました。
「ほんとにいいんですね?」
「いいです」茜ちゃんの笑顔が心なしかこわばってました。
「ほんとにいいんですね?」わたしは興奮しながらもう一度聞きました。
「いいです」
「よしっ!じゃあ、いきまーす」

わたしは濡らさない背中まである茜ちゃんのストレートのロングヘアーを、ハサミでザクザクと一気に、首が全部見える長さにカットしていきました。カット中、茜ちゃんは、泣きそうになり、唇を噛みしめていました。その様子に、わたしの胸は思わずグッと高鳴りました。

四十分後、一旦、カットが終わり、ロングヘアーからショートカットになった茜ちゃんの髪をシャンプーした後、わたしが握るバリカンのモーター音が再び店内に響きました。わたしは刈り上げになった茜ちゃんの襟足に、最後の仕上げをバリカンで刈りました。前髪は思い切って短く眉上4.5センチで真っ直ぐに切り揃え、耳は出し、もみあげは斜めに短くカットしました。後ろは、一番短いところを1ミリぐらいにして、耳の上の方まで、チクチクゾリゾリと仕上げました。バリカンでカットした刈り上げは青くなりサッパリ感のある仕上がりでした。襟足の後毛と刈り上げの一部(1センチくらい)をカミソリで剃り、ドライヤーとブラシでブローして完成です。

「清楚系ショートカット美人のできあがりー!」わたしは茜ちゃんに微笑みかけました。
「ちょっと恥ずかしい…」茜ちゃんは首をすくめました。
「最初から素直になればよかったのに…」わたしは茜ちゃんの短くなったトップの髪を指でつまみ上げました。
「そうだね…」茜ちゃんは笑っています。
「面接、がんばってくださいね」
「がんばります」

面接の結果、茜ちゃんは、希望通り、週二日の無料奉仕を、第一志望の会社から許可されました。面接を担当した女性上司に聞けば、最初から髪を切っていれば、入社できていたとのこと、茜ちゃんはちょっと残念がっていました。

茜ちゃんは勤務を開始しました。ある時、こんな話をしました。

「茜ちゃん、無料奉仕ってどんなことしてるの?」
「実業団の指導」
「どんな格好でしてる?」
「というと」
「服とか」
「ナイキが好きだから、ナイキのブランドの服を着て働いてる」
「ふーん。思うんだけどね、茜ちゃんって綺麗だから目立つのよね…」
「え?」
「社員の人の補佐で入っているんでしょ?」
「うん」
「社員の人より目立つのはあんまりよくないよ」
「そうかも…。どうしたらいい?」
「わたしの考えだけど、茜ちゃんはね、わざとね、シマムラとかの地味なスポーツウェアを着たほうが目立たなくていいと思うよ」
「なるほど…」
「やってみる?」
「やってみる」
「女性の上司の人、名前なんだったっけ?」
「栗山さん?」
「そうそう。服を変えてから、栗山さんにわたしから言われたこと、話してみて、栗山さんの感想をまたわたしに教えて…」
「うん」

数日後、茜ちゃんから電話がかかってきました。茜ちゃんの女性上司の栗山さんによると、やはり、わたしの考えは正しかったということでした。茜ちゃんは地味な感じにして偉いと言われたそうです。また茜ちゃんが、髪を染めず、短いのを続けて地味にしているのもとてもいいと思うわよと、栗山さんから言われたそうです。茜ちゃんは素直に喜んでいました。茜ちゃんのお母さんも、ショートカットにした茜ちゃんが、またいい子になったと喜んでいました。

二年後、茜ちゃんは、栗山さんの会社の紹介で、別の会社の実業団の指導員として働くようになりました。しばらくショートカットを続けていました。わたしは実験のため、茜ちゃんの刈り上げをハサミだけで仕上げ、バリカンを使わないようにしました。お母さんにその後の変化を聞くと…。

「そうですねぇ、ちょっとだけ意地っ張りな感じが戻ったような感じがします…」
「そうですか。やっっぱりバリカンで刈り上げた方が、茜ちゃんは、いいんでしょうね」
「そうだと思います。でも、茜は一応、女ですから、やっぱりバリカンって必要なんですかね?なんだか可哀想で…」
「高校の時のワカメちゃんの頃もバリカンで刈り上げていましたが、茜ちゃん、どうでした?」
「とてもよかったです」
「ちょっと可哀想かもしれませんが、茜ちゃんにはバリカンが必要かもしれません…。男の子も、バリカンで丸刈りを続けると、人格が変わります。女の子もバリカンが入ると、なんていうか、こだわりが取れて、ありのままの自分と向き合うことになるんだと思います。バリカンは、性格に少々難点のある男の子や女の子には、心強い魔法の道具なのかもしれませんね」

茜ちゃんが、バリカンを使わないショートカットを二年くらい続けた後、日本で女性のロングヘアーブームが始まり、茜ちゃんはわたしに髪を伸ばしたいと言ってきました。お母さんは反対でしたが、わたしは、栗山さんはなんて言っているかと聞くと、伸ばしていいと言っていたとのことでした。わたしは大人になった茜ちゃんの自主性を尊重しようと思い、お母さんにも、伸ばしていいんじゃないかと言ってみると告げました。茜ちゃんはとても喜びました。

結局、茜ちゃんはロングヘアーになって五年ほど経ちました。茜ちゃんに聞くと、友達の女の子の髪をショートカットに散髪する想像でするエッチなことが、中学以来初めて、もう一度できるようになったとのことで、とても喜んでいました。わたしはおめでとうと言いました。茜ちゃんのお母さんはというと、やっぱり、ロングにしてから茜は性格がきつくなったとのことで、茜ちゃんはやっぱり短い髪の方がいいと言っていました。茜ちゃんの会社の先輩である粟本(あわもと)さんという女性が、茜ちゃんにしつこくショートカットにするように言っていたようです。しかし、茜ちゃんによると、会社の社長の親戚の女の子が小児がんになり、治療の過程で、頭の髪の毛を失ってしまいました。会社では、社長が、ロングヘアーの女性社員から、ヘアドネーションを募りました。結局、くじ引きで、粟本さんが当たり、ロングヘアーだった粟本さんは、ショートカットになってしまいました。茜ちゃんは、なんだか、おかしかったと話してくれました。茜ちゃんはもう短くしないの?と聞くと、短くはしたくないということでした。わたしは茜ちゃんの上司だった栗山さんと会って話してみることにしました。栗山さんは、茜ちゃんの今の会社の社員たちに聞いてみるということでした。男性社員は、特に難をつけませんでしたが、女性社員のほとんどが、茜ちゃんはショートカットだった頃の方が、良かったと思っているようでした。茜ちゃんにそのことを告げてみると、やっぱり、と苦笑いしていました。でも、短く切ることはしないということでした。せっかく、他の人の髪をカットするエッチが回復したのに、それを失いたくはなかったのかもしれません。茜ちゃんのお母さんの願いもあり、わたしと栗山さんは茜ちゃんのために一計を案じました。実は会社には、茜ちゃんの好きな加来さんという男性社員がいました。加来さんも茜ちゃんのことを好きなのですが、社長は、娘の幸子さんを、加来さんと結婚させたいと思っているようでした。わたしも、栗山さんも、結婚と恋愛は別だと知っていたので、茜ちゃんの加来さんとの結婚は無理なんじゃないかと思っていました。加来さんは幸子さんのことは嫌いじゃないようでした。不思議なことに、茜ちゃんによると、お父さんに聞くと、加来さんと結婚してもいいということでした。相思相愛で、結婚というのは、ちょっと例外的だと思い、茜ちゃんが嘘をついているのではないかと思ったこともありました。わたしと栗山さんは、茜ちゃんの失恋を予想し、加来さんは多分、幸子さんと結婚するだろうと思っていました。そこで、テレビドラマでよくやっていたように、失恋したら、ショートカットという、流れで、茜ちゃんのヘアカットができないかと二人で考えました。

その後、茜ちゃんがわたしに相談に来ました。会社の社長の幸子さんから、加来さんのことあきらめるように言われ、失恋したから、印として、髪をショートカットにしなさいと言われたということでした。(栗山さんの肝入りで、そうなったのですが、そのことは茜ちゃんには内緒にしていました。)どうするの?と聞くと。茜ちゃんは、絶対にあきらめないと言っていました。髪も絶対に切らないと言っていました。

「中学の時のこと、覚えてる?」
「何?」
「好きな男の子を、あきらめたら、その子とキスできたこと」
「うん」
「加来さんも同じなんじゃないかな。たとえ加来さんが幸子さんと結婚しても、会社で加来さんとは茜ちゃんといつも一緒でしょ。中学の時みたいに、いろんなことができるかもよ。恋愛と結婚は別だから、結婚はあきらめてみるのもいいんじゃない?」
「そうかな…。わたしはあきらめたくない。お父さんもいいって言ってるし」
「本当なの?」
「本当だよ。わたし嘘はつかないよ。髪も切りたくない」
「髪を切ったらいいことあるかもよ…」
「いやだ…」
ロングヘアーになってから、確かに茜ちゃんは我を張るようになったように思いました。
「でも社長さんの考えもあるでしょ」
「結婚は個人間のものだから、会社は関係ない…」
「そうは言っても、現実問題、加来さんとの結婚は難しいと思うよ。加来さん、茜ちゃんを選んだら、会社やめないといけないんじゃない?」
「確かにそうかもしれない…」
「加来さんのために、身を引くっていうのも、大人の女性としては大事なことと思うわよ」
「ちょっと悔しいな…。わたし、幸子さんってあんまり好きじゃないの。失恋だからショートカットにしろって、わたしにしつこく言ってくるし…。そんなの個人の自由でしょ…」
「幸子さんがどんなつもりで言っているかは知らないけど、会社の女の人たちや、茜ちゃんのお母さんは、みんな茜ちゃんは髪が短い方がいいって言ってるね…」
「それはわかるけど、わたしの髪はわたしの自由でしょ…」

ヘアカットについては、それからもわたしと茜ちゃんは平行線でしたが、加来さんのためを思って、加来さんをあきらめないといけないというのは、茜ちゃんとしては納得し始めたようでした。

数週間後、茜ちゃんの前の会社の上司の栗山さんから連絡がありました。どうやら、近々、幸子さんが茜ちゃんのロングヘアーを会社で黒染めし、翌日、わたしのお店でヘアカットさせる計画を会社の女子社員たちが立てているようでした。うまく行きますかね?とわたしは栗山さんに聞きました。女子社員たちは、会社の社長さんや社労士さんにも相談しており、計画はすでに具体的になっているようでした。

「これまでずいぶん長かったけれど、茜ちゃんもまたついにロングヘアーをやめなくてはならなくなったみたいですね」わたしが栗山さんに言いました。
「茜ちゃんのお母さんとも話したのですが、茜ちゃんは短い髪を今後、ずっと続けた方がいいということを言っていました」
「茜ちゃん、今後、一生、ショートカットですか?」
「そうなるかもしれません」
「ちょっと可哀想ですね…」
「何もなければ、わたしもこんなことは言いませんが、最近、茜ちゃんに会ってみて、やっぱり前と変わったなと思いました。少し可哀想だけど、これも茜ちゃんのためですから…」

わたしの発案で、茜ちゃんのヘアカットには、茜ちゃんのお母さんも参加することになりました。その後、数日して、茜ちゃんがわたしに相談に来ました。茜ちゃんはついに加来さんをあきらめることにしたようでした。それから、幸子さんに髪を黒く染めてもらわなければならなくなったこと、翌日、わたしの店にカットに来ることになったことを改めてわたしに話してくれました。わたしはちょっと可哀想と思いながらも、久しぶりのヘアカットにワクワクしていました。今回は、わたしではなく、茜ちゃんのお母さんが、茜ちゃんのロングヘアーをバッサリと最初にカットする計画でした。茜ちゃんはそのことを知りません。加来さんと自分のロングヘアーをあきらめることになった茜ちゃんは、寂しそうな表情を隠せない様子でした。

当日、茜ちゃんが、会社の女子社員たちに付き添われて、わたしのお店にやってきました。お店には茜ちゃんのお母さんが先に来て待ってました。茜ちゃんは驚いていました。わたしは、会社の人から話を聞き、心配して、お母さんが来てくれたと説明しました。背中の真ん中過ぎまでの黒髪ストレートのロングヘアーの茜ちゃんは、わたしの散髪椅子に座りました。わたしは、タオルを茜ちゃんの首に巻き、断髪式用のピンクの刈布を茜ちゃんにつけました。

「今日はどうされますか?」わたしが聞きました。
「ショートカットにしてください」茜ちゃんは不機嫌にブスッとしていました。
「理由を聞いていいですか?」
「失恋したので」
「そうですか。ショートカット、素敵になると思いますよ」
「…」
「前髪はどうしますか?」
「眉にかからない長さにしてください」
「横はどうしますか?」
「耳を出してください」
「後ろはどうしますか?」
「刈り上げてください」
「刈り上げはバリカンでいいですね?」
「はい…」
「お母さん、茜ちゃんのロングヘアーからの最初のカットは、お母さんにお願いします」
「わかりました」お母さんが答えます。

わたしはハサミの使い方をお母さんに教えました。わたしは茜ちゃんのロングヘアーを全部、刈布の背中側に垂らして丁寧にブラシをかけました。お母さんには襟足ギリギリの長さで、切ってくださいとお願いしました。

「茜、じゃあ、切るけどいい?」お母さんは、右手で持った断髪ハサミの刃を開き、シャキシャキと空中で動かしました。
「うん…」茜ちゃんは寂しそうでした。
「茜さん、カット前の今のご心境は?」幸子さんが茜ちゃんに聞きました。
「悔しいです…」
「でも、えらいと思いますよ。自分でやりたいことをあきらめて、ケジメとして髪を切るって」わたしが言いました。
「そうですねー。自分の負けを認めるって、そんなに簡単にできるわけではないですよね」幸子さんが言います。
「負けを認めて、ありのままの自分と向き合うって、とても大事なことですよ」わたしが言いました。

お母さんは、ザクザクと乾いた茜ちゃんのロングヘアーを、首筋で一気にカットしていきました。思わず十数名いた女子社員たちから拍手が起きました。

茜ちゃんはニッコリしました。

「あらっ、ニッコリしちゃて。なんか楽になった感じがするんじゃない?」

「そうかもしれない…」

「ロングヘアーで、突っ張ってたのよね。茜ちゃん、負けたくないって、がんばってたから。頭が軽くなって、心も軽くなったかナ?」

「うん…」

「茜ちゃんは、がんばらなくていいのっ!茜ちゃんは負けていいのっ!いじになって守ってきたものをあきらめたら、ホラ!楽になった…」わたしが言いました。

「お母さん、いい思い出になりましたね。揃え髪とかしかしたことなかったでしょ?」わたしが続けます。

「そうですね、茜が小さい頃ですけどね」

「どうでしたか、バッサリの感想は?」

「気持ち良くカットさせてもらいました。結構、立派なロングヘアーで、戸惑いもありましたけど、ハサミを動かす手は、母親としての喜びに、ワクワクしていましたね」

「お母さんの優しさですよね。女の子の人生の節目節目に、断髪式というのもなんだか切ないけど、いいものですね。ポカポカしてきました。」

「じゃあ、お母さんからバトンタッチして、わたしがカットするわね」

わたしは、茜ちゃんの前髪をカットしていきます。長さはいつものようにオンザマユ眉上4.5センチ(笑)。耳周りの髪もカット。もみあげは短めで斜めにカット。後ろの髪をブロッキングして、襟足は刈り上げ…(笑)。ハサミで豪快に刈り上げたあと、スライブのバリカンで仕上げです。ウィ〜ン、ジョリジョリ、ジジジジィ…♡わたしは無意識に鼻の下を伸ばし、ニンマリ楽しみながらバリカンで茜ちゃんの襟足の毛を刈り上げていきます…。茜ちゃんの表情がこわばってきました。そして、涙…。その瞬間、わたしの下半身は思わず少女のように小躍りし、目はパチパチパチパチ…。茜ちゃんはわたしが性的に達してしまったことに気付いたのか、悔しそうに大泣きしました…。わたしは構わずバリカンします。茜ちゃんは涙と鼻水をすすります(笑)。なんとも言えない優越感と満足…。わたし自身はショートカットは愚か、肩上の髪にもしたことがないんですよね…。

茜ちゃんの長かったロングヘアーはものの30分で、あっという間にショートカット(快感笑)。

シャンプーをして、ドライヤーでブローします。その後、剃刀に代わって女の子用に新しく配備された電動式のフェイスシェーバーで、襟足のラインをを剃り上げます…。ジジジジジィ、ジョリジョリジョリ♡、ゾリゾリ♡、ジジジジィ…。襟足の下の方を1センチ剃りました(剃り過ぎ注意報!)。ピンクの刈布をとって、終わりと見せかけ、茜ちゃんはホッとした表情。しかし、いそいそとわたしはまた茜ちゃんの襟足にバリカン…。わたしは5分くらい丁寧にバリカン…、ウィ〜ン…。茜ちゃんはちょっと辛そうに下を向きます…。うふふ(快感)。

カット終了です。茜ちゃんの首に巻いたタオルを取りました。拍手が起こりました。幸子さんがいいことをしたいと提案してきました。幸子さんはわたしにそっと耳打ちします。わたしは頷きました。

幸子さんは、おもむろに茜ちゃんの後ろに立つと、右手で茜ちゃんの頭を前にぐいっと倒しました(茜ちゃんは少々ムッとした表情…)。そして、幸子さんは茜ちゃんの襟足の刈り上げにディープキッス…。茜ちゃんは思わずニコニコします。すると幸子さん、茜ちゃんの右のこめかみにデコピン(ペシッ!)…。「イテッ…」と茜ちゃん。茜ちゃんと幸子さんは大笑い。二人ともかわいいですね。すると、後ろから声が…。「わたしも〜」見ればヘアドネーションでショートカットになり、今はセミロングになった粟本さんでした。早速、茜ちゃんの襟足の刈り上げにチュチュチュっと三回キッス。よく見ると、茜ちゃんの襟足に粟本さんの唾液が(笑)…。もしかしてわざと??茜ちゃんは顔を赤らめてちょっと恥ずかしそうです。今度は、わたしが茜ちゃんのこめかみにデコピン(ペシッ!)…。「イテッ…」と茜ちゃん。そして、茜ちゃんのお母さんがやってきて、椅子に座った茜ちゃんを後ろから抱きしめ、茜ちゃんの刈り上げに頬擦りします。「茜は、やっぱりショートカットが一番ね」茜ちゃんのお母さんは嬉しそうに微笑みます。わたしは無意識に自分のロングヘアーを首筋で両手で束ね静かに撫でていましたっけ。わたしのロングヘアーがサラーン…、うふふ。その時の茜ちゃんの悔しそうな顔…(快感笑)。

「茜ちゃん、話があるんだけどいい?」茜ちゃんの前の会社の上司の栗山さんです。
「いいですよ」
「あのさ、今日のヘアスタイル、これからずっと続けてみない?」
「え…」
「続けるとすごくいいことがあるよ」
「どんなですか…」
「続けるって約束してくれるなら言ってあげる」
「ちょっと言えないです」
「茜ちゃんはね、髪を伸ばすと、どうもいけないみたい」
「わかります…」茜ちゃんは寂しそうです。
「お母さんや川本さんに聞くと、バリカンで刈り上げたほうがいいみたい…。わかる?」
「そうかもしれません…」茜ちゃんはしょんぼりしています。
「茜ちゃんはショートカット・ウィズ・バリカンがいいって川本さんが言ってた。わたしもそう思うよ。どう?茜ちゃんは、毎月、ここでカットすると、茜ちゃんは人生がうまくいくと思うよ。やっぱりイヤ?」
「イヤだけど、仕方ないかもしれないです…」
「刈り上げショートカット続ける?」
「続けます…」茜ちゃんは思い詰めたような表情でした。
「ありがとう。だったらご報告があります。社長がね。つまり幸子さんのお父様だけど。茜ちゃんがショートカットになったら、茜ちゃんは加来さんと結婚していいって言ってたのよ」
「え!?」
「幸子さんもわたしも今日来てる女性社員たちはみんな知ってたの…」
「そうなんだ…」茜ちゃんはニコニコしています。
「茜ちゃん、とっても偉かったと思うわよ」粟本さんも言います。
「でも、社長の提案に加えて、わたしと会社の女子社員たちの希望は、茜ちゃんが刈り上げヘアーを一生続けるってこと…。だったの…。バリカンの刈り上げなら、ショートカットじゃなくてもショートボブでもいいのよ」
茜ちゃんはニコニコしています。
「いいですよ。髪の毛より結婚の方が大事だから…」

お母さんがバッグを持ってやって来ました。茜ちゃんは不思議そうな顔をしていました。
「茜、いい?」
「なに?」
「茜がロングヘアーの時に使ってた、ゴムとか、シュシュとか、ヘアバンドとか、バレッタとか、もういらないでしょ?」
「そうだね…」茜ちゃんはちょっと寂しそうです。
「茜のロングヘアーのヘアアクセサリー、ここに来ている女の人たちに全部プレゼントしない?いや?」
「いいよ…」茜ちゃんはニコニコしています。
「坊主にカンザシ。ショートカットにシュシュね…」お母さんが笑って言います。
茜ちゃんはぷーっとほっぺたを膨らませました。
「そうだけど、なんだか悔しい…」
「うふふ…。茜はもうロングヘアーには一生できないけど、どう思ってる?」
「ちょっとつらい…。でも加来さんと結婚できるならいい…」茜ちゃんは襟足の刈り上げを手で撫でながら顔を赤らめます。

というのが茜ちゃんの結婚に至るまでの大体のあらましです。茜ちゃんは、刈り上げを続ける予定で、夏はショートカット、冬はショートボブがいいんじゃないかと思っています。いずれにせよ、わたしが茜ちゃんのヘアカットを今後も担当するので、幸せなのですが。長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

追記:
先日、茜ちゃんの切ったロングヘアーを、茜ちゃんの一番のお気に入りのシュシュ(幸子さんがもらったもの)で巻いて、額装して、茜ちゃんにプレゼントしました。加来さんとの新居に飾られているようです(笑)。


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