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親子3人反省カット

昔の話をします。わたしの母は小さな弁当の仕出し屋を経営していて、母の手ひとつでわたしと弟を育てていました。経済的にも決して余裕がある方ではありませんでしたが、母の古くからの友達で由紀子さんというひとが近くで理容室をやっており、母とわたしと弟は髪を切るときはいつも由紀子さんの理容室に行っていました。母とわたしはロングヘアーにしているがほとんどで、毛先を整えてもらうようなカットと、顔剃り、弟は普通のショート、夏はスポーツ刈りにしてもらっていました。どこのおうちにも独特のルールというのがあると思うのですが、わたしたちの家族の場合、弟が何か失敗や悪さをすると弟は頭を丸めなければならないというルールがありました。テストの点数が低いとか、忘れ物が多いとか、弁当の仕出しの手伝いをわざとさぼったとか、何かにつけて弟は丸刈りになっていました。最初はずっと母は自分の手で弟を丸刈りにしていましたが、一度、わたしが母に頼まれて弟を丸刈りにしてから以降は、わたしが志願(?)して弟の丸刈りを担当するようになりました。バリカンで人の髪を刈るのはかなり楽しく、半分泣きべそをかいている弟を尻目に、クスクス笑いながらバサリバサリと髪の毛を豪快に刈り落としていくのは姉としてのお楽しみでした。愛のムチならぬ愛のバリカンかな?(笑)。弟がちょっと嫌がってる姿がまたかわいくて♪(チョイSなんです、わたし。)髪を全部刈り取られたばかりの弟の目の前でわたしのロングヘアーを見せびらかして弟が怒るのを面白がったりしたこともありましたっけ。家にバリカンがあるなら毎回、丸刈りでいいんじゃない、とも思うのですが、せっかく由紀子さんが安くカットしてくれるので弟はちゃんと由紀子さんのお店に行っていました。弟はいつになっても丸刈り(ただの丸刈りでなくつるつるの丸坊主なので)はいやらしく、バリカンでの丸刈りの刑はそれなりに効果があったようです。でも弟は馬鹿なのでちょくちょくわたしのバリカンで丸刈りになっていましたが(笑)。わたしが弟と同じような失敗をしても母から口でとがめられるだけでした。一応女の子でしたので。

でも一度だけ、忘れられない思い出があります。わたしも母から髪を切るように言われたことがあるんです。わたしが中学2年生だった冬の話です。弟は小学5年生でした。弁当の仕出しを手伝っていたのですが、長期の契約で団体で頼まれている大口のお客さんから弁当の中に髪の毛が入っているとひどくクレームがあり、お客さんが持ってこられた髪の毛の長さから言ってわたしの髪の毛ぽかったのです。本当にそうかはわからないのですが。どうやって謝りにいこうかとよくよく考えた母は、背中までのロングヘアーだったわたしに髪を短く切るように言いました。わたしは大事に伸ばしてきた髪だったのでやっぱり嫌でした。母に「雪絵はショートカットは初めてね。いい機会だから、さっぱり短くしてもらいなさい」と言われて、由紀子さんの理容室にしぶしぶ行きました。母の方からもすでに由紀子さんに電話がかかっており、行ってみると由紀子さんは事情を知っていました。「お母さんから聞いたわ。今日は短くするけど」と由紀子さんに言われました。わたしは正直に「あんまり短くするのはいやなんだけど」と言いました。「やっぱり?でも謝りに行くんでしょ。バッサリいっちゃわないといけないだろうね」「由紀子さんはどう思うの?」「わたしは普通のショートカットでいいんじゃないかと言ったんだけど、お母さんは刈り上げにしたほうがいいんじゃないかって」「刈り上げ!?」「刈り上げなら反省している気持ちが伝わるかもしれないって」「でも刈り上げは抵抗ある・・・」「じゃあ、後ろを刈り上げたオカッパはどう?」「・・・」「ショートカットなら男の子みたいになっちゃうけど、刈り上げのオカッパなら女の子らしくていいと思うわよ」ということで刈り上げボブにすることになりました。切った髪を証拠としてお客さんに見せるため、背中まであったロングヘアーをヘアゴムで一つ束ねにして一気に襟足の位置でぶつ切りにされました。そしてあらくボブにされた後、襟足をバリカンで刈り上げられたあと耳たぶが少し出るラインくらいで切りそろえられました。前に書いたようにわたしはバリカンで弟の頭を刈ったことありましたが、バリカンが自分に使われるのは初体験でした。バリカンが襟足に入って首筋にバリカンの振動が伝わってくると悔しくて思わず涙ぐんでしまいました。その場にはいたわけではないけれど、いつもはわたしに笑われながらバリカンで頭を剃られてしまう弟に逆に笑われているような気がしたんです。前髪もきっちり眉上1cmくらいでカットされました。これだけでもショックでしたが、でもまだ終わりじゃなかったんです。カットが終わる頃に母がどうなったか見に来ました。すると「雪絵、ショートカットにするように言ったでしょ・・・。オカッパにするなら、前髪はもっと短い方がいい。後ろはもうちょっと上まで刈り上げた方がいい」と言われました。信じられませんでした。母の指示で短いオカッパはさらに短くなり、耳が半分以上出る長さ、前から見ると目よりも少し下のラインくらいでクルッと一直線に切られ、その下はすべてバリカンで刈り上げ、眉上3cmという屈辱のワカメちゃんカットでようやく母も納得しました。半分泣きそうになりながら「お母さん、こんな髪じゃ明日から学校行けないよ」とわたしが言うと、「偉かったね。でもこれで許してもらえると思うわよ」と言われました。襟足の刈り上げがさわるとジョリジョリしていてかなりショックでした。

家に帰ると、弟から大笑いされました。わたしはすごく悔しくて部屋で大泣きしてしまいました。翌日学校では大騒ぎでした。仲良しの女の大親友は複雑な表情をしてました。そうでもない友達と先生からは「うわーワカメちゃんだ、かわいいっ!!」て言われたけれど、やっぱり素直にそうは思えませんでした。学校から帰ってみると、ロングヘアーだった母が、ベリーショートになっていました。母も由紀子さんに髪を切ってもらったそうです。母は襟足とサイドをかなり上まで刈り上げ、耳も全部出ていました。思わずわたしは泣いてしまいました。母は「お母さんは大丈夫よ。雪絵、ごめんね大事な髪だったのに」と言ってわたしを慰めてくれました。そして全然関係ないはずなのに、弟もマルコメになっていました。わたしの気持ちを思って、母が弟の頭にバリカンを入れたようでした。弟は相当、嫌がって逃げまわったみたいですが、最後につかまって母に刈られたそうです。ひさしぶりの丸坊主に弟もすっかりおとなしくなっていました。傷ついたわたしを思う母の心づかいは嬉しかったですが、さすがに青く光る頭の弟が可哀想でした。母にマルコメにされたおかげでもう弟もわたしの頭を見て笑ったりはしなくなりましたが。その日にお客さんのところに3人で出向き、謝りました。短髪&坊主の3人が歩いている姿はきっとかなり変だったと思います。帽子をかぶる習慣がなかったので、短い髪の毛で3人とも冬の寒さがかなり頭にきてました(笑)。切ったわたしと母の髪の毛の束をお客さんに見せました。お客さんは「もういいですよ。そこまでする必要はなかったのに・・・。契約は続けさせていただきますから」と気の毒がっていました。強烈な思い出として残っています。でも、こういう苦労を共にしてきた母、わたし、弟、3人は今でも大の仲良しです。

記事作者:加来典誉
公開日:2022年10月23日(日)
カテゴリー:小説